2 極寒のタマ
タマは極寒の景色をぼんやりと眺めていた。
雪は白いものだと思っていたが、激しい吹雪の中では灰色か黒か、という色合いに見えるらしい。
はじめて知った。
――どこなんやろ、ここ。
首をかしげる。
隣で歯をがちがちと鳴らして震える男に目を遣った。
くすんだ金髪は、すでに雪に纏わりつかれて凍り始めていた。
「レイジさん、ここ、どこなん」
「しししし、知るか、ボケ……! 死ぬ、ここ、凍え死ぬ……!」
あたり一面、吹きすさぶ雪しか見えない。
「さっきまで、富士山見えとったのに……もっと見たかった」
「おお、おい、クソガキ! 火ィおこせ!」
くすんだ金髪の男、レイジが喚く。
タマは半目で男を見た。
「ここで死ぬんならそれまでやった、ちゅうことやろ」
「クソガキ……!」
――両手、剣やもんな。
レイジは両手首から先が刀になっているため、自分で火をおこしたりはできない。
そういう状態の男だ。
ほうっておけば、死ぬだろう。
「おお、おれがンな死に方して満足か、テメェはよ!」
「ん……」
問われて、考える。
タマの目的は『見届けること』だ。
――パパを殺したのは、こいつ。
そして。
――パパの死を願ったのは、私。
だから、見届けようと思って、着いて来た。
己の願いの結末を観測しなければならない。
そして、レイジは恋人を蘇らせるために旅をしているという。
蘇らせたうえで、恋人に殺されたいらしい。
――アタマ、おかしいんやなぁ。
隣のアタマおかしい男は、どうせ、いずれ死ぬのだ。
目的を再確認して、うなずく。
「死ぬんやったら、目的果たしてからや」
「……」
返事がない。
見れば、レイジはまぶたごと凍り始めていた。
しゃべる余裕すらないらしい。
竜の鱗を移植されたタマは、すべてのステータスにAランクの補正がかかっている。
旅のあいだに擦り切れてしまったミニスカメイド服を着ているだけなのに、寒さを感じない。
感じない、というか。
寒いとは思わない、というか。
冷たいなぁ、くらいの感想しか出ない。
「……しゃあないなぁ」
ぼやきつつ、タマは頭に生える竜の双角に力を籠める。
そして。
ぼっ!
と、タマは口から火炎を吐き出した。
火炎放射だ。
そんなスキルは持っていないが、旅の中でできるようになった。
理由は簡単で。
――竜は『火を吐くもん』やから。
それだけの話である。
現実改変能力なんて言葉は知らないが、ユウギリから移植された鱗がある。
タマが想像を現実化するのに理屈は必要ない。
できると思えば、できるのだ。
瞬間的に熱された雪が蒸発して体積が爆発的に増加し、暴風となって吹き荒れる。
タマはそんなものまったく気にせず炎を吐き続け、メートル単位で積もった雪も、その下の凍り付いた大地も、丸ごと加熱する。
結果として、ふたりは落っこちるように、湧き立つ温水プールに落っこちた。
「――今度はあっついんだよ、馬鹿かテメェは!」
レイジがびしょぬれになりながら跳ね起きて文句を言う。
タマは火炎を止めて、レイジを睨んだ。
「文句言わんといて。火力調整なんかできへんわ」
「おい、火ィ止めんな、すぐ凍っちまう! 一回濡れちまったのがヤベェ!」
「直火で水分飛ばす?」
「焼け死ねってのか、クソガキ。やっぱテメェおれを殺してえんじゃねえのか?」
「あたりまえやろ」
「ンのクソガキャ……ッ!」
ふん、と鼻を鳴らして、タマは再び火炎を吐いた。
周囲、雪が解けて崩れ、どんどん沈んでいく。
もちろん、タマもびしょぬれだ。
――すぐ乾くやろ。
見れば、レイジは湯が熱すぎるらしく、足で雪を掻いて溜まった水の温度を調整している。
タマにとっては、熱湯も積雪も大したことはないのだが、人間には厳しい環境らしい。
そう考えてから、ふと気づく。
――人間には、て。まるで、私が人間ちゃうみたいやんか。
父親に願われた通り、少しずつ竜になっているらしかった。
★マ!
週一で申し訳ない!
四月に二週目くらいから毎日に戻したいと願っております(願うだけ星人)
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