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第四章【カグヤ朝廷冬休み編/魔剣抜刀《マジックソード・ジェネレーション》】

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54 エピローグ



 マツシタさん、キオ、トモさんを送り届け、そして九州方面への安全なルートを模索するための派兵団は、つつがなく出発した。

 ダンジョンを避けての旅行だから、山中ばかりの行軍になるはずだ。

 荷物もかなり多く、厳しい旅になるだろう。

 片道だけでも一ヶ月以上を予定しているから、あの兵たちが古都に帰るのは三か月後か……あるいはもっとかかるかもしれない。

 小さくなっていく背中たちを見ていると、なんだか無性に走って追いかけたくなってしまうけれど、ぐっとこらえる。


「行ってしまわれましたね」


 ぽつりとえちち屋ちゃんがこぼした。

 マツシタさんを見送るために、聖ヤマ女村から来たのだ。

 もこもこの防寒具を着込んで、あったかそうである。


「今回の騒動は、えちち屋ちゃんがマツシタさんを連れてきてくれたのが発端だったよね」


 いろいろと大変なことがあった。

 フジワラ教授がマツシタさんの助けになって、僕は『竜種』を失ったかわりに『旅路』を得て……と、結論だけ語るのは簡単だけれど。

 こういうのは、詳細が大事なのだ。


「えちち屋ちゃんも、もっと詳しく聞きたいでしょ? 寮にこたつあるから、ゆっくり話そっか」

「おや。イコマさまのほうから誘っていただけるとは……私もダウンジャケットの下にすけすけメイド服を着て来たかいがあるというものです」

「風邪ひくぞ」


 もこもこの防寒具の下にそんなものを着ていたのか、きみは。


「すけすけメイド服はさておき、話は変わりますが」

「さておくな。ちゃんとあったかくしろ」

「久々にお会いして、驚きましたよ。マツシタさまが、多少なりとも前向きになられているのを見ると……」


 感極まるといった様子で、えちち屋ちゃんがめじりを拭った。


「古都での療養をおすすめした私の采配がすべてだった、と実感できますね。ナイス、過去の私!」

「自己評価が高すぎる……」

「しかし、私以上に褒められるべきはフジワラ教授です。どんなセラピーをおこなえば、ああいった結果になるので?」


 えちち屋ちゃんが、そばに立っていた教授を見上げる。

 教授は肩をすくめて苦笑した。


「結果論だ。精一杯やったが、いろいろとしくじって……まわりまわって、なんとかなっただけだとも。セラピーだなんて、とんでもない」

「そうですか? 僕は教授だったからこそ、マツシタさんが立ち直れたんだと思いますけど」

「イコマくんまで……まったく。ああ、そうだ」


 思い出したように教授が言う。


「イコマくん。僕、引退撤回したから。今後もよろしく頼むよ」

「……はい?」


 あまりにもあっさりと言うので思わず聞き返すと、教授は微笑んだ。


「まあ、なんだね。立ち直ったのは、彼女だけではない、と。そういう話さ」


 きびすを返して、教授はひらひらと手のひらを振る。


「きみが好きそうな、おもしろいプロジェクトも企画中だ。おそらく、着手できるのは半年よりも先になるだろうが……楽しみにしていたまえ」


 歩いて本部に戻るジャケットの背中が雄弁に語っていた。

 わくわくして、未来が楽しみで仕方ない、そういう期待感に満ち溢れている。

 まるで冒険に出かける前の子供みたいだ。

 呆れたように、えちち屋ちゃんが言う。


「……いい大人ですね、フジワラさまは」

「うん、ほんとうに。ああいう大人になりたいよねぇ」


 しみじみしていると、ふいにえちち屋ちゃんが「くちん」とくしゃみをした。

 半目で見ると、メイド服の合法ロリは頬を赤らめ、恥ずかしそうに鼻をこすった。


「私たちも、戻りましょうか」

「すけすけメイド服は禁止ね。寒いから」

「みなさまのぶんもご用意してきましたよ。カグヤさまのぶんも、ナナのぶんも」

「……外では禁止ね。寒いから」

「もちろん、マコさまのぶんもあります」


 なんというか、ふたりして煩悩まみれである。

 いい大人になる日は遠いな、と苦笑して、僕らも本部への道を歩く。


 じきに三月だ。

 気温は低いけれど、明るい太陽が古都を照らしていて、なんだか心はあったかくなる。

 この冬は、ほんとうにいろいろなことがあった。

 失ったものもあるけれど、得たもののほうがずっと大きい。

 冬って、そういう季節なのかもしれないな、と思う。

 あんまりうまくは言えないけれど、蓄えて、耐え忍んで、けれど春に芽吹くと知っているから、がんばれる。

 そんな側面が、きっとある。


 もうすぐ、冬が終わる。

 芽吹く準備は、できている。



 ●



「そういえば、あの子はどうしているんだろう」


 歩きながら、ぽつり、とつぶやく。

 アダチさんの愛娘。

 おそらくレイジと共に行動している少女。

 鱗を移植され、竜になってしまったあの子もまた、メイド服だったっけ。


 タマコちゃん、無事だといいんだけれど。




というわけで、四章はこれで終わりになります。

敵を切るためではなく、仲間を生かすための魔剣抜刀。

マジックソード・ジェネレーション。

楽しんでいただけたなら幸いです。


五章の前に断章を挟みつつ、気力がもつ限りは毎日更新を続けてまいります。

よろしければ下の★で評価、ブックマーク、いいね、レビュー、書籍版の購入(重要)などをしていただけると作者が泣いて喜びます。



以下、恒例のクソ長あとがき。


三章終わったときに「四章はアイツの話もするぜ」みたいなことを言っていましたが、いろいろ考えた結果、分割して四章、五章とすることになりました。

マツシタとキオのエピソードだけで十万文字近くあるので、この判断は正しかったと思います。

最初のプロットのまま来ていたら、四章が二十万文字超えてたかもしれない。

「冬のアイツ」「エルフ」「もうひとりの『竜種』」あたりを古都組と対比させた構造だったのですが、コレ一緒にやってたらどう足掻いてもややこしくなりすぎてましたね……。

分割してよかった。


メカクレドワーフと死体人形のアイデアを中心に据えたのは、なろう系ファンタジーのお約束である「魔道具作成」や「魔剣」や「異種族」をどう解釈するか、と悩んだ結果です。

『竜種』やスキルスロットパンパン問題に決着をつけつつ、ナナちゃんたちも強化したかったため、こういう話の展開になりました。

そのわりに魔道具あんまりクラフトしてないな。

クラフト回ってなんだ?

マツシタさんの正式合流はおそらく夏以降になるので、それ以降はばんばんいろんな道具を作ってくれる……はず!


博多は直接登場しませんでしたが、作者は一度訪れた際、めちゃくちゃ楽しんだ記憶があります。

ラーメンがめちゃくちゃ美味しかった。

また行きたいので、早くコロナ禍が明けてほしいものです。


そんなこんなで、五章は【魔弾暴発マジックバレット・アウトバースト】編です。

タイトルも四章と対になっております。

断章で冬のほのぼのエピソードを挟みますので、いましばらくお待ちくださいませ。

今後もお付き合いいただければ幸いです。


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― 新着の感想 ―
[良い点] スケスケメイド服イコマ…プロマイド絶対売れる(確信 報奨に最適!僕もほちい!
[一言] えちちやちゃんは致してたっけ……ってなった(そこかい) 魔弾暴発……なんだ!イコマくんの毎晩のことかい? HAHAHA!
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