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第四章【カグヤ朝廷冬休み編/魔剣抜刀《マジックソード・ジェネレーション》】

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51 幕間 フジワラ、決意



 残念会という名の打ち上げが終わって幹部寮に戻ると、イコマが筋トレをしていた。

 共有スペースにヨガマットを敷いて、腕立て伏せや腹筋などをハイペースでこなしている。

 何気なく眺めていると、ふいにイコマが顔をこちらに向けた。


「……あ、教授。お帰りなさい」

「ただいま、イコマくん。寮で筋トレとは珍しいね」

「ステータスの底上げになりますから。力、つけないとなんで」


 真面目な青年である。

 ちょっと、かなり、だいぶ、どうかしている部分もあるにはあるのだが。

 言動とか。


「ああ、そうだ。魔剣と酒、感謝する。ありがとう」

「いえいえ。アレ、重たいんでいい筋トレになりました」


 打ち上げ前に、魔剣を部屋に運んでもらったのだ。

 ついでに、酒も大量に複製してもらった。

 イコマも誘ったのだが、「研究員ではないから」と辞退された。


「あの魔剣、どうするんですか?」

「イコマくん、使うかね?」

「質問に質問で返すのは悪い大人ですよ。教授がどう使うか。それが大事なんだと思います」


 すこぶる、真面目な青年である。

 フジワラは嘆息した。


「僕は戦わないからね。どうしたものか、と悩んでいる」

「じゃあ料理でもどうですか。火、出ますし」

「……他人事だと思って、てきとうなことを。あくまで僕になんとかしろ、と言うのだね」


 はい、と元気な返事が返ってきて、苦笑してしまう。

 若者たちは、大人に厳しい。


「僕はもう休むよ。イコマくんも、根を詰めすぎないように。無理をするのはきみの悪癖だから」

「気をつけます。……でもあともう一セットだけ!」


 階段をあがって、部屋に入る。

 殺風景な部屋の壁に、ねじくれた魔剣が立てかけてある。


 ――飾るならば、スタンドを作らないとな。


 重量がネックだ。

 鞘もないので、いろいろと危ないし。

 ベッドに座って、魔剣を眺める。

 打ち上げの最後、マツシタには丁寧な別れのあいさつをした。

 大人らしく、しっかりしたあいさつを。

 だが、胸にしこりのようなものが残っている。


 ――僕が、マツシタくんにしてほしいこと、か。


 鉄と陶器と歯車でできた人形が、言った。

 フジワラに必要になる、と。

 ふたり(マツシタ)に必要になる、と。

 その意味を、深く考えていないのではないか。

 自問する。


 ――僕も酔っているな。


 普段ならしない想像だ。

 酔いを自覚しつつ、打ち切った想像の続きをたぐり寄せる。


 ――『旅路』とは関係なく、僕とマツシタくんのふたりに魔剣が必要となるならば。


 フジワラとマツシタの共通項がヒントだ。

 奈良の田舎の古典教授と、博多の職人娘。

 共通項があるとすれば、出会ってから、だろう。

 つまり、ふたりで取り組んでいたもの。


 ――事業。古都の電力問題。キオくんはマツシタくんの影の中で聞いていたはずだ。僕らの取り組みのすべてを。


 では、電力に関して魔剣がどんな役に立つか。

 魔剣は武器だが、どんな武器だ?

 考えるまでもなく、すとんと答えが出た。


「……『火、出ますし』か。なるほど、核心だな」


 つぶやいて、くつくつと笑う。


「そしてこれは、ある意味で……キオくんの遺言でもあるのか」


 責任をとるべきだ。

 現在を定義して、未来を提示した責任を。

 つらいこと、楽しいこと、そのふたつが連綿と続いていくのが人生だと。

 そして、マツシタは人生のつらさを知っている。

 ならば、マツシタに『未来の楽しいこと』を具体的に示すのは、フジワラの責任だ。

 深く息を吸って、吐く。

 ポケットに上から触れると、丸いリングの感触がした。


「なあ。人生は冒険だというが……僕もまだまだ、冒険すべきかな?」


 問いかけても、返事はない。

 部屋にはひとりしかいない。

 けれど、フジワラは満足そうにうなずいた。

 立ち上がり、部屋を出て階段を下りる。

 共有スペースでは、イコマが相変わらず筋トレをしていた。


「イコマくん、ちょっといいかね」

「あれ、まだ起きていたんですか。……どうしたんです?」

「明日、手伝ってほしいことがあるのだが」


 古都の英雄は、にへら、と笑った。


「もちろん、いいですよ」




★マ!


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応援していただいたみなさまのおかげで紙の本になりました!

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― 新着の感想 ―
[一言] 火力発電か、鉄板焼きか。 それが問題だ(_’
[一言] 教授の心に火が灯った!
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