48 弱体化
『竜種』による竜化は解決できた。
が、別の問題が残った。
「イコマさんの弱体化は、問題ですよね。いろいろと」
タンバくんが思案顔で言った。
忍者部隊と一緒に見回り中だ。
ひとまずいろんな部隊に参加して、可能な限りの将兵と『旅路』を共有するつもりだ。
もっとも、ちゃんと絆を繋いでいないといけないので、タンバくんくらい親しい相手でぎりぎりだけれど。
いまのところ、幹部は全員に『旅路』が発現しているけれど、ほかにはまだ広まっていない。
親しさが可視化されたようで、少し気恥ずかしくて、とても誇らしい。
タンバくんから忍者部隊に『旅路』の共有が為されれば、忍者たちは経験次第でほんとうの『忍術』使いになれるだろう。
カグヤ先輩の配下、農耕に参加している農官たちや、レンカちゃんの配下の文官たちにも広まってくれれば、さまざまな作業がどんどん効率化していくはずだ。
ただ、僕が結果的に『竜種』『傷舐め』『統率』『粘液魔法』『幻覚魔法』の五つを失って、現在『複製』と『旅路』しか持っていないことは、大きな問題だと考えている。
「でも、弱体化したけど、後悔はしていないよ」
「でも『傷舐め』も失ったじゃないですか。もう理由をつけてぺろぺろできなくなってしまったのですよ?」
「ははは、タンバくん。逆に考えるんだ。理由がなくてもぺろぺろしていいじゃないか、と」
「よくないですが」
タンバくんが半目で僕を見て、ため息を吐いた。
すかさず部下たちが少年忍者の周囲にするりと絡みつく。
「隊長、私のことも理由なくぺろぺろしていいですよ」「隊長、おねーさんは隊長のコトをぺろぺろしちゃっていいですか?」「隊長、中学生でこのモテ方はずるいっす」
相変わらずだな。
この慕われ方なら、タンバくん経由で『旅路』が伝播するのも早いだろう。
「あ、そうだ。タンバくん、『忍術』をコピーさせてくれないかな」
「え? ああ、いまはスロットが余っているんですね」
どうぞ、と差し出された手を握って『複製』を行使。
『忍術:B』を獲得する。よし。
「鍛え直す必要があるからさ。『旅路』でのスキル獲得のためにも、いろんな経験を積みたくて」
「では、しばらくは修行ですね。お付き合いしますよ」
「そうなるね。春から、関西一円の未攻略ダンジョンを攻めたいし、がんばらないと」
さっきは茶化したけれど、『傷舐め』の喪失が痛い。
Aランクの治療スキルを失ったのだ。
代替となる治療スキルを『旅路』で獲得したいところだけれど、まだ今まで使えていた魔法の初歩スキル程度しか使えない。
手からちょろっと粘液を出したり、影をもぞっと動かしたり。
「『複製』でコピーしたスキルでも、使い込めば経験として残るからね。とにかくいろんな技術系スキルを使いまくるつもり」
「……なんやかんや、ずるいですよね、イコマさん」
否定はしない。
弱体化はしたけれど、努力次第で今まで以上に強くなれる――そういう状態なので、悲観はしない。
ステータス補正系はすべてBランクのままだし。
「攻略再開まであと二か月。がんばって鍛えないとね!」
「お手伝いしますよ、イコマさん。組手でもなんでも」
タンバくんがにっこりと笑った。
「弱体化イコマさんならボコボコにできそうだな、とか思っていませんので、安心してくださいね」
「……もしかして、京都で僕に負けたの、ちょっと根に持ってる?」
少年忍者はにっこり笑ったまま、腰の短刀の柄を撫でた。
え。こわ。
「話は変わりますが、『旅路』のおかげで僕も修行に身が入りますね。特にパワーとタフネスが僕の課題なので」
「いま話をそらさないでほしかったな……」
仕方ない。ボコボコにされるとしよう。
組手は実力が拮抗しているか、相手が強いくらいがちょうどいいのだ。
拮抗しているふたりは、今日も道場にいるみたいだし。
「ナナちゃんもヤカモチちゃんも、修行に一層身が入っているみたいだよ」
「負けていられませんね、僕らも」
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「『旅路』によって、努力は報われるようになった。つまり、いま豊胸ストレッチをがんばればサイズが上がる……ッ!」
「イコマっちががんばって作ったスキルで、道場貸し切ってまでやることがそれかぁ」
「うるさい! 持っている人間にはわからないの! 持たざる人間の悲哀が! でかくなったほうが結果的にお兄さんも喜ぶでしょ!」
「喜ぶ……。じゃ、じゃあアタシもストレッチやろっかな……?」
「ヤカモチ、まさかそれ以上を目指すというの!? 上昇志向の塊! 私は気持ちですでに負けていたってこと……!?」
「……ストレッチ終わったら組手だからね。お兄さんのぶんまで強くなるんだ」
「もち。全力でやるし」
★マ!
なお『旅路』で得たスキルは『旅路』内に残るので、スキルスロットは圧迫しません。
努力次第で自分好みにカスタマイズできる複合スキルって感じです。




