47 分かち合う
まずは鱗の確認。
いつの間にか十枚以上に増えていた鱗は、どこかすすけた質感になっていて、触るとぽろりと抜け落ちた。
ぎょっとしたけれど、鱗があったところにすべすべした皮膚が見えて、安堵する。
僕の中にはもう竜はいない。
そういう確信がある。
「それで、お兄さん。『竜種』を別のものにする、ってことしか決まってなかったけど、結局どういうスキルになったの?」
ナナちゃんが首をかしげた。
僕は笑って、彼女の手を取る。
逆の手でカグヤ先輩の手も。
とても温かくて、どうしてか、そんなことがとても嬉しい。
「急に触るなんて、お兄さん大胆なんだから。……あれ?」
「いっくん、おてて冷たいよぅ。……え?」
ふたりが首をかしげた。
「……いっくん、なにかした?」
「なんか、不思議な感覚があったんだけど」
「僕の作った『旅路』は複合スキルで……」
スキル名は『旅路』で、ランクはA。
『竜種:B』と『影式:A』をもとにして作り上げた。
その主な効果は。
「過程を省略しないスキル。経験を積み、努力を重ねれば、技術が手に着く……そういうスキルだよ」
「……え? それあたりまえじゃないの?」
ナナちゃんがさらに首をひねった。
うん。そう、とうぜんのことである。
才能や努力の差はあるだろうけれど、手を伸ばせば、いつか指先が届く。
そんなの当たり前だ。
けれど、当たり前じゃないと思わされていた。
カグヤ先輩はなにかに気づいたのか、目も口も丸くして僕を見た。
「いっくん。それ、もしかして……努力次第で、後天的にスキルを獲得できるスキル、ってこと?」
さすがに鋭い。
ナナちゃんもびっくり顔で固まった。
「そうです。ただ、竜王の作ったスキルシステムに乗っかっているので、現実そのまま努力が報われるスキルではないですけど。『旅路』を持つ者は、努力と才覚と経験に応じてスキルが覚醒し、成長していく。そういう仕組みです」
「……すごい! お兄さん、すごい! 努力次第で、いろんな魔法も使えるようになるんだね!」
うん、とうなずく。
それだけじゃない。
「『旅路』の最大の特徴は、そこじゃないんです。ふたりとも、自分のスキルを確認してみてくれる?」
一瞬きょとんとしてから、ふたりともすぐに気づいた。
「わ――私も『旅路』持ってるんだけどっ!? ランクはBだけど、あるよ!?」
「私もあるよぅっ? どういうこと?」
そう。
これが『旅路』の……僕が思う人類の強み。
みんなと一緒に歩いていけること。
「手をつないだときに、共有しました。『旅路』は魂の根底で深く縁を繋いだ相手となら、共有できるんです。もちろん、ランクや内容はそれぞれが歩んできた過程次第ですけど」
たとえば、僕の『旅路:A』はステータス補正が各種B相当と、各種魔法の基礎的な扱い方がぼんやりわかるとか、その程度だ。
僕個人で見れば、弱体化していると言っていい。
でも、僕はひとりじゃない。
みんなと一緒に歩いていけるほうが、ずっといい。
カグヤ先輩はしばらく呆然としてから、僕をまっすぐ見つめた。
「……ありがとう、いっくん」
「ええ。便利なスキルだから、先輩のお役にも立つと思います」
「そうじゃなくて」
先輩は僕の手を両手で包み込んだ。
「私たちと、深くつながってくれたこと。信じてくれて、頼ってくれて、助けてくれて、助けられてくれて……私は、いっくんとそういう関係でいられることが、とっても嬉しいよぅ。だから、ありがとう、だよぅ」
道場の窓から、白い光が差し込む。
夜が白んできたらしい。
「だいすきだよ、いっくん」
「先輩……!」
ぎゅ、と僕の逆の手も握りしめられた。
ナナちゃんだ。
「私もお兄さんだいすき!」
満面の笑みで告げられる。
僕もまた、釣られて笑った。
「僕も、ふたりのことが……みんなのことが、だいすきだよ」
★マ!
やっとナナちゃんたちに新スキルをあげられた……!




