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第四章【カグヤ朝廷冬休み編/魔剣抜刀《マジックソード・ジェネレーション》】

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46 『旅路』



 翌週の深夜、僕は道場にいた。

 冷たい二月の空気が畳の上に積み重なっているようで、吐く息も白い。


「それじゃ……始めます」

「がんばってね、いっくん」

「無理は禁物だよ、お兄さん」


 ん、と返事をする。

 カグヤ先輩とナナちゃんのふたりにお願いして、ついてきてもらった。

 ふたりがいれば、僕のやりたいこともきっとうまく行くと思うから。

 ちなみに、僕は道着だけれど、彼女たちはちゃんと防寒着。

 寒いので、はやめに終わらせたいところだ。

 氷のように冷え切った畳の上に正座して、目を閉じる。

 瞑想。

 『竜種』を起動し、自分の内部に手を伸ばす。

 大切なのはイメージだ。

 現実を改変するために、想像を具現化するために。

 思い出そう。

 僕らの歩んできた道を。


 教授は言った。

 スキルとは『人類がいずれ辿り着く結果を先取りするもの』だと。

 過程を省略して結果だけを導き出す究極の効率化。

 人類の進歩とは、ある意味で効率化の歴史と言い換えられる。

 往古、人類は知恵を得た。

 それがリンゴを食べたせいなのかは知らないけれど、知恵を得てしまった。

 狩猟採集から農耕牧畜へ。

 炎を操り、器用な指先で道具を作り、自然の中に超常の存在()を見出して宗教を生み、歴史を積み重ねるうちに科学を発展させ、しまいには自ら見出した神すら否定し始める始末。

 いろいろなものがはじまって、終わって、けれど繋がっている。


 ゆえに、僕はこうも思うのだ。

 人類の進歩とは、すべて過程である、と。

 終わりのない道程。

 進み続ける旅路。

 歩みそのもの。

 ――ここまできた。

 ――もっと先へ往こう。

 その繰り返しが、今日の僕らを形作っている。

 ならば、僕はこう思う。

 竜が省略してしまった過程こそが、人類なのだ、と。


「『竜種:B』及び『影式(シャドウ):A』を材料に、スキルを創作――」


 つぶやく。

 システムに縛られた人間を、竜のくびきから解き放つ。

 ……なんて、見栄を張るには、まだまだ力が足りないけれど。

 ほんの少し、ごまかすだけなら、持ち前の小器用さでなんとかしてみせる。

 己の内部、魂の輪郭にそっと触れる。

 僕の魂は、僕だけのものではないと、確信する。

 感じる。

 息づいている。

 カグヤ先輩がいる。

 ナナちゃんがいる。

 レンカちゃんが、ヤカモチちゃんが、ミワ先輩が、アキちゃんが、フジワラ教授が、タンバくんが、クキさんが、日記さんが、アダチさんが、タマコちゃんが、ドウマンが、ユウギリが、もちろん父さんや母さんや……レイジやヨシノちゃんですら、いる。

 顔を合わせ、言葉を交わし、仲良くなったり、対立したり、そうやって繋いできた絆の数々。

 良縁も悪縁も、すべてが過ぎ去って僕という存在を確立させている。

 僕を作ってきた過程たち。

 僕を作っていく過程たち。

 省略してしまったら、それは僕ではないなにかになってしまう。

 もっと深く、魂を覗き込む。

 ぱきぱきと全身から音が鳴る。

 鱗が生えているらしい。

 けれど、それでいい。

 鱗すら過程(材料)にして、僕は進む。


 どれくらいの時間が経っただろうか。

 薄くまぶたを持ち上げると、心配そうに僕を見る顔がふたつあった。

 カグヤ先輩とナナちゃん。

 大切な縁。

 きっと、彼女たちの中にも僕がいて、彼女たちを作り上げる一部になっている。


「――完成しました。僕らのスキルが」


 は、と息を吐き、告げる。

 ふたりは目を細めて微笑んだ。


「お疲れさまだよぅ、いっくん。よくがんばったね」

「汗びっしょりだよ。タオルいる?」


 ありがとう、と言って受け取る。


「名前はどうしたの?」

「あんまり気取りすぎてもよくないから、シンプルなのにしたよ」

「それがいいよぅ。いっくん、ネーミングセンスがちょっと……うん」

「先輩まで僕のネーミングセンスをいじる……」


 顔を拭きながら嘆息する。

 今回は不評じゃないといいけれど。


「スキル名は『旅路』っていうの。どうかな?」


 おそるおそる問いかけると、ふたりは目を丸くしてから、ふっとほころぶように笑った。


「とってもいいと思うよぅ」

「うん。お兄さんらしい、いい名前だね」


 ほっとする。

 大事なスキルになるだろうから。

 これは、弱い僕らが助け合って生きていくためのスキルだ。

 学び合い、高め合い、分かち合う。

 そんな「あたりまえ」を具現化したモノ。

 簡単にいえば、過程を省略しないスキルだ。




★マ!



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― 新着の感想 ―
[一言] 過程を省略しない…つまり マコ様(女装済み))「僕は後2回変身を残している…その意味がわかるな?」ってこと?
[一言] これでどうにかできた……のか?
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