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第四章【カグヤ朝廷冬休み編/魔剣抜刀《マジックソード・ジェネレーション》】

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43 幕間 マツシタ、コーヒーを飲みながら



 研究本部のテントには、三つの人影があった。

 ふつうのもの、小さいもの、そして巨大なもの。

 そのうち、小さいものがぽつりとつぶやいた。


「……恋人がい、ます」


 マツシタは両手でコーヒーのマグカップを包み込む。

 すべすべした陶器の手触りに、じんわりと温度が染みる。

 マツシタのとなりで、キオもまたコーヒーカップを持っていた。

 飲む機能はないが、フジワラが淹れてくれた。

 香りも味も感じられない人形だが、カップを持っていると、不思議と大人しい。

 赤い両眼の光を弱めて、じっと黒い水面を見つめている。


 ――もう、暴れない、よね。


 古都の英雄たちとフジワラの助力によって、マツシタは生きている。

 死ぬ気は、もうない。

 けれど、だ。


「無理をしなくていいんだよ、マツシタくん」


 フジワラの言葉に、一度だけ深く呼吸を入れて、首を横に振る。

 自分でもわかっている。

 話さないといけないことが、たくさんあるのだと。

 文句も、感謝も。言葉にしなければ、伝わらない。

 マツシタ自らが作ったソファに、小さな体が重たく沈み込む。


「失いま、した。ダンジョン、で。恋人と、家族と、仲間たちを。ご存知の通り、ですが。みんな、キオの中に、いま、す。ジブン、が、そうしま、した」


 どくどくと心臓が鳴る。

 マツシタはマグカップをぎゅっと握りしめて、一口、喉に流し込む。

 香りと苦みが喉に届いて、目の奥がちかちかする。

 黒い液体ごと苦しさを呑み込んで、前髪ごしにフジワラをまっすぐ見つめた。


「恋人のお母さんに。トモさんに、言われま、した。『あなたのせいで息子が死んだ』と」


 言われた、というか。

 怒鳴られた、と言ったほうが正しいかもしれない。

 嗚咽と号泣、涙交じりの怒声と罵声。

 今でも思い出す。

 悲しみと怒りを湛えた、あの瞳を。


「マツシタくん……」

「わかってい、ます。ぜんぶが、ジブンのせいじゃ、ない。これは思い込みだ、って。でも」


 でも、だ。


「実際、ジブンがもっといい武器を打ってい、れば。話は変わってい、たはず、です」


 マツシタは隣の巨体を見上げた。

 ベストは尽くした。

 けれど、失ってしまったものもあって。

 これから失われるものもあって。

 それらは一度失ってしまえば、二度と帰ってこないものだ。

 目をそらしてはいけない。


「ごめん、ね。みんな。ごめん、ごめんな、さい」

『ちちちちがう。せおわせた。ごごごめん、なさい。おれたちと、ぼくたちと、わたしたち、が、せおわせた』

「キオ……」

『だから』


 キオはカップをテーブルに置いた。


『おわらせよう。いくべきところに、いくときがきた』


 マツシタが小さく息を呑み、ややあってからうなずいた。


「うん。終わらせ、よう」


 老教授が目を伏せた。


「マツシタくん……それに、キオくんも。いいのかね?」


 上体を低くして、巨体が頭を下げる。


『おおおねがいししします』

「……わかった。僕はなにをすればいい?」


 ちらり、とキオがマツシタを見た。

 マツシタもまた、決意に満ちた視線を前髪越しに送る。


 ――そうだ、よね。最期にす、ること。


 生きていないとできないこと。


『わわ、わかれ、を』

「わかった。ひとまず、トモさんと会えるようセッティングしよう。旅支度も必要だろうし」

「ジブンも、会い、ます」


 フジワラが不安そうな顔になったので、マツシタは慌てて付け加えた。


「……会いたい、です。ジブンから、そう思い、ます」


 ぎゅっと唇を結んで言うと、フジワラが微笑んだ。


「無理は禁物だよ」


 はい、とうなずく。

 ふと、キオが両眼を輝かせた。


『そそそそれから、ここここれをを』


 ずるりとキオが影から引き抜いたのは、一本の魔剣だ。

 捻じれた刀身がぎらりと輝く。


『わわわたします。おれたちの、そそ、そういです』

「総意。そうか。ならば……イコマくんに渡せばいいのかね?」

『ちちちちちがう』


 キオが首を振って、巨大な武器をそっとフジワラのデスクに置いた。

 重量でぎしりとデスクが軋む。


『あなあなななた、あなた、きょうじゅ、ふじわらさん、に』

「僕にかい? 僕には、とうてい使いこなせそうにないが……」

『ひひひつよう、ひつよう』

「キオ? フジワラさんは、戦士ではない、んだよ?」


 首をかしげるマツシタとフジワラに、キオが赤い両眼をぱちぱちと点滅させた。

 笑っているようにも見える。


『ふふ、ふたり、に。ひつよう』




★マ!


魔剣士初老フジワラ爆誕!(しません)

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[一言] 二人に必要……うーん分からん。キャンドルサービス点火用かなw
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