42 どうする会議
掛け値なしに、ほんとうに、どうしようもなく、困ったことになった。
ユウギリの診断結果を朝廷本部に持って帰ると、緊急会議が開かれた。
議題はもちろん、僕の竜化について。
会議室にはカグヤ先輩、ナナちゃん、レンカちゃん、ミワ先輩、護衛のヤカモチちゃんとアキちゃん、タンバくんがそろっている。
「いっくんがダンジョン攻略に参加できなくなるのは、困るね」
とカグヤ先輩が眉を寄せて呟いたあと、少し笑う。
「……でも、いっくんが危険なところに行かなくて、ずっと古都で一緒にいてくれるかもしれないのは、ちょっとだけ嬉しいなって思っちゃうよぅ。女王らしくないかな」
「カグヤ先輩らしくていいと思います」
「あの、おふたり? いちゃついている場合ではありませんのよ」
レンカちゃんが、こほん、と咳ばらいをした。
「いいですの? 『まあ三枚くらいなら大丈夫でしょう』と昨夜いっぱい楽しんだ手前、こんなことを言うのはなんですけれど。現状、イコマさまを竜王にネトラレたようなものですのよ?」
「その例え方やめない?」
「竜王許せない。ぜったい殺す」
「ナナちゃんもいきりたたないで」
殺気が怖いんだよ。
ただのたとえ話だから安心してほしい。
「でもネトラレってなんか興奮しますよね」
「アキちゃん? 急にどうしたの?」
「アキは出番が少ないからな。欲求不満なんだろ」
はん、とミワ先輩が鼻を鳴らす。
「イコマがダンジョン攻略に参加できなくなるのはたしかに困るが、困るだけだ。練度の高い軍隊と竜に対抗できる武器さえあれば、英雄級の戦士がいなくたって攻略は可能だろ。ウチが思うに、竜化の問題はふたつある」
ドレッドヘアの先端をいじって、苛立たし気に言った。
「ひとつ。『竜を殺せない』って縛りが、どこまで有効なのか、だ。例えば、イコマが竜を殺すために武器を『複製』で量産する行為。これもまた『竜を害する』行為であるはずだが、これも不可能なのか? 解釈によっちゃ、ウチらと一緒にいることすら縛られるが」
「たぶん、問題ないと思います。限りなく弱体化しているとはいえ、ユウギリが古都に住んで、僕らに協力しているわけですし。いまのところは『複製』も使えています」
「そうだな。いまのところは、だ。おいイコマ、ひとつ質問するぞ」
ミワ先輩が僕を睨みつけた。
「たとえばウチらの中のだれかが大怪我をして、医療も足りず、手持ちのスキルで対処できない場合、オマエはまた『竜種』を使うか?」
「使います」
断言する。
助けられるなら、使う。
ミワ先輩がものすごく不機嫌そうに顔をしかめた。
「それだよ。それが問題だ。怪我をしたのがウチら以外であっても、オマエは使っちまう。見ず知らずの相手でも、助けられそうなら助けちまう。今後、攻略や再開拓の中で、同じような事態は必ず起こるだろう。そのたびにオマエの竜化が進行する……これがふたつめの問題。イコマ、オマエが自制心のない底抜けのお人好しだってことだ」
「……僕だって、自制心くらいはありますよ?」
全員が半目で僕を見て、一斉にため息を吐いた。
「な、なんだよ! みんな、そんな顔で!」
「自覚あるでしょ、いっくん。焦るとあるものぜんぶ使っちゃう癖あるって。私が刺されたとき、魔石何個割ったっけ」
「ぐ。で、でもあれは仕方なかったですし……」
「お兄さん、京都で私が霧の中に取り残されたときも、みんなの制止振り切ってひとりで突っ込んできたんだよね、たしか」
「ぬ。い、いや、あれも仕方なかったから……」
カグヤ先輩が困り顔で頬を掻いた。
「もちろん、助けてくれたのは、とっても嬉しいよぅ。一生かかっても返せない恩だし、私はいっくんのそういうところが大好き。でもね、いっくん。今回みたいな事態もあるから。ね?」
「……はい。気をつけます」
とても心配そうな顔で言われると、ぐうの音も出ない。
レンカちゃんが顎に指を当てた。
「ま、いまここで反省したところで、どうせイコマさまは他人のために暴走しますから、先んじて手を打つべきですわね」
「どうせってなんだ、どうせって」
否定しきれないのが悲しい。
「いっそ、『竜種』を消してしまうのはいかがでしょうか。『複製』で得たスキルは、たしか消せるはずでは?」
「あ、なるほど! その手があったね!」
もったいない気もするけれど、『竜種』を消し――あれ?
「消せないんだけど。なんか、弾かれるっていうか」
ランクの問題か、あるいは『竜種』が僕に鱗として定着してしまったからか?
わからないけれど、消せない。
「ドウマンめ。お兄さんに変な呪い残しやがって」
「さすがは呪竜ですわね」
「ほかの手段考えるしかないよぅ」
どうしよう、とみんなで首をひねるも、なにも出てこない。
うーん。
会議室に少し沈黙が漂ったあと、ふとミワ先輩がレンカちゃんに声をかけた。
「そういや、フジワラ教授はいねえのか。幹部会議だってのに」
「しばらくは向こう優先でいいと伝えておりますの。昨日の今日ですもの」
「……ああ、そうだよな。わりぃ、水差した」
教授たちも大変だろうな、と思う。
キオのこと、トモさんのこと、パニック、暴走、自殺未遂といろいろあったけれど。
「あっちも、別に問題が解決したわけじゃねえもんな」
★マ!




