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第四章【カグヤ朝廷冬休み編/魔剣抜刀《マジックソード・ジェネレーション》】

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33 『影魔法』



 両手をあわせる。

 いままで『複製』なんかでは両手のあいだの空気を爆増させたりして来たけれど、『影魔法』もまた、両手のあいだに生まれた「自分の影」を利用できるのだ。

 僕の戦闘態勢、合掌のポーズが多めだな。

 手のひらから、ずるり、と次の武器を取り出す


「じゃん。短刀です。タンバくんのを『複製』しといたんだよね」

『ぐ、がが、ぎ』


 がりがりと関節を軋ませて、キオが僕に向かって踏み出す。

 魔剣が纏う炎のせいで、近づくと肌がひりひりする。

 『傷舐め』『粘液魔法』『複製』の三種類を複合発動して、回復ローションを瞬時に量産。

 軍服ワンピースごとぬるぬるにして、全身をカバー。

 冬なのでめちゃくちゃ冷たいけれど、火傷するよりは風邪引くほうがマシだ。


『がっ』


 唸りを上げて、魔剣が横薙ぎに振り回される。

 握りこんだ短剣を『複製』して二刀流に変更。

 交叉させた短剣で、あえて近距離で魔剣を受ける。


「ほっ……!」


 パワーで吹き飛ばされそうになる体を必死に制御して、身をかがめながら受け流す。

 しゅう、と音を立てて、両手のローションが白い湯気になって立ち上る。

 ……めちゃくちゃ熱い!

 暴走状態、おそらくキオにとっても本気の火力。

 近くにいるだけでローションが蒸発するほどの、圧倒的熱量。

 でも、狙い通りインファイトの距離だ。


『むむむだむだむだ……!』


 ぐりんッ、とキオの肘関節が回る。

 人体では不可能な方向、逆向きに折れ曲がった右腕が、キオの足元にいる僕めがけて魔剣を叩きつけ――られなかった。

 僕の肩をかすめて、炎を纏った魔剣が地面にぶち当たる。

 狙いがズレたのだ。


『だだ、む……!?』


 キオが困惑の唸りを上げて、赤い両眼で足元を見る。

 鉄と陶器と歯車で作られた片足が、地面にずぶりと沈んでいた。


『ぎ、がッ……!?』


 驚愕するキオ。

 そうだよね。

 だっていま、きみは『影魔法』を使っていないんだから。


「ようこそ、僕の影へ……!」


 地面に突き立てられた魔剣も沈む。

 慌てて影の外の地面に伸ばされたキオの両腕を双剣ではじく。

 逃がさない。

 ずるり、ともう一度、装甲盾を取り出して、キオの真上で複製……の、連打。

 ごごごがんがんがんッ、と戦車級の超重量がキオにのしかかり、ずぶずぶと影へと沈めていく。

 Aランク相当のパワーがあっても、大量の装甲盾が重なれば、厳しいだろう。

 『影魔法』は自分の影に非生物を収納するスキル。

 術者にしか収納できず、術者にしか取り出せない。


 つまり、僕が僕の影に入れたものは、僕にしか取り出せない。


 キオは人形である利点を最大限に活かして「自分で自分を収納」していた。

 逆説的にいえば、キオは「影魔法で収納できてしまう」のだ。

 僕の影に無理やりねじ込んで封印すれば、おそらくキオは出てこられない。

 しばらくは影の中で頭を冷やしてもらうとしよう。

 数十秒後、キオの体が完全に影に沈んで収納できたと、感覚で理解する。

 両ひざに手を付いて息を吐く。

 ふう。かなりの激戦だった。

 顔を上げると、タンバくんが音もなく積み重ねた装甲盾の上に立っていた。

 ちょっとびびる。さすが忍者。


「三人は?」

「避難させました。廃墟の火災には、消火班が当たっています。あまり箇所も多くないので、イコマさんのお手伝いは不要かと」

「了解。いやー、疲れた」


 ひらひら手を振って笑うと、タンバくんがびしっと敬礼した。


「さすがの戦闘、お見事でした」

「うん。全身ローション塗れになっちゃったよ。いつものことだけど。見てほら、タイツが濡れ濡れで張り付いちゃった。……なんで目をつむるの?」


 僕の疑問を無視して、タンバくんは目を閉じたまま僕の影を指さした。


「キオさんも『影魔法』の使い手ですよね。出てくるのでは」

「だいじょうぶ。僕のほうがランク高いから」


 コピーした『影魔法』のランクはB。

 キオが所持していたオリジナルの『影魔法』はCランクだった。

 魔力の総量、MP(マジックポイント)的な部分でいえば、キオのほうが多そうな気配はあるけれど、魔法の影響力では僕に軍配が上がる。

 それに。


「たぶん、キオは出てこないよ」

「なぜです?」

「戦闘中、僕がインファイト挑んだとき、キオは『むだ』って言ったんだ。『関節が逆に曲がるからふところに入っても無駄』って意味だろうけど」


 タンバくんが目を丸くした。

 うん。そうなのだ。

 戦闘行為を介したコミュニケーションが成立していたのである。


「たぶん、戦闘に夢中になるうちに、暴走状態を脱していたんじゃないかな」




★マ!


毎日更新、2022年1月は走りきりました!

2022年2月も頑張ります!

そして、2月は書籍版第一巻の発売月でもあります!

マコちゃんのイラストもあります!

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よろしくお願いいたします!


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― 新着の感想 ―
[一言] ああ、言葉になってる?と思ったけどそういうことかぁ。 軍服タイツ美男の娘ローションまみれとか…… だから!軽々に性癖歪めさせんなって言ってんだろ! ゴチになります!w
[一言] キオがマコ様の影にしばらく引きこもってたらマツシタどうなるのかな?
感想一覧
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