33 『影魔法』
両手をあわせる。
いままで『複製』なんかでは両手のあいだの空気を爆増させたりして来たけれど、『影魔法』もまた、両手のあいだに生まれた「自分の影」を利用できるのだ。
僕の戦闘態勢、合掌のポーズが多めだな。
手のひらから、ずるり、と次の武器を取り出す
「じゃん。短刀です。タンバくんのを『複製』しといたんだよね」
『ぐ、がが、ぎ』
がりがりと関節を軋ませて、キオが僕に向かって踏み出す。
魔剣が纏う炎のせいで、近づくと肌がひりひりする。
『傷舐め』『粘液魔法』『複製』の三種類を複合発動して、回復ローションを瞬時に量産。
軍服ワンピースごとぬるぬるにして、全身をカバー。
冬なのでめちゃくちゃ冷たいけれど、火傷するよりは風邪引くほうがマシだ。
『がっ』
唸りを上げて、魔剣が横薙ぎに振り回される。
握りこんだ短剣を『複製』して二刀流に変更。
交叉させた短剣で、あえて近距離で魔剣を受ける。
「ほっ……!」
パワーで吹き飛ばされそうになる体を必死に制御して、身をかがめながら受け流す。
しゅう、と音を立てて、両手のローションが白い湯気になって立ち上る。
……めちゃくちゃ熱い!
暴走状態、おそらくキオにとっても本気の火力。
近くにいるだけでローションが蒸発するほどの、圧倒的熱量。
でも、狙い通りインファイトの距離だ。
『むむむだむだむだ……!』
ぐりんッ、とキオの肘関節が回る。
人体では不可能な方向、逆向きに折れ曲がった右腕が、キオの足元にいる僕めがけて魔剣を叩きつけ――られなかった。
僕の肩をかすめて、炎を纏った魔剣が地面にぶち当たる。
狙いがズレたのだ。
『だだ、む……!?』
キオが困惑の唸りを上げて、赤い両眼で足元を見る。
鉄と陶器と歯車で作られた片足が、地面にずぶりと沈んでいた。
『ぎ、がッ……!?』
驚愕するキオ。
そうだよね。
だっていま、きみは『影魔法』を使っていないんだから。
「ようこそ、僕の影へ……!」
地面に突き立てられた魔剣も沈む。
慌てて影の外の地面に伸ばされたキオの両腕を双剣ではじく。
逃がさない。
ずるり、ともう一度、装甲盾を取り出して、キオの真上で複製……の、連打。
ごごごがんがんがんッ、と戦車級の超重量がキオにのしかかり、ずぶずぶと影へと沈めていく。
Aランク相当のパワーがあっても、大量の装甲盾が重なれば、厳しいだろう。
『影魔法』は自分の影に非生物を収納するスキル。
術者にしか収納できず、術者にしか取り出せない。
つまり、僕が僕の影に入れたものは、僕にしか取り出せない。
キオは人形である利点を最大限に活かして「自分で自分を収納」していた。
逆説的にいえば、キオは「影魔法で収納できてしまう」のだ。
僕の影に無理やりねじ込んで封印すれば、おそらくキオは出てこられない。
しばらくは影の中で頭を冷やしてもらうとしよう。
数十秒後、キオの体が完全に影に沈んで収納できたと、感覚で理解する。
両ひざに手を付いて息を吐く。
ふう。かなりの激戦だった。
顔を上げると、タンバくんが音もなく積み重ねた装甲盾の上に立っていた。
ちょっとびびる。さすが忍者。
「三人は?」
「避難させました。廃墟の火災には、消火班が当たっています。あまり箇所も多くないので、イコマさんのお手伝いは不要かと」
「了解。いやー、疲れた」
ひらひら手を振って笑うと、タンバくんがびしっと敬礼した。
「さすがの戦闘、お見事でした」
「うん。全身ローション塗れになっちゃったよ。いつものことだけど。見てほら、タイツが濡れ濡れで張り付いちゃった。……なんで目をつむるの?」
僕の疑問を無視して、タンバくんは目を閉じたまま僕の影を指さした。
「キオさんも『影魔法』の使い手ですよね。出てくるのでは」
「だいじょうぶ。僕のほうがランク高いから」
コピーした『影魔法』のランクはB。
キオが所持していたオリジナルの『影魔法』はCランクだった。
魔力の総量、MP的な部分でいえば、キオのほうが多そうな気配はあるけれど、魔法の影響力では僕に軍配が上がる。
それに。
「たぶん、キオは出てこないよ」
「なぜです?」
「戦闘中、僕がインファイト挑んだとき、キオは『むだ』って言ったんだ。『関節が逆に曲がるからふところに入っても無駄』って意味だろうけど」
タンバくんが目を丸くした。
うん。そうなのだ。
戦闘行為を介したコミュニケーションが成立していたのである。
「たぶん、戦闘に夢中になるうちに、暴走状態を脱していたんじゃないかな」
★マ!
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