20 到着、聖ヤマ女村
サクサクと旧国道を進む。
一人旅ならモンスターは迂回して進むけれど、今日はナナちゃんがいる。
『スピード強化:B』と『薙刀術:B』を持つ彼女の戦闘力は、やはり規格外だ。
レイジに匹敵するだろう。
「いや、コレはお兄さんのおかげだよ!」
と、ナナちゃんは少しテンション高めに言う。
二メートル超の尻尾を鞭のように扱う猿型モンスター、ウィップヒップに長槍ヤソウマキ改・レプリカを叩き込んだ直後だけど、疲れた様子はない。
「あのね、基本的に武器って『消耗品』なんだよ。
でも、一人の人間が持てる武器の数なんて高が知れてるじゃない?
だから、上手い人ほど一本の武器を長持ちさせられて、一番長く戦場に立ち続けられる。
だけど……その槍は違うじゃん」
ナナちゃんは僕の手に目をやった。
刃先まで含めて約三メートルの武装。
長槍ヤソウマキ改・オリジナル。
ナナちゃんが戦闘で扱うのは『複製』で生み出した模造品だ。
「ああ、そっか。僕のは使い捨てだもんね。丁寧に扱う必要もないし」
「そういうこと。
骨格削っての心臓狙い。
あるいは頭蓋を砕いて脳狙い。
どちらも必殺攻撃だけど刃こぼれは覚悟しないといけないし、骨に突き刺さった得物を引き抜けなくなると『その次の戦闘』は武器無しで戦わないといけなくなる。
上手に戦った場合でも、脂肪や血肉が武器の切れ味を鈍らせるから、一戦ごとに立ち止まってメンテナンスする必要があるの。
普通の旅であれば――だけど」
僕らは一戦ごとに怪我等がないかのチェックはするけど、武器のメンテナンスを行うことはない。
レプリカはその辺に捨てていくし、オリジナルは無傷だ。
「そして、最初から使い捨て前提なら『武器を捨てた攻撃』ができる。
普通なら『最後の一撃』覚悟の攻撃が使い放題だもん。
弱いわけないよ」
「ははあ、それは凄いなぁ」
「すごいのはお兄さんだって話だよ?
なんで他人事みたいに言うの」
呆れたように言われるけれど、自分ではあまり自覚がない。
僕自身の武器術はどう足掻いてもCランク止まりだし、武器術スキルを複製していない場合、それ以下の手習いレベルにまで落ちる。
達人なら五十人斬れる刀であっても、僕は二、三人斬っただけでダメにしてしまう。
だからこそ、刀の方を増やして対応するしかないだけなのだ。
「ナナちゃんの場合、達人が無限の刀を得た状態といえるんだね」
現状をそう言い換えると納得できる。
弱いわけがないな。
「『複製』はバランスブレイカーだよ。
お兄さんさえいれば、あらゆる面でリソース問題が解決するもの。
……というわけで、ハイ。次の槍ちょうだい。
できれば槍より薙刀の方がいいんだけどね」
「ないものは増やせないのが、『複製』の欠点だよね」
手早く増やした長槍ヤソウマキ改・レプリカを手渡す。
ナナちゃんは柄の中ほどを持って担ぎながら、苦笑した。
「ないものまで生み出したいっていうのは、ぜいたくすぎるよ」
そう言われると返す言葉もない。
ともあれ、僕らは予想以上の速度で進んだ。
割れたアスファルトと盛り上がった木の根っこを乗り越えながら、予定の倍近いペースで進むことができたのである。
夜は火を焚いて、順番に見張りをしながら眠った。
そして翌日の昼前に、大きな塀で囲まれた敷地の前に辿り着いたのである。
「ここが女の子しかいない村か。
いろいろ見て回りたいけど、とりあえず全部後回しだ。
人命救助はなにものにも優先されるからね!
さあ、早くギャルのおなかをぺろぺろ舐めまわしに行こうか!」
「言い方が最悪だね、お兄さん!」
聖ヤマト女子高等学校集落――聖ヤマ女村。
男子禁制の花園に。
薙刀などの長物系の武器は振り回しや叩きつけが強いんですよね。
遠心力が加わるので、見た目以上の威力が出るそうで。
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