29 幕間 マツシタ、ひらめく
マツシタの仕事は、魔力測定器をベースに発電魔道具の開発を進めることだ。
魔力を流し込めば、電力に変換して端子から出力する。
機構は簡単だが、現状、数万人の住民を抱える古都の電力を賄えるものではない。
――解決方法は、二つ、です。
ひとつめは『注ぎ込む魔力を増やす』こと。
しかし、これはたとえAランクの魔力持ちがいても不可能だと判断した。
古都にはイコマ、カグヤ、タンバと三人のAランクスキル持ちがいる。
そのうちイコマとカグヤはインフラ系の能力を持っており、朝廷を支えているスキルが女王カグヤの『農耕:A』。
農作物と農作業に対する補正によって数万人の胃袋をまかなっているが、ギリギリだと聞いている。
イコマの『複製:A』もまた、古都住民全員をカバーしきれるほどではない。
魔力の総量は増やせない。
ふたつめは『魔力あるいは電力どちらかを、装置の機構によって増幅する』こと。
エネルギーは等価交換されるものだが、魔力は謎が多く、既知の法則は通用しない。
研究を進めていけば、電力以外にも多くの問題が解決するだろう。
そういうわけで、マツシタは今日も研究本部のテントで装置を弄りまわしていた。
魔力測定に並ぶ住民の行列は日々短くなっていて、いまでは午前中に終わる程度だ。
午後からは研究の時間である。
「魔石と既存の発電機、を組み合わせ、て。よりたくさん発電が可能になる機構、を考えま、した」
「ハイブリッド発電か。太陽光かね?」
うなずく。
魔石を消費して既存の物品を強化するイメージだ。
効率は従来の数倍になるが、太陽光パネル自体に定期的に魔力の供給が必要になる。
魔力を直接電力に変換するよりはローコストだが、やはり魔力は必要になる。
「なので、これも実用化は厳しい、です」
「いや。そうとは限らない」
フジワラは興味深そうにマツシタの手元に目をやった。
「電力を魔力に変換する機構は作れるかね?」
「可能、です」
「では、魔力を貯蔵するバッテリーのようなものを作ることは?」
「それも可能、です。……あ」
気づく。
――発電した電力の一部を魔力、に変換して貯蔵できれ、ば。必要な魔力を太陽光パネル自体が、自分でまかなえ、ます。
超効率的な太陽光パネル。
日照時間に左右される点は変わらないが、作ってみる価値はある。
ほかの発電にシフトする際に良い技術サンプルになるはずだ。
その機構も加える場合、どんな材料が必要か。
考えれば、脳内に作成手順が浮かんでくる。
理屈はわからないが、作り方だけはわかるのだ。
「なにが必要になるかな」
「魔石、太陽光パネル。アルミと、それから純金、が。できれば、一キロは欲しい、です」
金は電子機器に必須の貴金属。
文明が崩壊したといえ、希少性は変わらない。
一キロも用意するのは、かなりの苦労が伴うだろう。
ここがカグヤ朝廷でなければ。
フジワラが顎に手をやってうなずいた。
「手の空いているスタッフにイコマくんを呼んでこさせよう。たしか、今日はショッピングモール難民窟の見回りに行っているはずだね」
――ホムセンの近く、の。
遠目に見たことがある。
研究本部テントを軽く見渡せば、スタッフはみんな書類とにらめっこして、魔力測定者のリストにかかりきりだ。
「ジブンが、行き、ます。ジブンは手が空いています、から」
「では、だれか付き添いを」
「いえ」
マツシタは椅子から飛び降りて、もこもこの上着を羽織った。
「呼んでく、るだけで、すから。ひとりでだいじょうぶ、です」
★マ!
どきどきしてきたね……。




