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第四章【カグヤ朝廷冬休み編/魔剣抜刀《マジックソード・ジェネレーション》】

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26 幕間 マツシタ、ホムセンにいく



 マツシタは積み上げられたDIY用の木材を選びながら、思う。


 ――カグヤ朝廷は不思議なところ、です。


 己は銀髪褐色に尖った耳を持つドワーフで、元の姿の面影はあるが、いわゆるふつうの人間ではない。

 なのに、古都ドウマンのひとびとは、奇異の目で見ることはあっても、『まあそういうこともあるか』と受け入れてしまった。

 順応力が高すぎる。鍛えられているのだろう。


 ――不思議なことには慣れている、と言っていま、した。


 けれど、きっとそれだけではない。

 地球が竜の災害を受けてから三年足らずで、人類は多くのことを経験した。

 とはいえ、どれだけの不思議を目にしても人類が持つ根本的な部分は変わらないし、変われない。

 人間は『みんなと違うもの』を恐れる生き物だ。

 肌の色、目の色、髪の色、趣味嗜好、生き方、在り方……すべてにおいて、『ふつう』の枠組みがあって、だれかがその枠組みを逸脱した途端に、人々は逸脱しただれかを恐れ始める。

 恐れは攻撃と迫害に繋がる。


 ――そう、です。


 小さな手だが、『ドワーフ種:B』のパワー補正はBランク相当。

 角材や板材を数本まとめて担ぎ上げると、隣で金具を物色していたフジワラが笑った。


「今回も多いな。なにを作るのかね?」

「ベンチ、です。朝廷本部の芝生にあれば、炊き出しや配給のとき、便利かと思いま、して」

「なるほど。それはありがたいな」


 うなずいて、崩れたホームセンターから木材を運び出す。

 ひび割れたアスファルトの駐車場に、台車を用意してある。

 道に溢れたがれきは撤去されており、カグヤ朝廷までの道も整備されている。

 断絶したり、沈下したりしている箇所もあるが、手押しの台車程度ならばじゅうぶん通れるのだ。


「……お願いし、ます」

「心得た」


 マツシタの仕事は台車に載せるまで。

 台車を押すのはフジワラの仕事になっている。

 腕力で言えば、補正のあるマツシタのほうが強い。

 しかしながら、恥ずかしいことに。


 ――ちょっと、台車が大きい、です。


 手が届かないのだ。背が低すぎて。

 ドワーフになる前は、もう少し身長があったのだが。

 台車を押す様子を歩きながら見ていると、ふとフジワラが笑った。


「乗るかね?」

「……けっこう、です」


 乗ったら楽しそうだな、と思わないわけではないが、マツシタは大人だ。

 わざわざ乗って遊ぼうとは思わない。

 苦笑するフジワラに少し膨れつつ、歩く。


 ――からかわれ、てい、ます。


 茶目っ気のあるおじさまだ。

 そして、マツシタはその茶目っ気が不快ではなかった。

 悪くない空気の中、朝廷に向かってい歩いていく、そのときだった。


「嘘ば吐きなしゃんな!」


 と、だれかが叫んだのだ。

 びくりと震えて立ち止まったマツシタに、フジワラが台車から手を離して身体を寄せた。


「ふむ。難民だな。外縁の難民キャンプのほうからだ。最近、九州方面からも難民が増えつつある……この件については、マツシタくんのほうが詳しいだろうな」

「……え、あ……。う……」


 言葉が出ない。

 ぎゅっと目をつむってうつむくマツシタの髪に、そっと固い手が触れた。

 歳を重ねた男性の手だ。

 固くて、乾いていて、けれど温かい。


「博多弁は、怖いかね」


 優しく問われて、うなずく。

 なにも言えずに下を向くことしかできない自分が情けなくて、辛かった。


「そうか。ま、ひとまず帰ろうじゃないか」


 足がすくんで動かないマツシタを、フジワラが「よっこいせ」と持ち上げた。

 両脇に手を入れて、まるで子供みたいに。


 ――あ。お、とうさん……みた、い。


 一瞬、だれかが自分をこうやって持ち上げたことがある、と思い出す。

 遠い過去の記憶だ。

 もういないだれかの記憶でもある。

 台車に積んだ角材の上に座らされたとき、マツシタはフジワラと目があった。

 温和な微笑みに、ばくばくと震える心臓が、少しだけ落ち着きを取り戻す。


「少し揺れるが、我慢してくれ。本部に戻ったら熱いコーヒーでも飲もうじゃないか」




★マ!



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― 新着の感想 ―
[一言] ハートウォーミングストーリーと ハートバーニングストーリーが楽しめる小説はここですか?(_’
[一言] なんや……まるでハートウォーミングなストーリーやないかい……。 (向こう側で搾り取られている主人公から目を背けつつ)
[一言] 教授……いいぞ、もっとやれ
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