25 幕間 フジワラ、研究所での日々
マツシタの作り上げた電力置換式魔力測定器は、わかりやすい形状であった。
こぶりなボウリング球のような大きさで、形状も球体。
一本、尻尾のようにケーブルが伸びており、生み出した電力を送電する仕組みだ。
先端を豆電球に繋げて、発光すれば『魔力がある』と判断できる。
「触れて、魔力を込めれ、ば。動き、ます。かなり低い単位でも発電する、ので、魔剣より精度が高い、です」
鈍い光を放つ表面は、マツシタの小さな手とDIY用のハンマーで丸めたとは思えないほど滑らかで、見たフジワラが思わず息を呑むほどだった。
――美しいな。まるで水晶玉のようだ。
作成時、内部構造を組み上げる様子ももちろん観察していたが、フジワラの知る既存技術とは別の『なにか』であると判断した。
細く加工した鉄と銅を、一定の幾何学文様に基づいて編み込み、魔石を包み込んでから蓄電池と繋いで電気を流し、それをさらにハンマーでたたいて……と、過程は説明できる。
だが、その過程にどんな意味があるのか、マツシタに聞いても判然としないのだ。
作っている本人すら理解不能なのだ。
他人が習得することも不可能だろう。
少なくとも、ドワーフではないフジワラには荷が重い。
「ふむ。さっそく試してもいいかね?」
「どう、ぞ」
フジワラは測定器に触れて、目を閉じた。
魔力というものはよくわからないが、プロジェクトの担当者として、魔力を持つ者からヒアリングをおこなっている。
――イコマくん曰く「こう、体温を外にぎゅって絞る感じです」だったな。
マツシタは「血流を手からモノに流すような感覚」と言い、ナナは「えいって押し出したら出た」と言った。
あまりあてにならない言葉たちだが、共通項がある。
――絞るにせよ、流すにせよ、押し出すにせよ……体外への放出。内部から外部へ、のイメージが大事なのだろうな。
測定器に触れる手に集中し、体温を移すように、念を込める。
ややあってまぶたを開けると、豆電球はまったく光っていなかった。
苦笑する。
「だめか。魔剣でもだめだったのだから、それはそうか」
次にマツシタが触れ、豆電球をぴかぴかと光らせる。
動作は正常らしい。
「正式に運用を始めようか。兵士たちだけでなく、住民にも広く検査を受けてもらいたい。スタッフから一班を広報に回させよう」
「忙しく、なりま、すね」
――マツシタくんに忙しくさせるのも目的のひとつだからね。
内心でそう思いながら、フジワラは笑う。
「ああ、とても忙しくなる。よろしく頼むよ、マツシタくん」
銀色の長い前髪を揺らして、小柄なドワーフはこくんとうなずいた。
魔力測定は、予想以上に盛況になった。
自分に魔力があるかもしれないと知った住民たちはこぞって列に並び、測定器に触れた。
大半は豆電球に光を灯すことができなかったが、魔力を持つ者は決してゼロではなかった。
むしろ、フジワラの予想をはるかに超えて多かった。
測定開始から一週間、測定者の数が五百人を超えたところで、一度統計を出してみた。
結論が、こうだ。
「ごくわずかでも魔力を保持する人間の数は、全体の一割。そのうちさらに一割が……つまり、全体の一パーセントが、魔法行使に耐えうる魔力量を継承していると判断した。どうかね、レンカくん」
紙のリストを手渡すと、研究本部にやってきた太政大臣レンカが首をかしげた。
「多いか少ないか、判断に迷いますわね。どうですの? 魔力があるとして……魔法使いには、なれますの?」
「むずかしいです、けど。不可能ではないと、思い、ます」
マツシタが測定器を膝に抱えながら、言う。
この一週間で自発的な会話の量がずいぶんと増えた。
「一パーセントのひとたちも、ランクで言えば、Dランク相当、です」
「手習い相当というわけだ。伸びしろがある。問題は――肝心かなめの『スキルを介さない魔法の教え方がわからない』点だね」
レンカは顎に指を当てて少し考え、ややあってから首を横に振った。
「……その点は、のちのち考えていくしかありませんわね。ひたすら試行錯誤を繰り返す以外に、方法はありませんもの。電力問題のほうはどうでしょうか」
レンカの疑問に、フジワラは笑顔で答える。
「案はいくつかある。すべて試すつもりだが、そのためにもまずは――」
マツシタが測定器を机に置いて、ほんの少しだけ弾んだ声で言った。
「材料を揃えに、ホムセンに、行き、ます」
それからしばらくのあいだ、防寒着で着ぶくれしたフジワラと銀髪褐色のドワーフが、古都郊外のホームセンター跡地で頻繁に目撃されるようになり、外縁に住む難民たちのあいだでもちょっとした話題になった。
マツシタが古都に来てから、一ヶ月が経過しようとしていた。
★マ!
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