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第四章【カグヤ朝廷冬休み編/魔剣抜刀《マジックソード・ジェネレーション》】

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19 人形の材料



 僕の『複製:A』は、触れた相手のスキルをBランクでコピーできる。

 以前までの『複製:B』には決してできなかった芸当だ。

 けれど、加えて、もうひとつ特徴がある。


「触れた相手のスキルが、わかるんです」


 ずるん、と薙刀が消える。

 道場の畳の上に、薙刀は影も形もない――影の中にある。


「おお……」

「マツシタさまの『影魔法』ですね?」


 フジワラ教授とえちち屋ちゃんにうなずく。

 マツシタさんは、キオの出現と行動がかなりのストレスだったらしく、テントで横になっている。

 言い方は悪いけれど、その隙をついて、僕はふたりを道場へと連れて来た。

 道場なら距離は近いし、テントにはミワ先輩もいる。

 道場はいま、通常の訓練時間外だ。

 熱心な自主練大好きっ娘たちが、ふたり揃って筋肉痛のいま、ここは密談にもってこいの場所であった。

 動けなくなるまで組手なんてするからだ。

 キオから複製させてもらった『影魔法:B』は、およそ一トンまでの重さの物体を収納できる。

 ただし、人間などの生物は不可能。微生物は判定が違うのかセーフらしい。

 ゲームでよくあるアイテムボックスに近いスキルだ。


「……マツシタさまは口をつぐんでおられましたね。キオさまの言う『すくい』とはなんなのか、知っておられるご様子でしたが」

「言いたくても言えないのだろう。そして、イコマくんがわざわざ僕たちを連れてきたわけは――『言いたくても言えないこと』の想像がついたからだ。違うかね?」

「そうです。……厳密には、関連しそうなことがわかったから、です」


 ……大阪を思い返す。

 安請け合いは僕の悪癖だ。

 おかげでアダチさんには大変な目にあわされたし……いろいろなものが犠牲になった。

 でも、安請け合いの連続が僕をここまで歩かせてきたのもまた、事実。

 安請け合いだからこそ、全力で取り組む。

 そこだけは変えられない。

 そして、僕はもう、自分一人でなんでもやらなきゃいけないなんて、思っていない。


「イコマくんは先ほど、触れた相手のスキルがわかる、と言ったね。では、キオには隠されたスキルがあり、その内実から推測したと?」

「いえ、キオには『影魔法』以外に目立ったスキルはありませんでした。ステータス強化系のスキルや、武術系……オーソドックスで、ランクも高くてB程度でした」

「では、なにを推測したのですか?」

「……事実から言います」


 畳の上に正座して、一呼吸いれる。

 これから話すことは、おそらく、マツシタさんがだれにも知られたくないことだ。

 トラウマの元凶。

 博多を出て、聖ヤマ女村に出家を望んだゆえん。


「キオは、ステータス強化系のスキルや武術系のスキルを、合計六十以上も所持していました」

「六十……!?」


 教授が驚愕の声を上げる。

 キオは錆びついた体で、僕やナナちゃんを圧倒する性能を見せた。

 その答えがこれ。

 BランクやCランクのステータス補正スキルが大量に重複することで、疑似的にAランク相応の出力を発揮していたのだろう。


「馬鹿な。ユウギリはスキル所持数の上限は六までだと言ったのだろう? 上限があるから、種族系スキルは『複数効果を持つがひとつ』と枠の数をごまかしているはずだ」

「人間の上限は、です。非人間であれば、おそらく枠にとらわれないのだと思われます」


 人形だから、枠がない。

 ただし、その場合、ひとつの謎が生まれる。


「マツシタさまは、どうやってキオさまに六十以上ものスキルを与えたのです? 問題はそこです。思えば、キオさまの存在自体が、少々不可解です」


 えちち屋ちゃんが目を細めた。


「不思議なことに慣れすぎて、疑問を抱けずにいましたが……自律思考し、スキルを扱い、魔剣を振るう人形なんて、複合スキルの『ドワーフ種』とはいえBランクスキルで生み出せるとは思えません」

「……待て。待ちたまえ、メイド先生。では、そうなると……マツシタくんのトラウマは……。そんな、そんなことが……あるのか」


 フジワラ教授が顔を真っ青にして僕を見た。

 次いで、えちち屋ちゃんも目を見開き、小さく「あ……」とこぼした。

 ……僕も、キオに触れた直後、同じ気持ちだった。

 大阪や京都での経験がなければ、取り乱していたに違いない。


「サバイバーズ・ギルト。ひとりだけ生き残ってしまったことがトラウマ。たぶん、そうだと思います。どういう経緯かはわかりませんが、マツシタさんは仲間と共にダンジョンに挑み、そして、キオを連れて帰って来た」


 竜を倒して。

 激闘の末に。

 竜の首を落としたのは、キオだろう。

 あの強さに魔剣まで持っているのだ。

 錆びついていなければ竜だって簡単に倒せてしまうに違いない。


 は、と息を吐く。

 口に出すのも、つらいことだ。

 けれど、この場で言葉にする役割を担う存在がいるとすれば、それはキオに依頼された僕だけだ。


「僕の推論を言います。マツシタさんたち博多攻略パーティーは、おそらくダンジョン内でほぼ壊滅し、ダンジョン攻略も帰還も困難な状態となった。その中で、おそらくマツシタさんだけが無事で、攻略過程で手に入れた陶器と鉄と歯車と、そして――」


 ざらり、と喉がかすれる。

 まるで錆びついているみたいに。


「――そして、仲間たちの遺体を用いて、ドワーフの鍛冶・魔道具作成能力を起動した。すべてのスキルを引き継いだ、竜を殺せる最強の戦士を作るために」


 簡潔な結論を述べよう。


「おそらく……いえ、十中八九。キオは人間を材料にして作られています」




★マ!


ようやく四章のプロットがまとまってきたので書き溜め出来そうです!

……なんでまとまったプロットのない状態で四章がはじまっていたんだ……?(年末進行)


なお、錆びついていない状態のキオは『搦め手ありのイコマ』を上から叩き潰せるくらい強いです。

キヨモリとタイマンしても勝てる。


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― 新着の感想 ―
[一言] そら、直視するのも辛いわ……竜への敵愾心とマツシタへの保護の思いにも得心がいった。 ただ、Bランクで出来ることには思えないなぁ。 材料になった人達からの働きかけ?
[一言] つまり武術系・強化系スキルを1個ずつ複製させてもらって延々と合成していけば近接最強の女装将軍に……?
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