17 粘幻魔法
「で、出来上がったのがこちらのスキルになります」
「三分で料理するみたいなノリでスキル合成しちゃったよぅ」
カグヤ先輩が呆れ顔で山盛りのごはんに箸を差し込んだ。
ちょうど晩ごはんの時間になったので、汗だくでへろへろのナナちゃんとヤカモチちゃんを担いで、道場からカグヤ朝廷本部の宿舎に戻ったのだ。
訓練に没頭しすぎたなかよし二人組を簡易シャワー室に放り込んで、僕はお先に幹部屋敷の食堂にやってきた。
通電式のカンテラで照らされた食堂内は、夜でも明るい。
ちょっと前までは野外でキャンプ食堂だったけれど、さすがに寒さが堪えるのだ。
いつまでもテント暮らしは無理があるね、やはり。
「で、スキル合成ってなにをどう合成したの? 『傷舐め』と『粘液魔法』を合体させたとか? よく組み合わせて使っていたよね?」
「いえ、まずは『粘液魔法』と『幻覚魔法』を合成しました」
おかずの照り焼きチキンを白米にワンバウンドさせてほおばる。
うむ、とてもうまい。
ある学校村が、繁殖に成功していた鶏ごと移住してきたのだ。
卵も鶏肉もいただけて大助かりである。
「魔法繋がりだよぅ」
「そういうことです。カッコいい名前を付けようとしたらナナちゃんに止められたので、シンプルに『粘幻魔法』と名付けました。ランクはBで、効果は『粘液魔法と幻覚魔法の二種類を使える』です」
「……合体させたのに、効果が変わってないね。スロットを開けるのが目的?」
照り焼きチキンを嚙みながらうなずく。
「あと、はじめての試みだったので、失敗が怖くて。まずは当たり障りなく、そのまま合体を試してみました」
「どう? なにかわかったこととか、ある?」
いつの間にか空になった茶碗に白米を追加するカグヤ先輩に、声を潜める。
この場所には僕らしかいないけれど、なんとなく大きな声で言う気になれなかったのだ。
「……たぶんですけど、Bランクの『竜種』で他人のスキルをどうこうするのは難しいと思います」
「てことは、マツシタさんの『ドワーフ種』を消去するのは……」
首を横に振って応じると、先輩は大きなため息を白米の上に落とした。
「あの堕竜、またてきとうなことを言ったんだよぅ」
「いえ、まあ……アレはもともとSランク相当で、しかも竜ですから。想像力そのものでできている竜と、肉と骨で出できた僕らじゃ、前提が違うんだと思います」
かばうわけではないけれど、スキルを合成して感覚的にわかった。
少なくとも、Bランクでは不可能だ。
Aランクでもできるかどうかわからない。
「他人の中にあるスキルに触れるなんて、どうしようもないですよ。相手の魂に触るようなモノです」
瞑想で済む自己とはわけが違う。
魂レベルで深く通じ合い、理解し合い、リソースを共有し合う。
そんな関係でもなければ、まず無理だと思う。
「マツシタさんには、言うの?」
「はい。……いえ、まずはえちち屋ちゃんに相談してからですけど」
「それがいいよぅ。あ、フジワラ教授にも相談するといいかも」
「え、教授ですか? たしかにどこか、対応が手慣れているようでしたけど」
専門は古典じゃなかったっけ。
すると、カグヤ先輩はもりもり動いていた箸を止めて、ちょっと悲しそうな微笑みを浮かべた。
「そっか、いっくんは知らないか。教授の奥さんもね、トラウマの発作を抱えていたんだって」
「……奥さんが?」
教授の顔と指輪を思い出す。
丁重に弔ったと言っていた。
「ずいぶん長い間、奥さんと二人暮らしだったそうだし、通院にも付き添っていたらしいから、いろいろ知識もあるんだと思うよぅ」
カグヤ先輩はちょっと長めの瞬きをして、またもりもりと箸を動かし始めた。
「それで、今後の『竜種』研究とか、空いたスロットとかはどうするの?」
「『複製』と『竜種』は変更できそうにないので、『傷舐め』ベースで治癒系スキルの利便性向上に挑もうかなと。ただ、その前に――ひとつ、どうしても複製したいスキルがあるので、そのお願いに行くつもりです」
★マ!
年始にぶっ倒れていた関係でマジでストックが追い付かない……!!
でも毎日更新頑張るので★やブクマや書籍の予約やタグ付きツイートで応援してくれたら嬉しくて粘液が出ます(どこから?)




