16 『竜種』の材料
フジワラ教授はマツシタさんとえちち屋ちゃんを連れてレンカちゃんのところへ向かった。
魔道具を使った電力問題へのアプローチ、および非スキルの魔法修行が可能な「魔力を持つ一般人」について相談するためだ。
「そして、僕らは道場に残されたのであった」
「じゃ、私と組手でもする?」
「うーん」
悩みこむ僕を見て、ナナちゃんは「はっ」となにかに気づいた。
「だめだよお兄さん! そういう意味の組手じゃないからね! 道場を焦がしかけたあげく、ぬちょぬちょになんてしたらクキ先生ブチギレるよ!」
「ひとりで勝手に盛り上がらないで」
あと道場焦がしかけたのは僕じゃない。
魔力を持っていることが判明したナナちゃんはちょっとテンションが高い。
……ほんとうなら、兵部の自由騎士卿としてレンカちゃんのところへ報告に行くべきなのだろうけれど。
それを指摘すると、僕も行かなきゃいけなくなるからな……。
もちろん、レンカちゃんに会いたくないわけではない。
「僕はちょっと、思いついたことを試したくて」
「だめだよお兄さん! 私の体はお兄さんのおもちゃじゃないんだよ!」
「僕がいったいなにを思いついたと想像したの? あとむしろおもちゃにされがちなのは僕――いやそういう話じゃなくてね」
テンション高めのナナちゃんの前で、僕は分身した。
片方は実体のない『幻覚魔法』だ。
「……『幻覚魔法』の新しい応用法とか?」
「うん。いや、ちょっと違うかな。ほら、材料の話があったでしょ」
「材料がないから『竜種』を扱いかねているって話?」
そう、それだ。
教授がスキルの考察をしてくれたり、マツシタさんの魔道具作成の材料に魔石が含まれていると聞いたりする中で、ふと思ったのだ。
「竜は想像力の産物。スキルは竜王の産物。であれば、スキルそのものも想像力で作られていて。だとすると、竜の現実改変能力も材料がないわけじゃなくて、ちゃんとあると考えられる。それは――」
ナナちゃんが僕の言葉を引き継いだ。
「――想像力そのもの?」
うなずく。
つまり、材料にできる想像力が手元にあれば、僕は『竜種』を扱えるわけで。
「僕の手元にある、扱いやすい『想像力』を材料にすれば、竜の力を使えるかもしれない」
「……へえ。いいじゃん、それ」
ナナちゃんが面白そうに笑った。
「スキルを材料にして、新しいなにかを生み出すわけでしょ。試す価値大だよ、お兄さん」
そういうこと。
ナナちゃんが見守る中、僕は畳の上で座禅を組んで、目を閉じた。
僕の中にある『複製』『傷舐め』『統率』『粘液魔法』『幻覚魔法』を自覚する。
手で触れるように、スキルの輪郭を捉えにいく。
「……『傷舐め』と『統率』はギャングウルフから獲得したんだよね。懐かしいなぁ。ところでお兄さん、瞑想中だけどさ、目を開けたとき私が全裸になってたらどうする?」
「うーん、さすがに頭を疑うかなぁ。目を開けたら全裸がいるなんて、驚愕の事態だよ」
「そうだよね。目を開けたら全裸がいるなんてね。目を開けたら全裸がいるなんてね。大事なことだから二回言ったよ。さあ思い出そう、私がはじめてぺろぺろされたとき、お兄さんがどんな格好だったかを」
「ああ、あのとき? 僕は服を着ていたよね。たしか黒のスーツだったかな」
「お兄さんの頭を疑うよ。記憶領域だいじょうぶ?」
この話は分が悪いので、ナナちゃんの声を遠ざけて、瞑想に集中する。
……ふむ。
「どうやら『複製』は材料にできないみたいだ。『竜種』そのものが『複製』で獲得したものだからか、親子関係みたいになっていて……」
「ほほう。ていうことは、それ以外のスキルは……?」
僕はゆっくりと目を開けた。
「材料にできると思う。失敗する可能性もあるし、どれをどう改造するかは軽率に決められないけど。……あれ、ナナちゃん、なんで服を着ているの? ここは全裸になっている流れでしょ」
「最悪な流れを要求しないで。いやだよ、お兄さんだけならともかく、道場はいつだれが来るかわからないもん」
ナナちゃんが頬を膨らませた。
「そういう刺激的なのはヤカモチで一回試してからにしてよね」
「親友をいけにえに捧げるんじゃないよ」
「だいじょうぶ、私もちゃんと付き添うからね。リードも持つよ」
「ヤカモチちゃんにいったいどこでどんな格好でどんな行為をするつもりなんだい、ナナちゃんは。親友を辱めることに一切のためらいがないな」
そのとき、道場の扉ががらりと開いて、道着姿のヤカモチちゃんが入ってきた。
「お、やっぱりいた。自主練中だし? アタシも混ぜ――ナナ、なんか目が怖いんだけど」
「ヤカモチ、犬派って言ってたよね。じゃあ犬でいいよね」
「あの、ナナ? 急になにを――わ! 急になに!?」
刺激に飢えた獣がとびかかり、とっさにヤカモチちゃんが床に投げ飛ばした。
ナナちゃん、アレ完全に服を脱がしにかかっているな。
「ぬ、また腕を上げたね、ヤカモチ! 素の格闘技術と『予見術』の組み合わせに、最近の訓練が効いているとみた! 相手にとって不足なし!」
「ナナ、やる気満々だし! いいね、ステゴロならアタシのが強いって証明するし!」
ふたりが畳の上で激しい組手(※健全です)を始めるのを横に置いて、僕はまた目を閉じた。
瞑想を続けよう。
僕の内側にあるスキルの輪郭を、もっとしっかりと把握しなければ。
材料はある。
ならば、あとは僕自身の問題なのだから。
★マ!
マジでストック追いつかなくなってきたので僕がマイクラしすぎないよう祈ってください!




