14 小器用
道場の床に輪になって座る。
種族スキルについて、より深く情報交換と考察をおこなうためだ。
フジワラ教授が「ふむ」と髭を撫でた。
「イコマくんはアレだな。自前の知識や応用力でたいていのことができてしまうのが問題なのだろうな」
「いや、そんなに小器用じゃないですよ、僕」
マツシタさん以外の全員が僕を半目で見た。
なんだよう。
ナナちゃんがすっと手をまっすぐ上にあげた。
「応用力でなんとかできちゃうっていえばさ。お兄さん、京都で呼気を『複製』で増やして、爆風にしてたじゃん」
「やったね。あれがどうしたの?」
「ある意味ドラゴンブレスって言えるんじゃないの、あれ。応用でドラゴンっぽいことしてるから、そりゃ『竜種』でやれって言われてもイメージしづらいよね。なくてもできるんだもん。小器用さがあだになってるねぇ」
……。そう言われると、そうかもしれない行動が多々あるな、僕。
代用癖があるというか、手元にあるものでなんとかしがちというか。
「手元になにもない状態で『竜種』の現実改変能力だけ渡されても、なにをしたらいいのかぜんぜんわかんないんだよ」
ついつい泣き言を吐きつつ、自分に呆れてしまう。
僕ってこんなにも想像力のない人間だったのか。
つまり。
「だって、ありものでなんとかするのが僕の得意分野なんだからさ。ないものを生み出せって言われてもさぁ……」
「お兄さん、いつだったかザリガニでなんちゃってエビフライ作ってたもんね。奈良に海がないからって」
そういうことだ。
ううむ。『竜種』の習熟は、僕には難しいかもしれない。
嘆息して、僕はマツシタさんに頭を下げた。
「すいません、マツシタさん。僕が『竜種』を使いこなせていれば、すぐにでもドワーフから元に戻れたと思うのですが」
「いえ、お気になさら、ず。ジブンが頼む立場です、から。……ジブンのほうは、材料が明確なので、わかりやすかった、です。ええ、と……」
マツシタさんは少し言いよどんでから、目を伏せた。
「魔剣の材料は、魔石、です。博多ダンジョンの攻略途中で手に入れた魔石と、鉄と……そういったものから、作りまし、た」
ナナちゃんが目を輝かせて身を乗り出した。
「それ朗報! カグヤ朝廷、魔石余ってるの! 強い薙刀とか作ってくれない!?」
いや、余っているわけではないけれども。
奈良平城宮跡ダンジョンと京都嵐山ダンジョンから手に入れた未使用の魔石は、レンカちゃんが保管している。
使いどころを探っているうちに、使いどころを失っている感じだ。
RPGあるあるだよね、強くて貴重なアイテムほど出し渋ってしまうやつ。
しかし、魔石を別のなにかに変換できるとすれば、なるほど、それはたしかに便利だ。
炎熱を発するキオの魔剣みたいな武器があれば、とても便利である。
期待を込めてマツシタさんを見ると、彼女は顔を青くしていた。
「……ごめん、なさい。ジブンはもう、鍛冶は……鍛冶、は、した、く……」
マツシタさんの言葉が震える。
ナナちゃんが「しまった」みたいな顔になる。
おそらく、トラウマ関連だ。どうしよう。
みんなが身構える中で、フジワラ教授がふいに両手をぱんと打ち鳴らした。
音に釣られて、マツシタさんがはっと教授を見た。
「深呼吸だ、マツシタくん。落ち着いて。そうだ、ゆっくり息をしなさい」
「……は、い」
少ししてから、マツシタさんは頭を下げた。
「すいま、せん。取り乱し、まし、た」
「そんな! ごめんなさい、私が不用意だった。ごめん、ごめんね……!」
謝り倒すナナちゃんに、マツシタさんは弱々しく微笑んだ。
「ジブンはもう、鍛冶はしたく、ない……いえ、できないし、するべきでは、ない、と。そう、思ってい、ます。……でも、武器ではなく、魔道具であれ、ば。お手伝いできるかもしれま、せん」
鍛冶がトラウマなのではなく、武器製作がトラウマなのだろう。
ダンジョンで仲間を失ったことと、武器製作が関連している、と?
……いや、考察はよそう。
マツシタさんが語らない位以上、こちらから踏み込むべきではない。
しかし、魔道具。魔道具か……なんだかとってもワクワクする単語である。
そんな夢が広がる言葉にいちはやく反応したのは、意外にも教授だった。
「マツシタくんっ! 例えばなんだが――発電する魔道具などは製作可能かね?」
そう。古都の一大事をあずかる教授が、引退前最後のプロジェクトと定めた、電力問題に関連して、だ。
★マ!
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