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第四章【カグヤ朝廷冬休み編/魔剣抜刀《マジックソード・ジェネレーション》】

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12 わからん



 僕は道場の床に寝っ転がって、天井を眺めていた。


「無理だ……わっかんねえ……なにこれ……」


 泣きごとに反応するものはいない。

 訓練のない時間、貸し切りで使わせてもらっているのだ。

 『竜種:B』の修行は、僕にとって非常に困難なものとなっている。

 なんせ、『竜種』を持っているのが僕だけだから、先生になってくれるひともいないのだ。

 最初はユウギリに指導を頼んだのだけれど……。


「いや、むりむり。わらわ、生まれつき竜じゃもん。貴様はさしずめ、人間が竜の形質を獲得した『竜人』じゃ。前提が違うのじゃから、教えるとかむり」


 独房にて、読んでいたラノベにしおりを挟みながらユウギリは言った。

 どんどん俗に染まっていくな、コイツ。


「ほら、魚って生まれつき泳げるじゃろ? ああいう感じ。わらわたち生まれついての竜は『どうやって現実改変の魔法を使うか』なんて考えん」

「……役に立たない堕竜だなぁ」

「なんじゃと! こら! じゅうぶんお役立ち堕竜じゃろうが!」


 否定するのそっちかよ。

 堕竜のほうも否定しておけよ、せめて。


「しかし、あれじゃな。ひとつ注意をしておくとすれば、貴様は『竜種』を使いこなすべきじゃが、竜に近づきすぎるのはやめたほうがよいな」

「なんで?」

「阿呆。竜になったら、竜王さまのルールに縛られるじゃろ。竜でも人でもない『竜人』として完成を目指せ。さもなくば、ダンジョン攻略そのものができなくなるぞ」


 そういって、ユウギリはラノベに目を落とした。

 ふむ、なるほど。

 『竜はうそを吐けない』や『竜は同族を殺せない』といったルールが僕にかかると、たしかにいろいろと都合が悪い。

 しかし、コイツ……ほんとうに変わったな。

 タンバくんの努力のたまものだろうか。


「……ユウギリさ。それ、いいのか? 立場的にさ」

「ん? なにがじゃ?」

「いやだって、ドラゴンからしてみれば、僕が竜王のルールに縛られたほうが都合いいでしょ。僕にそういう注意をすること自体、反逆行為じゃないの?」


 ユウギリはぽかんとした顔で僕を見て、天井のライトを見上げて、もう一度僕を真剣な顔で見た。


「――いまの、ナシで! 忘れろ!」

「ただのうっかりさんかよ。やっぱりあんまり変わってないな、おまえ」


 と、そういうわけで、道場で『竜種』の特訓をひとりでおこなっているわけだ。

 現実を改変する能力。奇跡や魔法の類。

 ……そもそも、どういう理屈なのかも検討がつかない。

 想像力をどうすれば、現実改変能力が発動するんだ?

 魔力はある。二種類の魔法系スキルも使い慣れて、魔力の扱い方もわかってきた。

 想像力も、まあ、なくはないだろうと思う。

 でも、イメージ通りに現実を捻じ曲げるだなんて、なにをどうすれば成し遂げられる事象なのか、ぜんぜんわからない。


「あうー」


 呻きながらごろりと転がると、視線がかち合った。

 寝転がる僕を見下ろすように、銀色の髪に隠れた両目とばっちりぶつかる。


「わ! ま、マツシタさん? どうしてここに」


 慌てて跳び起きると、マツシタさんだけじゃなくて、ナナちゃんとえちち屋ちゃんもいた。

 なんと珍しいことに、フジワラ教授までいる。


「……そ、その。種族スキルの習熟に難航している、と聞いた、です」


 マツシタさんが小さく呟いた。


「先日のご迷惑のお返し、に。ジブンにできるアドバイスがあればと思って、来まし、た」

「それは……ありがとうございます、助かります。え、でも、いいんですか? その、無理しなくても……」


 トラウマに触れる行為はやめたほうがいいんじゃないか、と思ったけれど、マツシタさんは褐色の首を横に振った。


「ジブンのために頑張ってくださって、いると。そう聞きま、した。それに、みなさんついて来てくださいました、し」

「私はお兄さん成分の補給も兼ねて来たよ。ホラ早くぎゅーってしろ」

「ナナ、人前では自重しなさい。……なので、私は人目のないときにぎゅーってしてあげますね、イコマおにーちゃん♥」


 妄言を吐くナナちゃんたちに苦笑しながら、フジワラ教授が道場の端に正座した。


「微力だが、見守らせてもらうよ。イコマくんもマツシタくんも、無理はしないよう気を付けたまえ」


 ふつうの大人な対応って、逆に斬新な気がする。

 僕の周囲、変なひとしかいないからなぁ。

 ……一瞬、「類は友を呼ぶ」という単語が頭をよぎったけれど、深く考えないようにしよう。


★マ!


応援ありがとうございます! がんばります!


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