10 種族スキル
おおよその流れを説明し終えると、ユウギリはうんうんと鷹揚にうなずいた。
「あー、種族スキル、のう。あるいは複合スキルと呼ぶべきかもしれんが、まあよい」
複合スキル?
「僕の『竜種』みたいに、いくつかのスキルを内包しているってこと?」
「まったく使いこなせておらぬのに『僕の』とか言うな。もともと貴様のものではなかろう、簒奪者めが」
ユウギリがフンと鼻を鳴らして、差し入れのチョコ菓子を頬張った。
僕の文句いうなら食うなよ。
「よいか? もとより、スキルは竜がヒトに与えたものよ。その本質は『想像力が現実化した現象』じゃ。現代風にわかりやすくスキルの形をとっておるがの」
人間の想像力が竜を生み、竜がスキルを作った、というのは僕らにとっては周知の事実。
では種族スキルとは……複合スキルとは、なにか。
「ひとりにつき六つのスキルスロット。それが生物の限界じゃ。その限界を超えた数のスキルを宿せば、生物の形を保ってはおられん。ゆえに……ひとつのスキルに複数の効果を詰め込み、与えるわけじゃ。人間の枠からは外れるが、生物のままではいられるのう」
「……つまり、マツシタさんは複合的なスキルを与えられた結果、人間からドワーフになった、と?」
なんか、よくわからない理屈だ。
てきとう言ってんじゃないだろうな、この駄竜。
「ま、ようするにスキルのパッケージじゃよ。『ドワーフ種』の場合はタフネス、パワー、魔力に補正値がかかり、製作系技術に補正を得て、魔道具なども作れるようになる。その代わり、肉体がドワーフのものへと変ずる、と」
「……元には戻せる?」
「無理ではなかろう。種族スキルは竜が手ずから人間を変容させることで備わるもの。天変地異のあと、ランダムにばらまかれたスキルとは別物じゃ。……わらわが大阪でやったこと、おぼえておるか?」
ユウギリが唸りながら腕を組んだ。
「あのとき、わらわはタマコに鱗を与えたように、竜は『種族』を与えられる。そして、わらわは自らの『竜種』を可能な限り削ぎ落して、このような体となった。逆にいえば……」
「……マツシタさんから『ドワーフ種』を削ぎ落せばいいのか」
「理屈の上ではそうなる」
ははあ。
「つまり、竜ならできるってことか。おまえみたいに弱体化していなければ」
「弱体化させたのは貴様じゃろ! くそが!」
「口が悪いですよ、ユウギリ。謝ってください」
「ごめんなさいなのじゃ!」
素直か。
ごほん、とユウギリが咳を打った。
「そもそもな。竜なら可能というか、本来、竜に不可能はない。人類の想像力が無限である以上、その現実改変能力も本来は無限であるのじゃ」
駄竜は腕を組んだまま、僕をじっと見た。
「つまり、イコマよ。マツシタなるドワーフを元に戻せるとすれば、おぬししかおらぬじゃろ」
タンバくんと刑務官さんも僕を見た。
「……え、僕? なんで?」
「『竜種』もまた複合スキル、単なるステータス補正スキルではないわ。現実改変能力こそが『竜種』の本質じゃ。――言ったであろう? おぬしはまったく使いこなせておらぬ、と」
★マ!




