9 ユウギリのお勉強
「ハァ? なんじゃタンバ、貴様、結婚したのか。ぷくく、貴様の薄給で家族を養うことなど――え? ご祝儀? 全員から一定額徴収? ずるいのじゃ!」
「ずるくないです。そういうルールなんです。ていうかユウギリ、ご祝儀代も持ってないじゃないですか。債務券発行しますね」
「わはは、紙がいっぱいじゃ! ……え、これ借金なの? わらわ借金まみれ?」
「タンバ隊長、小官はこのクソロリババアをはやく開拓地送りにしてやりたいのですが、構いませんか?」
なにこれ。
久方ぶりにユウギリの独房に顔を出すと、カグヤ朝廷兵部に所属したタンバくんが、駄竜ユウギリとすらっとした女性刑務官の三人で顔を突き合わせて人生を模したボードゲームをやっていた。
いや、なにやってんだ、きみたち。
「あの、タンバくん? なんで遊んでるの?」
「……あっ、イコマさん! これは遊んでるわけじゃないんですよ! 勉強です!」
もう言い訳にしか聞こえないんだけど。
中学生がいうとマジで言い訳にしか聞こえないやつだ。
「はい、勉強です。このクソロリババアに『人間の一生』や『人間社会』を教えているのですが、まずは体感してもらうのがいちばんだろう、と思いまして」
刑務官さんが眼鏡をくいっとしながら言った。
クールビューティーって感じだ。
「ついでにゲームでこのロリをボコボコにして、これまでのうっぷんを晴らしたいと思っております」
ぜんぜんクールじゃなかった。
初心者狩りはあらゆるゲームにおいてバッドマナーです。
「イコマさんもご一緒にどうですか? 楽しいですよ!」
「うん、いや、まあ……ちょっとユウギリに用事があって来たんだけれども」
「わらわに用事ィ? ふん、わらわは貴様の言うことなど知らぬ。帰れ帰れ!」
頬を膨らませる駄竜に、タンバがむっとした顔を向けた。
「ユウギリ、ダメですよ。イコマさんが漫画やボードゲームを複製してくれるから、こうして遊べているんです。受けた恩義は返すのが人間の礼儀です」
「わらわ竜じゃもーん。人間じゃないもーん」
じゃもーん、て。
「ふーんだ」
ふーんだ、て。
精神年齢まで見た目相応になってきてないか?
「人間のこと、勉強したいのでしょう? そう言わずに、ね? 僕の顔を立てると思って」
タンバくんが告げると、ユウギリは口を尖らせつつ、しぶしぶ僕を見た。
「なんじゃ。言うてみい。聞くだけ聞いてやる」
……。
すっかり懐柔されている駄竜であった。
それでいいのか。
こちらとしては話が早くてありがたいけれども。
★マ!




