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第四章【カグヤ朝廷冬休み編/魔剣抜刀《マジックソード・ジェネレーション》】

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7 魔剣人形キオ



 ソファごと後ろにひっくり返って、大剣の横薙ぎを回避する。

 隣に座っていたナナちゃんもまた、飛びあがって避けていた。


「だめ! キオ、止まりなさい! キオ!」

『りゅ、りゅりゅ、りゅうは……ころす……ころして……!』


 腰から上をおもちゃの人形みたいにぐるりと一回転させて、二度目の大剣が迫る。

 バックステップで距離を取って、これも回避。

 速度的にはCランクかそこら。

 僕たちなら余裕をもって回避できるけれど、客人を迎えるだけだと聞いていたから、武装の用意がない。

 もっとも、ただの薙刀であのマグマみたいな大剣を相手にできる自信はない。


「ナナちゃん! あの剣、魔力の気配がする!」

「うぇえ、マジ!? それってつまり……」


 ごくり、とナナちゃんが唾を飲んだ。


「魔剣ってこと!? やば! 記念写真撮ろう!」

「あとにしろ!」

『りゅう……!』


 ぶん、と大剣が唸った。ああもう。


「えちち屋ちゃん、マツシタさんをお願い!」

「承知いたしました、ご主人さま」


 ぱん、と両手を打ち鳴らす。

 『複製:A』と『粘液魔法:C』の重ね掛け。


「なにがなんだかよくわかんないけど、まずは動きを封じる……!」


 両手の間で高速複製された粘液が、怒涛の勢いで人形――キオに殺到する。

 秘技・ローション津波の術だ。

 ナナちゃんに「二度と技名を口にするな」と厳命されたワザなので、心の中だけで唱えておく。

 ともあれ、これで一度動きを封じて――。


『ころころころころころころすすすす……!』


 ずばん、と。

 粘液の波涛が切り裂かれた。

 魔剣の刀身が赤く輝き、瞬間的に蒸発した粘液の白い蒸気を纏っている。

 直撃コースだったはずの粘液が、キオの周囲にぼとぼとと落下した。


「……気化熱の体積増加で吹き飛ばした!?」


 そんなことできるの!?

 うわあの魔剣かっこい――じゃない!

 火はマズい! この建物、ぜんぶ木造なんだけど!

 慌てる僕をよそに、ぎゃりぎゃりと錆びついた音を立ててキオの関節が駆動する。

 まずい。

 あの剣を避けて建物にあたりでもしたら、朝廷本部が大火事になる!


「キオ! だめ! 止まって!」


 えちち屋ちゃんの腕を振り払って、マツシタさんが前に出た。


「この人たちは、違う、の! 敵じゃな――わっ」


 そして滑った。

 勢いそのままに、ずるん、と。

 床にぶちまけられた粘液のせいだ。

 前に出した足を蹴り上げるような形で――後頭部を思い切り床に打ちつける形で。

 ぎゃり、と音を立ててキオが振り向く。

 マツシタさんに向けて、左腕を伸ばす。

 武器を持っていない、左腕を。


 その一瞬で、なんとなく、わかった。

 あれは敵じゃない。


 しかし、動きが遅い。

 錆びついた歯車の関節では、到底間に合わない。

 とっさに動いたのは、応接室の壁際に退避していたナナちゃんだった。


「粘液ッ! こっち!」


 鋭い指示が飛ぶ。

 反射的に手のひらで『複製』した粘液の塊を、ナナちゃんに向けて弾き出す。

 同時に、ナナちゃんが木造の床に勢いよくスライディングを決めた。

 通常ならば、大した距離を滑ることはできないけれど、僕の粘液とナナちゃんの瞬発力なら――間に合う!


「……わ、わ。え?」


 マツシタさんが目をぱちくりさせる。

 ぎりぎりで滑り込んだナナちゃんが、小さなドワーフをしっかり抱きかかえて、部屋の壁を蹴って止まったのだ。

 一瞬の出来事だった。


「セーフセーフ。いや、危ないところだったね、マツシタさん」


 ほう、と息を吐いて、ナナちゃんがキオを見た。


「あなたたちを傷つける意思はないの。話を聞きたいだけ。……話したくないなら、それも別にいい。この街はマツシタさんを歓迎するよ」


 ぎゃり、と関節が唸る。

 キオは金属の顔を僕に向けた。

 真っ赤な眼光が、ぎらりと僕を照らす。


『……りゅう、か』

「僕としては、人間のつもりなんだけど」


 からくり人形はしばらく固まったあと、ぬるり、とマツシタさんの影の中に沈んでいった。

 どうやら、暴れるのをやめてくれたらしい。

 ほっと一息ついたところで、ナナちゃんが粘液まみれで首をかしげる。


「で、結局いまの、なんだったの? モンスター?」

「いえ、キオは……モンスターではない、です」


 マツシタさんが顔をうつむけて、震える声で呟いた。


「キオは、ジブンの……」


 落としたら割れてしまいそうなほど儚い声で、言う。


「ジブンの、すべて、です」




★マ!


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― 新着の感想 ―
[一言] 「マツシタさんのスベテ(絡繰り人形)、見せて欲しいなぁ」 こういう展開があるんですねわかりました待機します!
[一言] 全てって言うなら制御して!
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