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第四章【カグヤ朝廷冬休み編/魔剣抜刀《マジックソード・ジェネレーション》】

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3 フジワラ教授



 その日の夜、僕は平城宮跡の芝生の上でコーヒーを嗜んでいた。

 アウトドアである。

 とはいっても、小さなトレッキングチェアに腰かけ、これまた小さな折り畳みテーブルを設置しただけ。

 テーブルの上には、ガス缶に直接バーナーヘッドを取り付けるタイプのシングルコンロや、折りたためるコーヒードリッパーなどが置いてある。

 ぜんぶ、コンパクトなアウトドア用ツールの発掘品だ。

 一人分のコーヒーを淹れるくらいなら、これでじゅうぶんなのである。


「忍者からは……逃げられなかったか……」


 ぼやきつつ、コーヒーを一口飲んで、思う。

 結局、タンバくんから逃げ切れなかったのだ。

 粘液のトラップや幻覚魔法まで使えば逃げ切れた可能性は高い。

 しかし、街中で使えば、ほかに被害が出ただろう。

 自動車並みの速度と忍者の機動力を持つタンバくんから、自分自身の足とルート選択である程度逃げられたのはすごいことではある。

 それに、スキルありの戦闘なら、もちろんまだまだ負けるつもりはないし。


 でも女児服はきつかった。

 あれはダメだ。

 ヤカモチちゃんが「ふひ、んハァ……ッ、やべ、よだれ出て来たし……」とかちょっと怪しいテンションで僕にノリノリでパステルカラーの女児服を着せ、黄色い帽子とランドセルまで装着させたのだ。

 ナナちゃんも「よちよち♥ かわいーね♥」と明らかに危険な表情でばしゃばしゃとシャッターを連打していた。

 女装は嫌いではないが、女児服だけはもう勘弁こうむる。

 僕は男性にしては背が低いけれど、ロリが似合うほどではない。

 大人の女児服は『似合わない羞恥を楽しむ』性癖であり、『似合うから女装が楽しめている』僕とは相いれないものなのだ。

 ……いろいろと、疲れた一日だった。

 それゆえのひとりコーヒーである。

 癒される……。


「……と」


 夜空を見上げていると、ざり、と芝生を踏む音がした。

 振り返ると、防寒具を着込んだ壮年の男性が立っている。

 男性は渋みのある声で、呆れたように言った。


「部屋からランプの光が見えて、きみだろうとは思っていたが。外でコーヒーとは、温まりたいのか寒くなりたいのか、どっちなのかね」

「無駄なことを楽しむのが趣味ってもんですよ、フジワラ教授」


 苦笑して立ち上がり、座っていた椅子を『複製』する。

 こういうとき、ほんとうに便利なスキルである。


「せっかくですし、一緒にどうです?」

「いただこう。――ああ、砂糖とミルクはけっこうだ」


 小さなコーヒードリッパーで、手早くもう一杯淹れなおす。

 フジワラ教授は白い息を吐きながら一口すすって、うなずいた。


「いい豆だ。これはどこで?」

「コーヒーショップ……の、廃墟です。現物はダメになっていましたけど、『複製』でBランクの状態まで底上げできるんで」

「ずるい能力だな、相変わらず」


 まったくもってその通り。

 やろうと思えば、僕は腐った果実すら再生させることすらできるだろう。

 もはや劣化複製スキルではなくなったのは心強いが、慢心しないよう気をつけなければならない。

 僕はちらりとフジワラ教授を見た。

 夜空をぼんやりと眺めている。


「……それで、今日はどうしたんです?」

「どうした、とは?」

「フジワラ教授、僕に用事があったんでしょう? じゃないとわざわざ防寒着着込んでまで来ませんよね」

「……お見通しか」


 教授は苦笑して、ゆっくりと息を吐いた。


「……きみには言うべきことがあってね。それを伝えに来た」

「言うべきこと、ですか?」


 首をかしげると、教授はうなずいてポケットに手を突っ込んだ。


「実は、年末ごろだろうか。きみたちが京都にいるとき、開拓の最中に……見つけたんだ。せっかくの正月にいうのも水を差すようで悪いし、いままで黙っていたのだがね」


 フジワラ教授がポケットから取り出したのは、指輪だ。

 サイズ的に、女性用だろうか。

 ふと、気づく。

 ……教授の左手薬指にも、同じデザインのものが嵌まっている。


「もしかして、奥さんの……」


 教授はうすく微笑み、うなずいた。


「公民館の跡地だ。天変地異の折、避難していたんだろうね。ようやく見つけて……うん。骨はもう、焼いたよ。だから、遺ったのはこれだけだ」

「それは……その、お悔やみ申し上げます」

「痛みいる。……まあ、わかってはいたのだ。もう生きてはいないだろう、とね。だから、見つけられたときは、いっそ嬉しかったよ。ようやくちゃんとお別れを言って、きちんと弔えた。ただ、情けないことだとは思うのだがね」


 困ったように呟く。


「荼毘に付して、納骨して、いろいろな急にわからなくなってしまったんだ」




★マ!

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[一言] これはモチベ無くなるわ……隠居?
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