2 カグヤ朝廷の冬
冬の都市国家ドウマンは、寒さに負けない活気で満ち溢れていた。
僕らカグヤ朝廷による京都嵐山ダンジョン攻略に加えて、北海道札幌ダンジョン、山形最上ダンジョン、福岡博多ダンジョンの三つが攻略された年末から約一ヶ月。
いまや関西どころか日本中からカグヤ朝廷にひとが集まってきて、人口はうなぎのぼりに増え続けているのだ。
そんな活気にあふれた街で、僕はひしゃげた小さなビルの屋上に身をひそめて、がやがやと騒がしい大通りをこっそり見下ろしていた。
「いたか!?」
「見つからない! どこに逃げた、イコマ卿!」
「はやく見つけてヤカモチさんに届けようぜ!」
揃いの制服を着た兵士たちが、僕を探している。
そう、諸事情あって逃げ回っている僕であった。
見つかるわけにはいかないのだ。
こっそりと頭を引っ込めて振り向くと、なんとも言えない顔をしているタンバくんがいた。
「……やあ、タンバくん。奇遇だね、こんなところで」
「奇遇じゃないです。探しに来たんです」
はあ、と忍者少年は溜息を吐いた。
「僕、イコマさんを捕まえるよう指示されたんですが、いったいどういう事情ですか?」
「いやあ……ちょっと、方向性の違いというか……さすがにキツいものもあるというか……」
「きつい? なにがですか? まさか、公務がめんどうだから逃げ回っているんじゃ――」
「そういうわけじゃないんだけど……」
じりじりと距離を取りつつ、言いよどむ。
どう説明したものか――と悩んでいると、大通りから再び兵士の声が響いた。
「今日の新衣装はランドセルと女児服だからな!」
「さっさと着せて写真を確保しようぜ、兄弟!」
タンバくんがかわいそうなものを見る目を僕に向けた。
「な、なんだ、その眼は! 僕をそんな目で見るように育てた覚えはないぞ!」
「育てられた覚えもないんですけど。ていうか、普段、もっと過激な服も着ているじゃないですか。てかてかのナース服とか、フリルだらけのメイド服とか」
「あれは……いいんだよ! 僕もわかるもん! 趣味がわかる! 僕に似合っている!」
「自分で言っちゃうんだ……」
「でも女児服は違うじゃん! あえて似合わない服を着せて恥ずかしがる僕の姿を見たいという、特殊な趣味が透けて見えるんだよ……!」
しかもかなりニッチな趣味だと思う。
だが、タンバくんは首をかしげた。
「年齢に合わない服を着るだけでしょう? セーラー服を着るようなものなのでは?」
「そう言えなくはないけれど、大学生が高校の制服着て遊園地行くのとはわけが違うんだから……」
「ええと、どう違うんですか? もちろん、厳密にはイコマさんが小さいころは男児用のものだったとは思いますが……てかてかピンクのナース服よりは、女児服のほうがずっとまともな服装なのでは。恥ずかしがる基準がよくわかりません」
「……いや、そのう……」
そんな服装だからこそ、大人が着ると特殊な感じになってしまうのだけれど、正論で詰められると反論できない。
正しいからこその正論である。
むむ。こうなったら仕方がない。
僕はタンバくんの背後を指さした。
「ところでタンバくん、あっちを見てごらん。あの山のあたり」
「え? どこですか?」
「ほら、あの雪で白くなってるところの――」
言いつつ、僕はこっそりと後ずさって、ひしゃげたビルの手すりをひらりと飛び越えた。
正論をいう相手からは逃げるに限る。
鉄則だ。
正論を認めたくないときは、こちらに正しい論理がないときにほかならない。
さっさとずらかるのが最善なのである。
たとえ相手が古都ドウマン最速の忍者であろうと、僕ならばきっと逃げ切れる。
ぜったいに忍者なんかに捕まったりはしないし、女児服も着ないぞ!
しばらくちょっと文字数少なめです!
スマヌ。
★マ!




