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第三章【京都ダンジョン遠征編+古都ドウマン模擬戦争編/ニンジャ・ヒーロー・コンプレックス】

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59 閑話 クキ、合流する



 朝廷本部にしつらえられた客間で、クキは己に会いに来た二人の女性を見た。

 色白のお嬢様と、素行の悪そうな地黒の女。対極にも見える組み合わせだが、見た目は大した問題ではない。


「……二人して、敗軍の爺になんの用かな」

「お話とお願いがございまして」

「礼服で頼みに来るような内容か」


 ええ、とレンカがうなずく。所作が美しいのは、育ちがいいからだろうか。

 だらしのない恰好をするものはだらしがない。たしかにそうだ。

 だが、クキは自分が古い老人だと知っている。

 流行りの服や、自分の好みのスタイルを追い求めることは、かならずしもだらしない恰好ではない。

 意味を求めて服を着るならば、たとえ老骨には理解できない外見だとしても、けっしてだらしないわけではないはずだ。


 ――加工した軍服風の、ワンピースか。


 正面からちゃんと見れば、意匠に日本らしさがあると気づく。それは軍国主義的にも見える軍服のデザインではなく。


 ――徽章の色。代表は薄紫で、兵部の長は青か。どちらも貴人の色だな。


 朝廷に努める貴族の官位を表すために、冠位十二階が制定されたのは、さて、何年のことだっただろうか。

 朝廷の代表たるカグヤは、鮮やかな紫の徽章をつけていた。最高位の色だ。

 旧きものを、過去を否定している。そう感じたのは、たしかだ。けれど、どうだろうか。


 ――儂の思う古きよき時代とは、ほんとうに古いものだったのだろうか。


 どうだろうか。


 ――儂の若かったころを、意欲に満ちていたころを、想っているだけではないのか。


 どうだろうか。


 ――そしてそれは、いまのこいつらと同じような年ごろではなかったか。


 どうだろうか。


「負けた身だ。ある程度は聞こう」


 レンカは真摯な顔でクキに頭を下げた。隣のミワも倣う。


「我がカグヤ朝廷、兵部の顧問になっていただけませんか。その戦闘技術を、どうか兵士たちに――」

「断る」


 即答した。


「儂にその席は重過ぎる」

「ですが、クキ様は武勇においてまごう事なき強者ですの」

「古い考えに固着した人間だ。老害というのだろう? たったひとり残った弟子すらまともに導けない、情けない男だとも」

「そうであっても……あなたはタンバ様をこの模擬戦争から遠ざけましたわ」


 視線が合う。挑むような、若い為政者の瞳だ。


「わたくしたちとの最初の会談にも参加させず、ただ京都へ行くようにだけ命じた。復古勢は参加したいものたち、うっぷんを溜めた者たちを呼び込んだ。タンバ様を過去に連れて行きたくなかった。言い換えれば、クキ様にとって未来とはタンバ様そのひとです」

「……詭弁だ。ほんとうにアレのことを思っているならば、ダンジョンになど送らん」

「送らざるを得ない自分のこともまた、許せなかった。そうだろう、爺さん」


 地黒のほう、兵部卿のミワが唇をゆがめて笑った。


「この街で行動を起こしたのは、タンバのためだ。アンタ、この街に……ウチらにタンバを託したかったんだろ。和歌山勢の中では一番強く、だが、一番幼いあの子を、日本列島最大の街に守らせたかった。もっと強い庇護者を与えて、自分は退場したかった。違うか?」

「……儂がそんな善人に見えるか」

「見えますの」「見えるさ」


 断言された。そうなれば、もうため息を吐くしかない。


 ――老骨に、期待しすぎだ。


 人間、そう簡単には変わらない。

 この申し出を受けたとしても、クキとカグヤ朝廷は完全に融和しないだろう。

 対立は、必ず起こる。クキはもう、そういう頑固な人間として七十余年を生きて来た。

 これからも死ぬまで、きっとわかりあえない遣り取りばかりが続く。


「……儂は昭和のやり方しか知らん」

「なあに、ウチらがきっちり対立してやるさ。いま風のやり方ってやつでな」

「同じ方向を向いていても、対立することはありますの。その中で、わたくしたちは新しいもの知り、旧きものを再発見する。わたくしたちはクキ様たちと、そういう形でありたいのです」


 それはつまり。


「儂とは同じ方向を向けると思っているのか」

「もちろんですの。同じ地に生きる民として、同じ未来を見ることが出来ますわ」

「……模擬戦争でなにを知った?」

「見積もりの甘さと、慢心を」

「ならば、儂と同じだな」


 苦笑する。

 若人たちは、いつだって必死で、真面目だ。

 そして大人は、その必死さと真面目さに、いつだって気づけない。


 ――齢七十。よく考えてみれば、敵たる竜に比べれば、儂とてまだまだ若輩に過ぎないか。


「どうすればいい」


 淡々と言う。


「どう……とは?」


 首をかしげる小娘に、クキはほんの少しだけ頬を緩めた。


「契約に署名は必要か? それともハンコか。電子化しているならば、説明がいただきたい。儂は機械が苦手でな」




クソつよおじいちゃんが仲間になった!


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― 新着の感想 ―
[一言] これで負傷した爺さんをぺろぺろする女装男子の姿が見られるようになったわけか。 めでたしめでたし(。。
[一言] 温故知新って知ってるか爺さん? こいつは老若男女すべてに当てはまるんだぜ?
[一言] これはいわゆるジェイ◯ンでなく剣聖……雷神シ◯が仲間になったような展開
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