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第三章【京都ダンジョン遠征編+古都ドウマン模擬戦争編/ニンジャ・ヒーロー・コンプレックス】

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56 銀光二閃



 『複製:A』による秒間数十連打のねずみ算式増加術。

 炸裂した手りゅう弾の合計数は、おそらく百以上。

 さすがの鬼熊も、ただでは済まないはずだ。


「……ぐぁッ!」


 そして、僕もまた、ただでは済まなかった。

 『幻覚魔法:B』は手の届く場所に幻覚を生み出すスキルだ。だから、僕がやったことは、端的に言えばただの自爆なのだ。

 ごろごろと地面を転がり、玉砂利が肌を削る。

 全身が痛い。脳がガンガンと震える。けれど、生きている。

 死んでいないのは奇跡――などではない。もちろん、生きているだけの理由がある。

 『粘液魔法:C』で粘液を生み出し、複製で増やして全身を覆っておいたのだ。

 ダイラタンシー効果を狙えるほど器用ではないけれど、緩衝材としてこれ以上のものはない。

 『幻覚魔法』で誤魔化したのは、全身に粘液を纏った僕の姿そのもの。

 僕は幻覚のすぐ後ろで手りゅう弾を爆増させていた。

 爆発の波にもまれながらも全身を覆う粘液を増やし続け、爆風で緩衝材を剥がされる前に補充する力技で、耐えきった。

 いや、内臓がぜんぶぐちゃぐちゃになって位置をシャッフルしたのかと思うほどの衝撃が、全身を駆け巡ったのだ。

 とうぶん立てる気がしない。


 ちかちかする視界に、濃霧が広がった。

 鬼熊を倒したのだ。気を失うのは、まだ早い。

 最後の仕事が残っている。

 両手を口へ。

 爆風で散らされた紅葉が舞う空中――その空気そのものに、触れる。

 ネーミングセンスはないと言われる僕だけれど、今ばかりはカッコよく決めさせていただこう。


「風遁・紅葉嵐の術……!」


 爆発的に増やした呼気が、濃霧を押しのけ、吹き飛ばす。

 内側に隠れていたぬらりひょんが、認識できないヒト型をあらわにする。

 あとはタンバくんを信じるだけ。


 ぬらりひょん(怪竜キヨモリ)が型を着替えるよりも早く。――速く。

 二度、銀光が閃いた。



 ●



 最悪な作戦でした、とタンバは瞠目した。

 こんなプラン、英雄ならぜったいに選ばない。

 けれど、イコマは提案した。自分も乗った。

 勝てる目が見えたからだ。


 ――いえ。それだけではありませんね。


 勝てると思ったから、だけではない。

 イコマを信じたのだ。イコマに信じられたように、イコマを信じた。

 だが、だからといって、やはり嫌な作戦には違いない。

 濃霧が晴れた直後、死力を振り絞って走った。

 忍者刀を二度振った。重い肉を裂く感触が、腕に残っている。

 動きを止め、確実にとどめを刺すために、ヒト型の腹を二度、裂いた。


「……最悪の気分ですよ、イコマさん」




最悪の作戦ってなんだ……?

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相手をはめてただひたすらに攻撃するのと 相手を煽って自滅させるのが最悪の作戦
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