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第三章【京都ダンジョン遠征編+古都ドウマン模擬戦争編/ニンジャ・ヒーロー・コンプレックス】

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55 閑話 キヨモリ、爆裂



「殺す前に、聞きたいことがある」


 イコマの言葉を、キヨモリは不快に思った。


『もう殺せると確信を?』

「確信はないけど、うまく行ってからだと聞けないじゃん」


 それもそうだ。

 キヨモリは鬼熊の手を握ったり開いたりして感触を確かめながら、うなずいた。


『いいでしょう。面白そうだ。聞くだけ聞いてあげますよ』

「竜王の目的はなに?」

『……ほう』


 踏み込んできたな、と唸る。


 ――しかし、この質問は非常に難しいですねぇ。


 答えることは、不可能だ。なぜならば。


『私たちも知らないのです。……私たち竜は、竜として在ることそのものが目的です。つまり、人間たちに恐怖を振りまき、脅威そのものとして振る舞うこと』

「……へぇ。じゃあトップの目的はどうでもいいわけか。暴れられれば、それでいいと」

『ご理解が早くてよろしい』


 くく、と笑みをこぼす。


『そもそも、我ら竜は想像が産み落とした獣です。言葉を使い、交渉をし、理屈で語れど、その本質は獣に他ならず。目的などどうでもよろしい。楽しくあれば、それでいいのですねぇ』


 両腕を構え、向き直る。

 鬼熊は物理特化の妖怪だ。速度はサイズ相応の獣クラスだが、タフネスとパワーはAランク相当。スピードも四足歩行動物のそれだ。

 対して、相手のAランクスキルは『複製』『傷舐め』と『スピード強化』。

 体躯の差も加味すれば、こちらが圧倒的に有利。ただし、相手には無尽蔵の現代兵器を持つ。特に爆弾類は危険だ。

 鬼熊を攻略しうる攻撃力から逆算して、イコマへの対処が優先。


 ――ですが、同様の判断を下した結果、見上げ入道は攻略されてしまいました。


 で、あれば。


『まずは少年……!』


 当たれば頭を弾き飛ばす威力のベア・ナックル。

 タンバはたしかに速いが、見るからに消耗している。

 拳はやすやすと回避されるが、やはり動きに先ほどまでの精彩がない。

 スタングレネードの閃光と、その後の見上げ入道攻略で、タンバの体力は極限まで削られているはず。

 むしろ、まだ動けているのが異常なのだ。


 ――『忍術』の身体運用法があろうと、タフネス強化を持たない以上、いつかは消耗で足が止まるはずです!


 追いすがり、爪と拳をぶん回す。どこでもいい。当たれば勝ちだ。


「うわ、く……!」


 回避のたび、タンバが苦し気に呻く。思うように体が動かないのだ。無理もない。全身が悲鳴を上げているだろう。

 そして、タンバ相手に近接戦闘を挑み続けることで、もうひとつ利点が生まれる。

 爆弾の無効化だ。


『仲間もろとも爆破するわけにはいかないでしょう、イコマさん――!』


 完璧なプランだ。

 にやりと笑うキヨモリの前、タンバとの間に、ひとつのものが投じられた。

 丸い、拳大の大きさの兵器だ。


 手りゅう弾。円柱状の見た目の、爆弾。


『――なッ!?』


 判断は一瞬だった。


 ――迷いなく投げ入れた!? もろとも爆破……いや、違いますねぇ!


 イコマは仲間を見捨てない。

 もろとも爆破なんて、するわけがない。

 で、あれば。


 ――ブラフ! スタングレネードで、タンバさんの逃げる時間を稼ぐ気ですか!


 とっさに大きな両腕で顔を覆う。音は仕方ないが、光さえ凌げれば問題はない。

 そして、タンバもまた至近距離で爆音、閃光を食らうことになる。

 キヨモリの……鬼熊のタフネスなら、どちらも気絶には至らない。せいぜいが数秒、動きが止まる程度。

 しかし、タンバは違う。真正面から食らえば気絶はほぼ確実、目を覆っても、耳をふさいでも、ここまで至近距離であればさすがに無意味。

 回復の早いキヨモリが、タンバより先に動き出し、少年の命を奪う。


 ――勝ち確です!


 そして、キヨモリは爆音を待った。

 たっぷり五秒ほど待って、けれど、爆音はなかった。


『……む?』


 ちらりと前を見ると、玉砂利の庭の上、遠くまで走って逃げたタンバと、そして足元に落ちているスタングレネードが見えた。

 起爆ピンが抜かれていなかった。


「やーいやーいっ、引っかかったなクマトカゲ……!」

『おのれ……!』


 思わずイコマに文句を言おうとしたが、そんな暇はない。

 タンバに距離を開けられてしまった。この五秒で、五十メートル以上だ。

 横合い五メートルほどの距離にいるイコマのほうが近いのだ。


 ――どちらかに距離を詰めなければ爆破されます!


 狙いは逸れたが、ともかく行動だ。

 キヨモリはとっさに前足を下ろした。

 体長三メートル級の大獣だ。イコマに近づくためには、ほんの一秒あればいい。

 走るというより、身体を前に倒す形だ。

 それだけで、五メートルの距離が二メートルになる。


 ――近づけば爆破されませんからねぇ!


 タンバは逃がしたが、結果的に『イコマはだれも犠牲にしない』とわかった。

 ならば、やはり至近距離でパワーファイトが最適解。

 にやりと笑うキヨモリの前、イコマとの間に、多数のものがぼろぼろと零れ落ちた。


 手りゅう弾だ。それも、多数多量……バケツに溜めてぶちまけたかのような量。

 すべて、ピンが抜かれていた。


 ――は?


「こっち来てくれたから、助かったよ」


 四つん這いになったキヨモリの目線正面に、ちょうどイコマの顔があった。

 どろり、とその輪郭が溶けていく。

 まるで最初からなかったかのように。

 キヨモリは、それがなにかを知っている。


『……幻覚魔法!?』


 直後。

 一瞬にして莫大量に複製された手りゅう弾の津波が、炸裂した。




★マ!

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― 新着の感想 ―
[一言] 化け物 VS 化け者
[一言] タンバ君がそもそも幻覚にすり替わってるかと思ったらこっちか!
[良い点] 戦巧者っぷりがいい!
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