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第三章【京都ダンジョン遠征編+古都ドウマン模擬戦争編/ニンジャ・ヒーロー・コンプレックス】

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54 キヨモリの攻略法



 スタングレネードを投げたのは、単なる思い付きだった。

 発掘した装備の中で、使いこなせていなかった爆弾のひとつ。

 一瞬でいいから、キヨモリの動きが止まればいいと思っただけ。

 そうすれば、タンバくんがなんとかしてくれるに違いないと信じた。


「見上げ入道――見越しました!」


 事実、なんとかしてくれた。

 行き当たりばったりで、安心安全とは言えないけれど、少年は攻略を為した。

 だったら、次は僕の番だ。

 玉砂利の上で対爆姿勢から起き上がり、急速に小さくなるキヨモリ目掛けて走り出す。

 このまま小さくなれば、弱くなる。マダム・ハッシャクのように。その隙に倒す――!


『ぬう……!』


 けれど、キヨモリは隙を嫌った。

 頭を振ってタンバくんを振り落とし、同時に鱗のすき間から濃霧が吹きこぼれた。

 牽制代わりに薙刀を投げつけながら、片手で筒を作って手に当てる。

 風遁・超絶すごい風ブッパの術だ。

 ごば、と風が吹き、濃霧を散らした。


「――いない!?」


 跡形もなく、キヨモリが掻き消えていた。

 その場に残るのは、きょとんとした顔の仲間が二人――違う!


「ぬらりひょんは一度見た……!」


 片方はタンバくん。ならば、もう片方……よく見ても顔が認識できないほうがキヨモリだ。

 ぬらりひょんの妖術で気づくのが遅れたけれど、ヒト型サイズなら薙刀でじゅうぶん。

 ぶん回した薙刀は、しかし、がきん、という音と共に受け止められてしまった。


『……妖怪総大将です、着られる型がなくなるわけないでしょう……!』


 くるる、と獣が唸った。巨大な鶴に似た鳥類で、顔はくちばしの生えた人面。ただし、羽毛ではなく妖しい紫の鱗が体表をびっしりと覆っており、頭には双角が生えていた。

 薙刀を受け止めたくちばしのすき間から、青い炎が漏れ出ている。

 瞬時に他の妖怪に切り替えたらしい。


『このまま燃えなさい……!』

「させません!」


 鳥の背後、スタングレネードの影響から脱したタンバくんが忍者刀を振るった。

 鳥の細長い首を、高速で刈り取る。


『ぐ、ぬ……!』


 ぶしゅ、とまたしても濃霧が湧いた。

 薙刀から反発力が消える。

 すぐさま風遁で濃霧を散らすと、僕ら三人が――だから、違う!


「めんどくさいなぁ、おまえ……!」

陰摩羅鬼(おんもらき)程度の妖怪、いくらでも在庫はあるんですねぇ!』


 顔を認識できないほう、ぬらりひょんになったキヨモリに小銃を向けるも、次の瞬間には別の妖怪になっている。

 今度は、体長三メートル以上はある巨大なクマだ。頭にはやはり角があり、体表は竜鱗。


鬼熊(おにぐま)です! 物理での勝負がお好みなら、これでお相手しましょう!』


 まずいなぁ、と奥歯を噛みしめる。

 僕が知る妖怪だけでも、二十以上はいるだろう。実際には百どころではない数字を持つはず。

 巨大な竜だった見上げ入道だけではない。竜と妖怪のハイブリッドみたいなものを、キヨモリが言うように『型を着用』できるとすれば、持久戦は無茶だ。


「……まずいですね、イコマさん」


 音もなく隣にやってきたタンバくんが、マフラーを口元に押し当てて言った。

 うん。まずいです。


「……首を落としても死なないなんて、反則ですよ」


 そうだ。

 人面鳥――陰摩羅鬼とかいう型の首を切ったのに、こいつはぴんぴんしている。

 これじゃ、攻略不可だ。ダンジョンとして破綻して……いや、そんなはずはない。

 キヨモリはゲームを楽しもうとしている。ならば、攻略不可能なデザインにはしないはず。


「――ああ、そうか」


 ふと、気づく。


『なにか、お気づきになられましたか?』

「必ず一度、総大将のぬらりひょんに戻るのは――他の妖怪になるためには、ぬらりひょんの型を経由する必要があるから、だな?」


 キヨモリ――鬼熊の口元が、にやりと歪んだ。


『ええ。ご名答。ですが、切り替えの瞬間はほんの数秒です。ぬらりひょんの能力で一瞬でも私を見失えば、その隙に次の型を着用できるんですねぇ』

「いや、そうとわかれば攻略は簡単だよ」


 首をかしげる鬼熊(キヨモリ)を尻目に、僕は隣のタンバくんに耳打ちをする。

 少年は目を見開いて、その後、半目で嘆息した。


「……イコマさん、最悪ですよ、それ」

「ごめんって」


 苦笑する。

 ただ――うまくいけば、次に型を切り替えるときに、僕らはキヨモリを打ちとれるはずだ。




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