表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
#壊れた地球の歩き方 【コミカライズ全3巻発売中!】  作者: ヤマモトユウスケ@#壊れた地球の歩き方 発売中!
第三章【京都ダンジョン遠征編+古都ドウマン模擬戦争編/ニンジャ・ヒーロー・コンプレックス】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

159/266

52 閑話 キヨモリ、閃光の末に



 キヨモリは、己の一撃がたやすく回避される様を見た。


『さすがに速いですねぇ……!』


 タンバだけでなく、イコマも十分に速い。

 いまキヨモリが身に着けている妖怪の型は『見上げ入道』だ。

 見上げれば見上げるほどに巨大になる妖怪で、人間サイズの相手からすれば、必ず見上げる形になるため、『妖怪ルール』の支配するダンジョン内部では無限大まで肥大化できる。


 ――仕組みに気づけますか!?


 嗤って、キヨモリはさらに爪を振るった。己は二足で立ち、前足を武器として扱うスタイル。小回りは効きづらいが、サイズゆえに末端速度はかなりのものである。

 二手に分かれたうち、狙うべきは遅い一方、イコマだ。

 巨大化した竜に致命傷を与えられるものがあるとすれば、それは『複製:A』で爆増された近代兵器の火力。

 攻略を観察する中でも何度か目にした、爆弾系の武装だ。


 ――逆に、このサイズでいる限り、タンバさんは脅威になり得ませんからねぇ!


 武器は忍者刀のみ。個人が持てる武装のサイズも大したことはない。

 少年は無視していい、と判断した。


 ――惜しむらくは、二人しかいないことでしょうか。複数の人間がいれば、見上げられる回数も増えて、いくらでも巨大化できたのですが。


 残念に思いつつ、尻尾を振り回す。

 イコマ狙いの尾が庭園の玉砂利を吹き飛ばし、余波が紅葉を散らす。

 さながら紅色の吹雪だ。


『……器用に避けますねぇ!』

「そりゃどうも!」


 束ねた丸太のような太い尾の振り回しを、薙刀を使った棒高跳びの要領で飛び越えられた。

 よく絞った筋肉だ。ステータス補正だけでなく、普段から鍛え上げ、身体の扱い方も訓練しているのだろう。


 ――しかし、避けているだけでは勝てませんよ!


 イコマが回避し、己を見上げた。

 ぐん、ともう一回り巨大化する。現在、全長は十二メートルほどだろうか。


「……デカくなるなよ! ずるいなぁ!」

『グリッチ使いまくったひとに言われたくないですねぇ……!』


 両腕を振るう。

 ドウマンは自身のリソースを『黄金』に割いていた。己はリソースの大半を『妖怪ルール』の成立に回している。


 ――純粋な戦闘力でいえば、私とドウマンは五分でしょうねぇ。


 同じサイズで殴り合えば、ひょっとするとドウマンのほうが強いかもしれない。

 だが、現実改変能力は己が上だ。


『……っと!』


 顔面に、なにかが飛んできた。とっさに回避する。

 複製した薙刀だ。両腕を避けつつ、膂力任せにぶん投げたらしい。


 ――鱗で弾ける程度の攻撃ですねぇ。


 つい避けたが、次からは受けても問題ないだろう。

 腕を振るう。また避けられる。よく避けるものだ。そして、薙刀が飛んできた。

 受ける。かん、と鱗で弾き飛ばす。薙刀が宙に落ちていく。


『その程度では傷ひとつつきませんねぇ!』


 嗤うと、イコマが無言で大量の薙刀を投げてよこした。

 すべて鱗で弾き飛ばす。


『ふはは、無駄ですよ、無駄無駄――』


 言葉の途中で、薙刀の群れが炸裂した。


『――ぶあッ!?』


 驚いた。同時に、鱗に圧がかかる。ぴし、と軋む音がする。

 薙刀の中に、手りゅう弾が紛れ込んでいたらしい。


 ――常套手段! しかし、ひとつでは鱗が傷つく程度……!


 巨大化すればするほどに、鱗も分厚くなるのだ。

 このまま『見上げ入道』だけで押し切れると、キヨモリはそう思った。

 開き直ったイコマがプラスチック爆弾を何度も投げつけて来るが、もはや鱗を割ることすらできない火力だ。鱗が軋みもしない。


 ――詰みましたかねぇ!?


 思って、さらに爪を振るったその時、目の前で閃光と爆音が弾けた。

 スタングレネードだ、と判断し、ほんの一瞬、動きが止まる。

 人間が生み出した、強烈な閃光と爆音で脳にダメージを与え、失神(スタン)させるための、殺傷力のない爆弾。

 だが、殺傷力がないならば、やはりキヨモリには効果がない。

 竜の目だ。閃光に視界が焼かれても、五秒もせずに視界が戻る。


 ――無駄な足掻きです!


 にやりと嗤う。またしても体が、ぐん、と変化した。


『――む?』


 視界の中、地面が近くなった。


 ――なぜです? 見下げられることはないはずですが。


 疑問する間に、もう一度、身体が小さくなった。現在、体長は九メートル。


『……なにをしたのですか!?』


 問いかけると、答えは上から来た。


「見上げるたびに大きくなる、見上げ入道……ですよね。図書室のようかい図鑑で見たことがあります」


 頭上だ。

 ちょうど角の間に、わずかだが重みがある。

 それは、火力がないからと後回しにした相手。

 つまり。


『――全力で動く竜の体を、私に気づかせぬまま登ったのですか!?』


 ゴーグルをつけ、首元のマフラーをたなびかせた学ランの少年が、キヨモリを頭上から見下ろしていた。




下の星から評価してくれたら作者が巨大化します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↑の☆☆☆☆☆を押して作品を応援しよう!!

TOブックス様から書籍一巻発売中!!

TOブックス様のサイトはこちら
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ