51 妖怪総大将
第三ステージのボスもまた、墓場の中の広場に待ち構えていた。
六つの腕を持つ、身長四メートル近い大鬼と、周囲には数匹の猫又がごろごろ鳴きながら転がっている。
広場の外側にいる僕らに反応する様子はないので、古都攻略戦争で見たボス鹿のように、行動できるエリアが限定されているタイプのボスだ。
しっかりと準備をして挑める――いや、ほんとうは霧の中で迷い込むような形だったのか。
気づかずに迷い込めば、猫又に惑わされ、あの巨大な鬼に蹂躙される。
ううむ、性格の悪いゲームデザインだ。いまは晴れているけれど、濃霧を前提にした、きわめて厄介な中ボスである。
そして僕らは広場に大量のスプレー缶とプラスチック爆弾を投げ込み、広場全域を吹き飛ばした。
「これがカグヤ朝廷兵部攻略兵団のやり方だ……!」
「お兄さん、総意みたいな言い方で私たちを巻き込まないで」
「これがふつうのひとの戦い方なのですね、勉強になります」
「タンバ少年、ちょっと悪影響を受けすぎなの。よくないよ」
ともあれ、三つ目の魔石を手に入れ、第三階層はクリア。
濃霧が薄れ、モンスターが出現しなくなった墓場の端に、もはや見慣れた真っ赤な鳥居が出現した。
これが最後。ようやく怪竜キヨモリの顔面をぶん殴ってやれそうだ。
●
鳥居をくぐった先にあったのは、社だった。
「……竜ってのは意外と和風趣味なの? ドウマンもそうだったけれど」
もとからあった神社を『組み換え』て構成したのだろうか。神社の境内か、日本庭園か……そういう見た目のフィールドだ。
玉砂利に敷かれた赤い布の上、茶道の野点傘の陰に、肘をついて横たわっている人影がある。
……顔は、やはり認識できないけれど、ここにいるやつは一匹だけのはずだ。
『来ましたね。……爆弾を外から投げ込むのは反則では?』
「悪質な霧のトラップよりはましでしょ」
メンバーは僕とタンバくんだけ。
ぬらりひょんの前例を思うに、攻略人数を増やしすぎるとフレンドリーファイアが発生するに違いないからだ。
それならいっそ、単独戦闘力が高いタンバくんと、無尽蔵の火力を提供できる僕のツーマンセルで挑んだほうがいいと判断した。
「で、ボス戦は? どういうルール?」
『共存のお話は、やはり呑んでいただけないと』
「少なくとも、アンタとはしない」
『手厳しいですな。しかし、紅葉を楽しむくらいの余裕を持たれてはどうです』
キヨモリが言うように、庭園内は見事な紅葉の盛りで、キヨモリの趣味か、光を発する石灯篭でライトアップまでされている。
美しい光景だ。ただし。
「……『組み換え』て作ったんだろ。もとになった光景を取り返しに来たんだから、この光景を美しいとは思うけれど、このままにするつもりはない」
『ふむ。つれない方だ。……いいでしょう、はじめましょうか』
キヨモリが立ち上がった。どろりと輪郭が溶ける。
そこにいたのは、竜だ。二本の角は大きく、顔は爬虫類のそれ。鱗は紫色で、ぬらぬらと妖しく光を反射している。
ドウマンを彷彿させる、オーソドックスな西洋竜型。――ただし。
「……デカい!?」
「目測で十メートルはありますよ、イコマさん!」
『ここでのボス戦、そのルールは……単なる戦闘です。直接戦闘能力ならば、ドウマンよりやや上程度。あなた方を相手にするには、少々心もとなくはありますが……』
キヨモリがにやりと笑った。
『……このダンジョンでは、私は妖怪総大将ぬらりひょん。あらゆる妖怪の型を着用することが可能です。邪道攻略、できますか?』
風を裂いて、竜の爪が唸る。
僕らのいた場所に、巨竜の一撃が叩き込まれた。
第三階層のボスがさらっと死んでキヨモリ戦へ。
さて、どうなるか。
ついでに言うと作者のストックもこの話で切れました。
さて、どうなるか。




