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第三章【京都ダンジョン遠征編+古都ドウマン模擬戦争編/ニンジャ・ヒーロー・コンプレックス】

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48 閑話 タンバ、さらに走る



 場所は、第二ステージの雑木林になった。

 霧が比較的薄く、ゾンビも発生源たるボスを潰したため、なにも湧かない。

 適度に障害物があり、そしてまた、適度に傾斜もある。


 ――忍者向きの地形です……!


 こちらが有利だと、タンバは思う。しかし、場所を決めたのはイコマだ。

 なにか策があるのか、あるいは単なる考えなしか。


 ――わかりません!


 これまで一緒に攻略をやってきて、イコマの姿を近くで見ての感想だ。

 わからない。深く考えていることもあれば、まったくの無策、無謀で突き進むこともある。

 馬鹿なのか、天才なのか。紙一重というやつなのかとも思うが、本人の評価は『まわりに支えられてきただけの、ふつうのひと』だ。


 ――そんなひとが、日本でいちばん最初にダンジョンを攻略し、二匹の竜を下して、京都にまで辿り着いたというのですか。


 おかしい。

 けれど、おかしくないとも、感じた。

 カグヤ朝廷は、古都ドウマンはいい場所だ。

 攻略兵団も、いいひとたちだ。

 優秀なひとがたくさんいて、けれどやっぱり、みんなふつうなのだ。

 がんばって結果を出す、ふつうのひとたちの集団。

 古都攻略戦争のときには、驚いたことに、兵士たちの中にAランクのスキル持ちはひとりもいなかったという。

 その頃、タンバは和歌山の那智勝浦の集落で、速度を活かしてモンスター狩りに参加してはいたが、ダンジョン攻略なんて想像もしなかった。

 ……いや、想像はした。けれど、勇気がなかった。

 勝てる相手とだけ戦って、それで命が無事なら、それでいいじゃないか――そんな風に思っていた。


 ――ラジオで聞いた英雄の話。凄い人がいると、知りました。


 けれど、その英雄は、実はふつうのひとで。

 Bランクの、どちらかといえば生産系のスキルを得たひとが、多くの仲間の支えを得て、勇気を振り絞り、命の遣り取りに足を踏み入れたのだという。

 昨日もそうだ。ナナが霧に呑まれたと判断した直後、イコマは迷わず進んだ。止めようとした部下の言葉に「危険も責任もわかっている」と「でも僕が行く」でゴリ押しして、濃霧の中に身を投じた。

 大切な人を助けたいと思うのは、たしかにふつうのことだ。けれど、だからって、ああもためらいなく走り出せるものか。

 小学校ではだれも教えてくれなかったが、『ふつうのこと』は非常にハードルが高いのかもしれない。

 ふつうのひとであることは、実はとても尊いことなのかもしれない。


 ――ならば、英雄とはなんなのですか。竜を……トラキチを殺した以上、僕は英雄であらねばなりません。けれど、イコマさんは英雄ではなくて……。


 タンバは雑木林の中で、位置に着く。月明かりに照らされた山道。

 互いの距離は、約五十メートル。タンバなら、初速がやや遅いとしても、三秒の距離。

 イコマを見ると、彼は無言でうなずいた。タンバも会釈を返す。

 本気の勝負だ。イコマは普段使いの武器での勝負を提案した。

 つまり、タンバにとっては脇差で、イコマにとっての薙刀で。


「……それじゃ、双方。本気で――ただし、殺すところまではいかないよう自制心を持って、見合って見合ってー……」


 二人の中央くらいの場所で、ナナが気の抜けた号令をはじめた。

 足を前後にゆるく広げ、体を軽く前傾にして、左手は前に、右手は背中に回して脇差の柄を握る。


 ――僕は騎士ではありませんし、忍者でもありませんが。


 思う。


 ――加えて、英雄でもないのなら……英雄でなくていいのなら、トラキチを殺した僕は、いったいなにになればいいのですか……!


「はっけよーい、のこった!」


 号令と共にナナの手が振り下ろされると、タンバは走った。

 三秒だ。イコマほどの相手でも、三秒で出来ることは少ない。

 一秒、十五メートルほどを走ったところで、イコマが両手を打ち合わせた。合掌のようなポーズだ。

 二秒、三十五メートルほどで、両手が開かれ、同時に『なにか』が視界を覆った。

 三秒を迎える前に、タンバは両足のかかとを前に出し、惰性で山道を抉りながら急停止する。

 猛烈な烈風と共に、タンバの視界を急速に奪ったもの。それは。


 ――霧ですか!


 まるで第三ステージのような濃霧が、タンバとイコマの間に立ち込めていた。




タンバくんは自動車並みの速度で走れますが、タフネス強化を持っていないため、長距離を走る際はゴーグル等の装備が必須です。目が痛いから。マフラーも顔の露出を覆う用です。

学ラン少年忍者タンバくん十三歳。十三歳はショタです(まっすぐなまなざし)

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