46 確認
『複製』した呼気で霧を押しのけて、霧のない空間を作る。
その空間に手を突っ込んで、可能な限りの質量で『空気』を複製する。さらに霧が押しのけられるので、もう一度『複製』する。
ぐるぐる体を回しながら全方位に風を送り込む。さながら僕は台風の中心である。ぶおおん。
そんな感じでスキルの連打を続けると、どうにか周囲が見えてきた。
「……墓地か。うわ、オーソドックスに怖いな」
卒塔婆や石灯篭、碑銘の削れた墓石がランダムに並び立ち、石畳と土の道が入り乱れてぐちゃぐちゃにつながっている。
……まっすぐ歩いたつもりが、こんなところにいるのは、道のせいだろう。
見たところ、かなり蛇行しているし、Y字路が大量に用意されている。
霧の中、唯一見える足元の道を見て歩いて進み、途中で引き返せば、違う道に迷い込む……そういう仕組みだ。
マッピングが必要な階層である。
あと、少し離れた場所に赤いものが見えた。きっと鳥居だ。
距離的に――こんなに距離感が信用できない場所もないけれど――おそらく入り口側。
もしもゴール側なら、近くにボスがいるはずだし、さきほどの鬼も化け猫も魔石を落とさなかったからボスではない。
マダム・ハッシャクと違って普通に倒せたあたり、この階層ではアレが通常湧きするモブなのだろう。厄介すぎる。
ひとまず風をぶおんぶおんと『複製』しながら鳥居の方向へ歩いていくと、石燈籠の陰からひょっこりと人影が現れた。
「急に霧が晴れたからなにかと思ったら、やっぱりお兄さんだ」
黒く、艶やかな長髪を後頭部でまとめた美少女。ナナちゃんだ。
ほっとする。やっぱり無事だったのだ。
ナナちゃんもまた息を吐きつつ、しかし油断なく薙刀を構えて僕を睨んだ。
「いちおう聞いておくけど、お兄さん、ほんもの?」
「そうだよ。そうでないと、わざわざ霧を晴らしたりはしないでしょ」
「だよね。……それじゃ、私もほんものかどうか、たしかめる?」
そう言われたので、遠慮なく近づいて、胸部装甲をしっかりと確かめた。
念のため、両手でしっかりと、あるいはがっしりと触って、ナナちゃんらしい、ちょうどよいバランスであると再確認。
うむ、これこそナナちゃんの証である。
「――うん! この平たさと薄さと固さはナナちゃんだ! 間違いないね!」
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「おかえりなさい、二人とも! 無事で――イコマさん、どうしたんですか、そのほっぺ! 負傷ですか! 真っ赤ですよ! まるで誰かに往復びんたをくらったみたいです!」
「ああうん、まあその……ちょっとね」
「アレ、ナナさんも顔が真っ赤ですよ! なにかあったのですか!」
「ごめん、タンバ少年。詳しくは聞かないで」
「……そ、そうですか……」
……。うん。
なにはともあれ、二人で無事に帰れて、よかったね!
と、いうことにしておいてください。
区切りが短い話が続くな……ちょっと物足りないな……。
と思っているそこのアナタ!
僕もです!(じゃあ長くしろよ)




