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第三章【京都ダンジョン遠征編+古都ドウマン模擬戦争編/ニンジャ・ヒーロー・コンプレックス】

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45 猫又と鬼



 棍棒を持った筋骨隆々な鬼は、見た目通りのパワーファイターだろう。

 鬼――伝説の存在だ。おそらくAランク級のパワーを持つと考えていい。

 そして、愚策にも仲間思いな僕(絆の力でニセモノを見破ることが出来る)の前でナナちゃんに化けた相手は、おそらく直接的な戦闘力を持たない。

 霧に紛れて他人に化け、陽動をおこなうだけだ。

 ツーマンセル。隙を生み出す変身モンスターと、隙に打ち込む鬼型モンスター。

 いい組み合わせだと思う――しかし、だ。


「もうとっくにアタマに来てるんだ、こっちは……!」


 この相手はおそらく、同様の手口を用いてナナちゃんに奇襲をかけた。

 気づくのがほんの少し、ほんとうに少しだけ遅かったけれど、第三ステージに出る鳥居がないのではなく、この霧中こそが第三ステージなのだ。

 ぶんぶんと振るわれる棍棒を避ける。反撃しようと小銃を乱射するけれど、鬼は数発を体に受けながらも霧の中に戻っていく。

 鬼が霧に沈んだ跡が、空中に軌跡となって残るほどの濃い霧だ。一度離れられたら、追いかけるのはむずかしくなる。

 どうするか。

 一瞬考えたあと、僕はとっさに手を口に当てた。

 できるかどうかはわからないし、やったこともないけれど――『複製:A』ならば、あるいは。

 ほんの思い付き。でも、土や粘液が増やせるならば、理屈の上では可能なはず。


 指を丸めて筒状……というよりメガホン状にした両手に口をつけ、穴に向かって呼気を吹き込む。

 そして吹き込んだ呼気を『複製:A』で増やす。増やす。増やす。

 秒間数十回、ねずみ算的に増えた呼気は、爆発的に体積を増し、メガホンの出口へと殺到。

 手が千切れるかと思うくらいの圧力と共に、前方へと放出される。

 結果的に生成されたものは。


 ご、ば……ッ!


 と、音がするほどの、豪風。

 前方へと拡散するのは、僕の呼気の複製であり、霧を含まない空気――透明な空気が、霧を押しのけて、吹き飛ばす。


 晴れる。


 濃霧のフィールドだ、すぐに周囲の霧が流れ込み、空間を覆い隠そうとするけれど、僕には見えた。

 五メートルほど離れたところから虎視眈々とこちらを狙う鬼と、その傍らに侍る二股の尾を持つ猫が。


「おお……ッ!」


 逃さない。

 短い距離を跳ぶように加速。

 小銃は効果が薄かった。狙って急所に当てられるほど、銃に習熟していない。

 であれば、使う得物はもちろん、背負った薙刀しかない。

 突然霧が晴れたことに、鬼たちはまだ対応できていない。ぐるりと体ごと回転させて、薙刀を振り回す。

 ナナちゃんが何度も見せてくれた、薙刀の端を持って振り回す、最大遠心力の一撃。

 僕の体と腕、そして三メートルの薙刀を合わせれば、リーチは四メートルに届く。

 小銃と違って、薙刀の練度は高い――ユウギリの地下迷宮で、触手相手に鍛えた剣筋だ。

 肉を斬り、骨を断つ感触が手に返る。会心の一撃が、鬼の首を飛ばした。

 そのまま、勢いがついて扱いづらくなった薙刀は手放し、猫又に躍りかかる。

 逃げようとした猫又の首を押さえつけ、力いっぱい絞めて、折る。

 かん、と放り投げた薙刀が地面に落ちる音がした。


「……は」


 と息を吐けば、鬼の首も、猫又の体も徐々に黒い粒子に溶けていく。

 勝った。

 数秒間、呼吸を整えると、手のひらが裂けていることに気づいた。呼気複製の圧力が、肌を斬り裂いたらしい。

 『傷舐め』で治療しておく。すぐにふさがるだろう。

 かなりの威力があったんだな、さっきの風。


「……タンバくんじゃないけれど、忍術っぽいね、コレ」


 風遁の……なんだろう。呼気爆圧の術? またネーミングセンスがないって言われそうだ。

 ともあれ、軽く装備を点検してから、再び歩き出す。

 ナナちゃんはこの霧の中にいる。どうやって探すかも、見当がついた。

 霧のせいで見つけられないならば、霧を晴らせばいいのだ。




猫好きのかたにはごめんなさい!

現実の猫ちゃんは大切にしようね!

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― 新着の感想 ―
[一言] 普通の体だと圧に耐えられないけど竜Bが……これもある意味ドラゴンブレスでは?
[気になる点] こっちのフィールドになる霧の複製はできないものか?
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