42 第三階層
さすがの忍者走法でも五往復、合計二百分を超えるランは疲労が厳しかったらしく、その日の攻略は打ち切った。
ダンジョン外は日も落ち、しかし、霧はない。いい夜だ。ほんものの。
京都の夜ってだけで、なんだか少しオシャレな気がする。
壊れてしまった地球だけれど、土地が持つ風情は残っている――少なくとも僕は、そう感じている。
「イコマさん、僕もう、ここがパンパンです……!」
「だいじょうぶ、すぐにマッサージしてあげるからね……っ」
と、攻略拠点の天幕でタンバくんのふくらはぎを揉みながら、京都の風情に思いをはせていると、天幕の外が少し騒がしくなったので顔を出す。
積み重なるみたいに密集して耳を立てる兵士たちと、ばっちり目が合った。
「……なに?」
「いえ、どうぞ続けてください」「僕らここでじっと聞いてるんで」「イコマ卿、ショタには攻めなんですね」「私はおにショタだと思います」
ただのマッサージだっての。
仕事しろよ、攻略拠点の保持だけでもやることは山ほどあるんだからさ。
「……ちなみにイコマ卿、その両手のぬるぬるしているやつは?」
「え? ああ、『傷舐め』のローション。疲労って、乳酸の蓄積と筋肉のダメージだから。塗り込むと効くんだよね」
兵士たちが全員黙り込んだ。なんで?
「どこがどうバグるとこういう思考になるのかなぁ」「ある意味合理的なんだよ……」「一周回って、邪な目で見てしまう私がおかしいのかも」「私はおにショタだと信じていました」
いいから仕事しろよ。
呆れつつ、テントに引っ込んでタンバくんのマッサージを続ける。
「んっ、あっ、ダメです、イコマさ……んんっ」
「あ、ここがいいんだ。じゃあもう少し強くするね……?」
五分後、別所で指揮にあたっていたナナちゃんが乱入してきて、なぜか彼女にもマッサージをすることになったりした。
京都らしさの欠片もない、騒がしい夜だった。
翌日、僕らは第二階層に再侵入した。
すでにゾンビもいなくなっており、第一階層と同じく、攻略するとモンスターが消えて安全地帯化するらしい。
探索すると、案の定、広間の奥に鳥居が出現していた。第三階層へ続く鳥居だろう。
いいペースで攻略が進んでいる。
「じゃ、また私が見て来るの。次はなんだろな」
のんびりした仕草でナナちゃんが鳥居をくぐって霧の中へ。
まあ、彼女なら大丈夫だろう――と、高をくくっていたのは、明らかな慢心だった。
信用はしていたけれど、だからといって、あまりにも無警戒過ぎた。
もっと慎重に、準備を重ねるべきだった。だって、最後のステージなのだ。なにもないわけがなかった。
十五分経っても、ナナちゃんは帰ってこなかった。
ナナちゃん……(´;ω;`)




