40 ゾンビパニックホラー
ゾンビパニックホラー。
文字通り、大量のゾンビが山ほど出てきて、わらわらと追ってくるタイプのホラーである。
「フィールドは雑木林。ただでさえ見通しが悪いのに、やっぱり霧が出ていて、視野は悪いの。鳥居から参道が続いているから、通り過ぎれば勝ち……なのかな。あるいは、どこかに中ボスがいるか」
ナナちゃんの薙刀を複製した水で洗浄しながら、話を聞く。
「鳥居から進んでいって、霧が晴れたあたりから一匹二匹寄ってくる。見るからにゾンビって感じ。とりあえず斬り捨てたんだけれど……」
少し言いよどむ。
「……マダム・ハッシャクはデカいし腕が爪だったからあんまり気にならなかったけど、ヒト型のモンスターを斬るのって、けっこうクるね」
「……お疲れ様」
再びなでなでをねだられたので、抱き締める。
古都のスケルトンもヒト型だけれど骨だったし、ユウギリのコロシアムはなまくら武器しか使えなかった。
刃物で肉体のあるヒト型モンスターを斬るのは、かなり負担がありそうだ。
「で、どうする? 試しに噛まれてみる?」
「ぜったいダメ。ゾンビに噛まれたものもゾンビになる……かどうかは不明だけれど、僕がゲームデザイナーなら間違いなくそうするし。ゾンビ感染が『傷舐め』で治せるかどうかはわからないんだから」
そう、ゾンビパニックものでもっとも厄介なのは、感染だ。
ウイルスだったり、呪いだったり、設定はいろいろあるだろうけれど、ゾンビに噛まれたものはゾンビになるというのがお約束。
で、あれば。
「集団での攻略は、むしろ危険かな。ゾンビの攻撃をすべてかわす機動力。戦闘では数体のゾンビを同時に捌く能力も必要。加えて、いざというときは高速で離脱が可能。そういう人員による、しっかりした偵察が必要だ。一撃も喰らわない実力を持つ戦士じゃないと、危険が大きい」
「そんな都合のいい人材、いる? 私だって自信ないよ、それは。まるで暗殺者みたいな立ち回りなの。……あ」
二人で会話しながら横目でタンバくんを見る。
そう、彼だけがすべての項目を満たすのだ。
彼は悩ましい顔で、なにも言わなかった。
そうだよね。どう考えても危険だ。
「だから、隊長として、僕はいったん撤退を進言するよ。バリケードを設営しながら進むとか、攻略法はいくつか試せるはず。安全だと確信できる方法で――」
「やります」
ぽつりとタンバくんが言った。
「……いや、タンバくん。いまも言ったけれど、かなり厳しいと思うし、危険だし……」
「やります。いえ、やらせてください」
タンバくんは両手で自分の頬をぱしんと叩くと、腰の脇差の位置を調整した。
「ここまで、僕はなにもしていませんから。危険だと思ったら、すぐに帰ってきます」
「……わかった。ぜったいに無理はしないこと。いいね?」
「了解です。ここでは隊長の指示に従います」
うんうん。いい子だ。
ナナちゃんもまたうなずいて、神妙な顔で僕を指さした。
「お礼にマコちゃんに好きなコスプレさせていいの」
「え、ほんとうにいいんですか!? やった――じゃない、間違えました! そういう不埒な報酬はけっこうです!」
うん。いいわけねえだろ。
僕のジト目をものともせず、ナナちゃんがしたり顔でうなずいた。
「浴衣とか、バニーガールとか、なんでもいいんだよ?」
「え、ほんとうにいいんですか!? それじゃ――間違えました! バニーとかちょっといけないと思います!」
「わかった、じゃあマコお姉さんに好きな男装させていいよ」
もうそれは普段の僕じゃないのか。
呆れていると、兵士たちがざわついた。
「マコ様に……男装を……?」「天才的発想……!」「なにが似合うかなぁ……学ランとか?」「あー、いいわね……少女みの中にあるマコ様の少年みの中にある少女みを堪能できるわ」
もう意味わかんねえよ。
タンバくんが、葛藤の面持ちを見せ、しばらくしてからうなずいた。
「……ブルマ体操服でお願いします……!」
キミほんとうに中学生か?
「ふふ、話がわかるね、タンバくん。さあお兄さん、男装してあげて」
「ナナちゃん、いっかい僕の性別をちゃんと思い出してくれる?」
呆れていると、タンバくんが真顔で僕を見た。
「勘違いしないでください。べ、別にマコさんの男装が見たいと思ったわけではないですからね!」
もうなんでもいいよ。
気を付けて攻略してきてね。
『傷舐め』前提で物量押しするイコマと『ノーダメ縛り』は意外と相性が悪かったりします。
バリケードを複製しながら道を作っていく方法もありますが、防壁はゾンビが縦に積み重なると突破されてしまいますからね。映画で見た。




