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第三章【京都ダンジョン遠征編+古都ドウマン模擬戦争編/ニンジャ・ヒーロー・コンプレックス】

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38 閑話【模擬戦争】 クキ、未来を見る



 取り押さえたのは、クキのほうだった。

 読み合いの先で、棒による打撃を甘んじて受けて、小娘の腕を掴んだ。一度組めれば、もはやこっちのものだ。強引に詰みまで持っていった。

 けれど。


 ――儂の負けだな。


 合気の技で、腕力に優れる若者の腕を捻り、跪かせ、背中を膝で押さえてうつぶせに組み伏せた。

 そのすべてを、左手一本でおこなった。技量はクキが上回っている。

 だが、その一瞬前。打たせた杖の一撃が、受けたクキの右腕を砕いていた。


「……最高の一打。儂があえて受けると読んで、確実に折るため、制圧されることを覚悟して全力を叩き込んだか」


 ぶらりと肘から先が力なく揺れる。

 容赦なく、折られた。


「……勝てないって、わかっちゃったから。アタシ、『パワー強化』もあるし、これしかなったし」


 小娘はそう言って、悔しそうに唇を噛んだ。


「だから、戦闘力を削いだ。腕一本じゃ、さすがに多勢に無勢だし」

「小娘、名前はなんという」

「……ヤカモチ」

「そうか。儂はクキだ」


 つぶやき、クキはヤカモチの拘束を解いた。


「よい戦局眼だ。個人戦ならば、儂の勝ちだが……」


 左手を上にあげて、ひらひらと振る。

 揃いの防具をつけた兵士たちが油断なく目を光らせて、クキを取り囲んでいた。

 カーボン製の盾や警棒を構えた兵士たちだ。

 揃いも揃って息を切らし、者によってはまだ足が震えているが、しかし、消えない闘志に燃える目を持つものたち。

 予想よりも五分以上早く、叩き伏せた八名の精鋭たちが立ち上がってきていた。


 ――まったく。こうもわかりやすく『折られても立ち上がる』姿を見せつけられたのでは、たまったものではないな。


 苦笑する。

 ヤカモチは、クキの背後が見えていた。

 もがき、立ち上がろうとする精鋭たちの姿を、信じたのだ。


「……集団戦ならば、儂の負けだ」


 ――精鋭たちでは儂相手は荷が重いと判断し、自らと引き換えに、儂の腕を持っていった。


 両手があれば、兵士の群れ相手でも問題なく戦えただろう。カグヤの座る玉座に肉薄することさえ可能だったかもしれない。

 だが、だからこそ、折られた。

 全体の勝利のために、自らの敗北と敵の腕を釣り合わせた。戦士としてのプライドを捨てて、自ら捨て駒の役を選んだ。

 片手で八名の相手は、さすがに無理だ。数で押し込まれる。


 ――自己犠牲。儂には無理な選択だな。


 クキなら仲間を待たない。辿り着かない可能性がある以上、自分以外のだれかに託すなどという選択肢はない。死ぬときは、ひとりだ。

 カグヤ朝廷は、個ではなく、群。

 復古勢は、個人が寄り集まっただけだが、カグヤ朝廷は集団での勝利を忘れない。

 見つめる先が同じなのだ。そして、視線は常に未来を向いている。


 ――最初から負けていたのだな。儂が見る過去は、ひとりで見る思い出でしかない。


 国とは共同体で、共同体とは集団だ。

 己ひとりの思い出に浸っていては、国にはならない。

 国とは常に、未来を見据えているもので――つまり、復古を掲げた時点で、クキの目指すものは国ではなかった。

 国の残影を、思い出の中に見つけたかっただけなのだ。


「誇れ、朝廷。貴様らの勝ちだ」


 宣言に、勝鬨の声があがる。

 それはつまり、カグヤ朝廷の勝利を示し、クキにとっては敗北の証であった。


 ――過去ではなく、未来を見据えて進む……か。


「……悪くない、敗北だ」


 瓦礫に座り込み、目を閉じる。

 弟子が帰ってきたら、ちゃんと話をしよう。

 逃げずに、言葉を尽くして向き合おう。


 己は師匠なのだから。




次からダンジョンに戻ります。


★マ!

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― 新着の感想 ―
[一言] 一方その頃、弟子の少年は性癖を歪まされていた。 あれ、時間軸違ったかな?(_’
[一言] 爺ちゃんは悟った……旅に出るのやめて戦闘教官しよう?
[良い点] 面白いです。 [気になる点] 少し思ったのですが【模擬戦争】は閑話となってますが、主人公はでていませんが普通に本編の部類だと私は思います。視点切り替えな位置付けにになると思ったので。
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