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第三章【京都ダンジョン遠征編+古都ドウマン模擬戦争編/ニンジャ・ヒーロー・コンプレックス】

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33 閑話【模擬戦争】 ミワ、二百メートル先の敵



 戦況は朝廷側有利だと、ミワは判断した。

 人数に差はあるが、結局、相手は暴徒の集団だ。ロクな連携訓練もしていない。

 対して、こちらにはまず、装備がある。銃器はなくとも、イコマが全部隊に『複製』した自衛隊装備……ライオットシールドやボディアーマーがある。

 次には、訓練がある。半年間、モンスター相手だけでなく、人間も相手できるよう、訓練を続けて来た。

 そして最後にあるものが。


 ――絆だよ。


 凡庸でチープな言葉だが、つまりそれだ。

 古都攻略戦争にて、共に戦った記憶。

 烏合の衆が、街を取り戻す目的で集い、再開拓をおこない、今日この日まで育んできた共同体意識。

 カグヤ朝廷は、仲間なのだ。


「……感情の話だよなァ、オイ」


 物見やぐらの上で双眼鏡を覗き込みながら、呟く。

 クキという老人にも、そういう時代があったのだろう。

 多くの人間と出会い、連なり、仲間になって、なにかを成し遂げた時代が。


 ――過去だな。輝かしい記憶だ。


 だから、受け入れられない。

 仲間たちと築いた時代が、過去のものになってしまうのが、耐えられない。


 ――わかるさ。ウチらも、きっとそうなる日が来る。


 変わり続ける世界についていけなくなる日は、どんな人間にも必ず来る。

 だが。


 ――少なくとも、ウチらにとっては、いまが『時代』だ。


 体をぐるりと回し、視界を動かして、ミワは結論した。


「予想通りだな。クキの爺さんの姿が見えねえ」


 双眼鏡を下ろして、トランシーバーを手に取る。


「こちら総大将。アキちゃん、前線で爺さん見たか?」

『こちらアキ。――いえ、見ていません。逃げたのでしょうか』


 いンや、と応じてミワは笑った。


「朱雀大路の南端からスタートする……そういうルールにしたとき、あの爺さんは『部隊は五キロからスタートする』と言った。わかるか、アキちゃん。爺さんは『儂らは』とか『儂は』とは言わなかったんだ」

『……クキさん自身は、部隊に参加していない、と? ですが、それだと、どこに……。五キロより近いところからスタートしては、ルール違反になりますし』

「アキちゃあん、ようく考えてみろ。クキの爺さんは『過去』を立証する立場だ。天変地異で地球がぶっ壊れる前って意味でな」


 ミワは物見やぐらの上で身を回し、背後を見た。

 しつらえた舞台の上で居心地悪そうに座るカグヤ(風船付き)と、その隣で目を閉じているヤカモチを、だ。


「イコマが教えてくれただろ。おぼえてねえか? 平城京の朱雀大路は歴史の中で失われ、二百メートルが復元されただけになったって。爺さんの『過去』で考えれば、朱雀大路の南端はそこってことになる」


 その距離なら、もう双眼鏡は不要だ。

 物見やぐらの上から、肉眼で見える。

 ゆらりと、朱雀大路の横合いから、ひとりの老人が歩み出た。

 距離は約二百メートル。


「向こうも前線が勝てるだなんて思っちゃいねえ。こっちの人数を減らし、本命の戦士を通すための陽動だ」

『わかっていて、そのルールに?』

「わかった上で乗り越えてこそ、在り方を示せるってもんだ。そうだろ?」


 トランシーバーを下ろし、ミワは右手を挙げた。

 合図だ。


 ――本命がおいでなさったぜ、と。


 目指すものは、完膚なきまでの勝利。

 相手の策を許した上で勝って、未来の価値を知らしめるならば、前線の暴徒鎮圧は前座に過ぎない。

 倒すべきは、最初からただ一人だ。


「来るぜ、竜殺し(ドラゴンスレイヤー)の師匠がよ」




一日三話更新にしたからものすごい勢いでストック減っていってヤバいんですが、三章終了までなんとか走り抜けたいと思います(助けて)


★マ感レ!

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― 新着の感想 ―
[一言] 爺ちゃん博識! むしろイコマ君がよく知ってたな、と。 戦う前から勝つ理論だと200よりこっち寄りに先に戦力をまとめておく手もあったんでしょうけどね。
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