14 目覚め
思っていたよりも女子高生は回復していたようで、昼前には目を覚ました。
とはいえ大怪我と戦闘を超えた目覚めで混乱していたのだろう。
ストレスや不安、心に残る疲弊がPTSDのようになっているのかもしれない。
彼女は僕を見て大声で悲鳴を上げてしまった。深刻な症状だ。
「落ち着いて! 大丈夫! 僕は味方だよ!!」
「いやああああああ!!
こわいこわいこわいこわいこわい!!」
こういう時に大切なのは『敵ではない』『害意はない』と態度で示すこと。
僕は立ち上がり、大きく足を開いて両手を広げた。
武装していないことを証明したのだ。
「ほら、なにも持ってないよ! 安全だよ!
ほぅら、この身一つしかないだろう……!?」
「へ、へ、変態ー!! 見せつけるなぁー!!」
困ったな、どうやら僕を変態と誤認しているらしい。
なにが問題なのだろうか。
いや、もしかすると、過去に変態と遭遇したことがあり、記憶の混濁からその思い出を想起してしまっているのか?
だとすれば痛ましいことこの上ないが、あまり激しく叫んだり動いたりされるとまた傷が開くかもしれない。
なんとかして『僕は女性の味方である』と証明しないと、治療が無駄になってしまう。
また血を失ったりするとまずいだろう。
「安心してくれ!
僕は女性の敵じゃない、むしろ味方だ!
女性の生活に貢献してきた実績もあるんだよ!」
「ほ、ほんとう……?」
「ああ! 村では『ブラジャー大明神』と呼ばれ崇められていたくらいさ!
まあもう追放されちゃったんだけどね!!」
「おまわりさあああああんッ!!
ここに犯罪者がいまああああああすッ!!
村を追われた性犯罪者がいますぅうううううううッ!!」
ダメだ。混乱が徐々に激しくなっている。
少女にこれほどのトラウマを与える変質者がいたとは。
許せん。いつか成敗してやる。
まあそれはともかく、このまま激しく動かれ続けると、本当に傷が開いてしまいそうで怖い。
ここは心を鬼にしないといけないシーンかもしれない。
僕は覚悟を決め、震える少女に覆いかぶさって四肢を押さえ込んだ。
彼女の動きを止めるための一時的な処置だ。
「こらっ、動くな! じっとしろ!
僕がおなかを舐め終わるまで絶対に動くんじゃないぞ!」
「うわああああああああんっ!!
汚されるぅううううう!!」
びぇえん、と激しく涙を流しながら女の子が体をよじった拍子に、足の押さえ込みが外れた。
少女の膝が跳ね上がる。寝転がった状態から膝を立てて、蹴りを入れるような体勢だ。
そして僕は彼女を抑えつけようと、上に覆いかぶさっていたから、クリティカルヒットが発生した。
つまり、なにが言いたいかというと、とんでもなく鋭い膝蹴りが僕の股間に突き刺さった。
「おッ。――ふぅー……ッ!?」
『タフネス強化:C』があってよかった。
A大村の見張りの女の子がこのスキルを複製させていてくれなかったら、どうなっていたことか。
今度会ったら「キミのおかげで僕の睾丸は守られたよ」とお礼を言わなければなるまい。
とはいえ、男性の急所を膝で痛打された威力はすさまじく、真顔で床の上をのたうち回ることになったが。
「ぬ……ぅん……! ふぅん……!
よ、よし、まだ大丈夫、まだセーフ……!」
「あっ、あの、ごめん、蹴るつもりはなくて……その……本当は薙刀があれば一撃だったんだけど……」
「ま、待つんだキミ。一撃じゃダメなんだよ女の子になっちゃうから!
初対面で信用できないかもしれないけど、僕に他意はないんだ。それだけは信じてほしい!」
めちゃくちゃ胡散臭そうに見られた。
「なんだい、その目は!
僕はただ善意からキミのおなかを舐めまわしてあげたいだけなのに……」
「やだやだやだやだこわいこわいこわいこわい話が通じないこわいこのヒトこわい……!」
しかしまあ、これだけ大騒ぎすると、一周回って徐々に落ち着いてきたのか、少女は一度深く深呼吸をした。
冷静になろうとしているらしい。
それから周囲と自分の体を観察し――なぜか僕の方は何度もチラ見したけど――一度大きく頷いた。
「あの、ひとつ確認させてほしいんだけど」
「なんだい?」
「傷がふさがってるのは、お兄さんのおかげ?」
「そうだよ。僕の『傷舐め:C』の効果だ」
「きずなめ……スキルを発動するために、傷を舐めていたってこと?」
「まさしくそうさ。それ以外になにがある?
そうでもなければ、僕はむやみに女の子のおなかを舐めくりまわしたりしないよ」
少女は少しほっとした表情で息を吐いた。
「よ、よかった……!
変態に命を救われた挙句、その対価にえっちな要求をされる展開かと思っちゃった」
「失敬な、僕は変態なんかじゃない。
えっちな要求だって?
そんなことするわけないよ」
「そうだったんだね、ごめんなさい。
勘違いしちゃってた、助けてくれてたのに、蹴ったりしちゃって……」
「いや、いいんだ。
わかってくれたならなにも問題はないさ。
むしろキミの体が心配だ、激しく動いて傷が開いたりしたらどうするんだい」
「あ。……そうだね」
少女は叫び声を上げていた先ほどの様子とは打って変わって、お上品にくすりと笑う。
「優しいんだね、お兄さん。――ありがとうございました」
うん、いい笑顔だ。
眠っている間に顔面を舐めまわした甲斐があったのか、傷もない。
「それにしても、変なスキルだね。
傷を舐めて治すなんて……全裸なのもスキルの関係なんでしょう?」
「ん? いや、全裸なのは関係ないよ?」
「は?」
少女は真顔になった。
「は?」
なぜか二回言った。
「いや、これは普通に服着る余裕がないまま行動してたら、着るのを忘れちゃってただけ。
はっはっは、いやー、ついついうっかりしちゃったよね」
「あ、は。――うふふ、もう、お兄さんったら。
うっかりやさんなんだね。
うふ、うふふふ……あはは――この変態……!!」
結論から言うと、さっきよりもお上品かつ鋭い蹴りが突き刺さり、僕は三十分くらい床の上でうずくまることになった。
二人目のヒロインちゃんは清楚なお嬢様系騎士なんですよ。
言葉遣いからも清楚さが感じられますね!
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