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第三章【京都ダンジョン遠征編+古都ドウマン模擬戦争編/ニンジャ・ヒーロー・コンプレックス】

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19 戦争の理由



 レンカちゃんによる『なぜ戦争をするのか』の説明が終わると、ミワ先輩がにやりと唇を釣り上げた。


「正直、模擬とはいえ、戦争に関する消耗を考えれば、わざわざご老人を納得させる理由はない。だが、これは感情の問題、誇りの問題、そしてメンツの問題だ。やらなきゃならねえ」


 レンカちゃんもまた、すまし顔でうなずく。


「わたくしたちは『壊れた地球における新しい在り方』を模索し、そのために活動をおこなう、と。対して、クキ様たちは『壊れる以前の地球における在り方』を規範として活動をおこなうもの。どちらも日常を取り戻すという意味では同じですけれど――」


 一息吸って、彼女は僕を見た。


「――同じだけでは、ダメですわよね。同じで、けれど、より良きものでなければ。女王カグヤ様はそうお思いになって、わたくしたちに宣戦を命じられましたの」


 ……うん。

 そう言われてしまうと「戦争なんて、模擬戦でも危ないよ」とか言えなくなってしまう。

 無言でうなずいてみせると、レンカちゃんはふわりと笑った。


「だから、証明しますわ。カグヤ朝廷は、過去から逃げない共同体であると」

「でもさ、レンカ。二つ目って『明確な領土』でしょ? 領土なら、この街があるの。それで証明できてるんじゃないの?」

「キーワードは『排他的な主権』ですわよ、ナナ」


 どういうこと? と首をかしげるナナちゃんに、レンカちゃんが指をタクトみたいに振った。


「他を排することで主権を守ることが可能か否か――ということ」

「……領土問題なの?」

「モンテビデオ条約が定める『明確な領域』の『明確』とは、領土問題で争っていないことも指しておりますから、言い換えると……争いようがないほど明確に、その国の領土だと認識されている土地、でしょうか」

「そこを侵略者から守れるくらい強くないと、ってことね。わかった」


 ものすごくざっくり理解して、ナナちゃんは瞳を閉じた。寝ようとするな。

 レンカちゃんは苦笑して、指を顎に当てた。


「わたくしたちの立場はあくまで日本のあとに続くもの。崩壊した日本という国に、新たに人間の生存圏を生み出し、文明再生の礎になるものです。それが為されたあとであれば、失脚したってかまいませんの」


 初代太政大臣は、あっさりとそんな宣言をした。


「ですが、文明の再生が為されるまでは、わたくしたちが守らなければなりません。……そして、地球上の国家が破壊しつくされたいま、シンプルな力がなによりも重要です。なぜなら――四つ要件をすべて満たす国家など、おそらくひとつも残っていないでしょうから」


 つまり、現在の地球は排他的主権がなく、無政府状態で、交渉能力もない場所が大半。

 どころか、国際法を管理する国連もなにもかもがないわけだ。

 二年前まで前提にされていたルールが、いまはどこにもない。


「侵略から領域を、そして住民を守り切る力があるかどうか。それを実態として示すためには、実際に領土防衛をやるしかありません。それゆえの模擬戦争であり――兵部には頑張ってもらう必要がある、ということですわ」

「もとより、そのための兵部だ。ようやっと仕事らしい仕事になりそうだなァ、オイ。細部はこっちで詰めていいんだな?」

「ええ。防衛戦という前提さえ守っていただければ。あとは先方とのすり合わせで」

「古都を攻める側だったウチらが、今度は逆の立場ってわけだ」


 わくわくを隠そうともしない悪人面のミワ先輩とは反対に、それまで黙っていたタンバくんが、神妙な顔でうつむき、呟いた。


「……クキ先生が、模擬戦争を……。しかし、いまの話を聞く限り、朝廷側が正しいようにも聞こえます。僕は……」


 えらく重たい苦悩である。ついつい、僕も声をかけてしまう。


「立場と視点の問題だよ、タンバくん。どこに立って、どっちを向いているかで、正しさは変わるんだ。クキさんの目指す場所と、僕らの目指す場所は、少しずれている。だから、その擦り合わせが必要だっていう話で」

「……正しさが、変わる? いえ、そんなはずはありません。正しさは、正しさです」


 少年が、少し意固地な口調になった。


「正しいことは、正しいんです。そうじゃなきゃ、僕がトラキチを――いえ」


 ぺこり、と頭を下げる。


「ごめんなさい。これは、関係ない話でした」


 珍しく――レンカちゃんもナナちゃんも、そして皮肉屋のミワ先輩でさえも、なにも言わなかった。

 タンバくんの言い方が、まるでサバイバルナイフみたいにぎざぎざしていたから。

 そして、その言葉の切っ先が、おそらく彼自身に向いていたから。


「……さて、それじゃあ京都ダンジョンの話に戻すぞ。といっても、あまり情報はねえ。兵数、糧食、決めることはたくさんあるが――」


 そんな風に、ミワ先輩が攻略の話をはじめても、タンバくんは黙ったままだった。




わかりやすくすると「和歌山勢わからせるために模擬戦争やるぞ」です。



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― 新着の感想 ―
[一言] 「ウチのシマにチャチャ入れるやつは容赦しねぇ」ってわからせるのですね、はい(。。 自衛力無き組織は烏合の衆、チンピラ未満(。。 それが世の中(_’
[一言] タンバ君、わかりやすく言うと竜との戦争は生存戦争だから生き物として戦うことは常に正しく、人と人との戦争はイデオロギーと利害の対立を解消する一手段に過ぎないから他の手段の方が望ましい場合はする…
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