15 閑話 クキ、未来と対峙する
「どうすれば、認めてもらえる……ますか?」
カグヤからの問いに、クキは眉をひそめた。
――なぜだ。
自分の内側にある感情が、老害と呼ばれるものだと知っている。
だから、終わらせようとした。それがいい。自分にとっても、相手にとっても。
なのに、食らいついて来た。
「儂に認めさせて、どうする」
「理屈ではありませんよぅ」
言われて、気づく。己と同じなのだ。
「感情か」
若人がうなずく。クキは笑った。
「クキさんのそれは、勝ち逃げだよぅ。私たちと別れ、ひとりで納得して旅に出る。たしかにクキさんのプライドは守られるかもしれない。けれど――私たちにも、クキさんを客として、難民としてこの街に迎えた以上、プライドがあるんだよぅ」
頼りない敬語を捨てて、女王はクキに真正面から言い切った。
逃げるな、と。
――キミたちもまた、誇りを持つのだな。
日本国民としての自覚と誇りを持つクキ同様、目の前の少女はカグヤ朝廷代表としての自覚と誇りを持っている。
当たり前だ。人間、だれしも自分が決めた自分の居場所にプライドを持つ。
それが自分たちで考え、作り上げている最中の場所となれば、なおさらだ。
――儂にも認められるような国であらねばならないと、理屈ではなく感情で……そう考えているのか。
気骨ある若者だ。
嫌いではない。けっして、嫌いではないのだ。
だからこそ、相容れない。
「どうすれば、か……」
――これはもう、すでに勝負になっている。
クキは内心で思う。
意地と意地の張り合い、誇りと誇りの比べ合いは、つまり、勝負だ。
ならば、目の前の少女――カグヤの問いは、勝負の宣告でもある。
「勝負だな。これは」
「はい、勝負ですよぅ。これは」
「……守る、と言ったな? 守るために力を使うと」
はい、と女王がうなずく。
「ならば、最低限、国としての要件を満たしていると証明してみせろ」
「……要件?」
「そうだ。そちらの太政大臣……レンカ嬢ならば、知っているのではないか」
クキは考える。この若人たちに、敗北を認めさせるにはどうするか。
あるいは、この若人たちがどうすれば、自分は敗北を認められるか。
「国家の定義というやつは、過去において明文化されている。過去よりも良い未来を見据え、海外と遣りあう力を持ちたいというのならば。最低限、過去の基準をクリアしていなければならない。そうだろう」
「ええと……」
女王カグヤは横に座る太政大臣を見て、太政大臣はクキに視線を向けてきた。
あきらめの混ざった、しかし、勝負を望む瞳だ。
実利を考えて首を縦に振りはしたが、しかし、女王カグヤ同様にプライドを持つのだと、クキは悟った。
――虎の巣だな、ここは。女性が二人と高をくくっていた己を反省せなばならん。
気を抜ける相手でも、手加減できる相手でもない。
「クキ様がおっしゃるのは、モンテビデオ条約の第一条に記された四つの要件のことですわね。どう証明せよ、と?」
「そちらに任せる。だが、これが勝負である以上、試合は必要だろうな」
「……そうなりますの」
試合の細かい条件や試合のルールはあとで……やると決まったあとで詰めればいい。
クキは女王に向き直り、問う。
「無論、そちらに受ける必要はない。やるか、女王カグヤ」
「満たされれば、認めてもらえる?」
「完膚なきまでに打ちのめされれば、否が応でも認めざるを得ない。そうだろう?」
クキは淡々と、しかし、この会談でいちばん力強く言った。
「過去ではなく、未来にこそ価値があると、この老骨に思い知らせてみるがいい」
ここまでちょっと閑話が多めでしたが、次からイコマのターンが見えて来るかなといったところで。
タンバくんが性癖にダメージを食らっているあいだ、こんな真面目な話が展開していたんですねぇ……。
星はおかげさまでたくさんあるので、ぜひぜひ感想とレビューをください!(欲望)
感想やレビューが作者の“力”となり、膨れ上がったパワーはいずれ世界を呑み込むだろう……!(ここで七大罪『強欲』戦のBGMが流れる)




