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第三章【京都ダンジョン遠征編+古都ドウマン模擬戦争編/ニンジャ・ヒーロー・コンプレックス】

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14 勘違い



 僕はようやくタンバくんの勘違いに気づき、なるほど、とうなずいた。


「……あ、あのね、タンバくん。ちょっと、その、なんだ。言わなきゃいけないことがあるんだけれどもね? その、イコマっていうのは――」

「そうですよね! わかっています、マコさんの立場だと、かばうしかないですよね!」

「そうじゃなくて、その、僕こそがイコ――」

「任せてください、僕がイコマさんを懲らしめますから!」


 タンバくんは小さな手で僕の両手をぎゅっと握って、真摯な目を僕に向けた。


「――安心してください、マコさんは僕が救ってみせます……! ううん、マコさんだけじゃない、ハーレムの他の方々も、この街のみなさんも!」

「なんか脳内で勘違いが五回転くらいしている気がするよ……?」

「『複製』の有用性を笠に着て街を牛耳るイコマさんを、打ち倒してみせますとも!」


 もう言葉もない。

 この街にいる限り、いずれぜったいにバレる勘違いだ。

 そして、ものすごく恥ずかしいタイプの勘違いだし、その責任の一端は僕にあるといっても過言ではない。

 一端どころか全責任があるかもしれない。僕が今日、女装していなければこんな勘違いは生まれなかったはずだ。

 けれど、少し引っかかるところもある。

 タンバくんの思想……というか、考えだ。


 『正義』と『英雄』に、少しばかりステレオタイプすぎる印象を持っているのではないか、と思う。

 若干、いびつさを感じてしまう。僕がすれているからかもしれないけれど、自分だけの『正しさ』に固執した考え方は、非常に厄介だ。

 間違いを嫌悪し、(ただ)し、他人にさえ自分の想像する完璧さを求める在り方は、危険である。

 彼の境遇を知りたい。どういう生まれで、どういう経緯を経て、どういう旅を超えて、この街に辿り着いたのかを。

 あと勘違いは早急に解いてあげないといけない。マジで。周りには、少数だけれど作業をおこなう住民たちが、大声を上げたタンバくんに視線を向けている。

 この場で話し続けるのは、危険だ――もしここで女装だとバレたら、中学生のメンタルが恥ずかしさで暴発してしまうに違いない。


「……あの、タンバくん。ちょっと話したいことがあるから、一度本部に――」


 ――戻ろうか、というセリフは、最後まで言わせてもらえなかった。

 乱入者が現れたからだ。


「だれだーッ! いまお兄さんの悪口言ってたやつ! いいっ? お兄さんの悪口を言っていいのは私とカグヤさんとヤカモチとレンカと……その他大勢だけなんだからね!」


 ずざざ、と地面を削りながらスライディングで現れたのは、薙刀ケースを背負った、軍服ワンピース……礼服姿の筆頭騎士(エクィテス)

 カグヤ朝廷で二人しかいない、自由騎士卿の片割れ、ナナちゃんである。


「だ、だれですか、あなたは!」


 面食らったタンバくんが、シュバッと腰をかがめて臨戦態勢を取り、声を裏返らせて問いかける。

 ナナちゃんは礼服の襟、ドラゴンをモチーフにデザインされた青色の徽章を自慢げに見せつけた。


「私? 私はナナ。カグヤ朝廷兵部の正四位、自由騎士卿にして、そこにいるイコマお兄さんの嫁だけど?」

「ちょ、待ってナナちゃん、ちょっとだけ待って――」

「待たない。私は嫁だよ」

「僕が待ってほしいのはそこじゃなくて!」

「え……? つ、つまり、嫁であることは認めてくれるんだね! 私が正妻だと!」

「ダメだ、こっちも話聞かない子だった!」


 ヤバい、と思ってタンバくんを向くと、彼は怪訝そうに首をかしげて、周囲をぐるりと見た。


「イコマさんが、そこに……いる? どこに?」

「あ、あのね、タンバくん――」

「どこって、マコちゃんだよ。古都では常識でしょ、お兄さんの女装癖は。知らないってことは、最近来た難民――あ、もしかして和歌山から来たヒト?」


 タンバくんはナナちゃんの問いかけに応じず、三十秒ほどフリーズしてから、首をカクカクさせながらこちらに向けた。

 周囲、倉庫まわりで作業していた――あるいは聞き耳を立てていた人々が「ああ……」とか「あっ」とか言い始めている。

 やめろ。いたたまれない顔をするのは、やめてあげるんだ……!


「マコさん。あなたは、女装をした英雄イコマ……なのですか?」

「……そうです」

「……証拠は、ありますか?」


 僕は手に持った合成樹脂の容器を二つに増やして見せた。


「古都で『複製』を使えるのは僕だけで、その……まあ、これがいちばんの証明というか。まだ疑うなら、本部で化粧落として、裸を見せてもいいけど」

「いえ、そこまでは」


 タンバくんは片手の平を立てて『結構です』のジェスチャーをしたあと、空を仰ぎ、地面を見て、もう一度空を仰ぎ、それから正面を向いた。


「すいません。どなたか、どこか飛び降りやすい崖かなにかをご存じないでしょうか」


 羞恥心と後悔とその他いろいろな感情で脳がショートした少年を本部まで連れ帰るのには、いささかの労力が必要になった。




初恋のお姉さんがお兄さんだった……という展開、あるあるですよね!



ねえよ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 性癖ぐにゃぁああ(某賭博な○○ジ風) [一言] あーあ。 少年の心は壊れちゃいました。 イコマのせいです。
[一言] なんて恐ろしいことを……ガタガタブルブル((( ;゜Д゜))) 相手はまだ子どもだぞ! トラウマになって変な性癖ついたらどうするんだ! いいぞ、もっとやれ
[一言] タンバ「僕、イコマさんを女性にするスキルを求めてちょっとドラゴン殺しに逝ってきます」(おめめぐるぐる)
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