13 閑話 タンバ、キレた……ッ!
タンバは、イコマの恋人であろうマコが、目を落として言うのを見た。
「……英雄と呼ばれるには、足りない男だと思うよ」
諦観交じりの声音だった。
ショックを受けて、ゆえに、心中で期待していた自分に気づく。
――ハーレムメンバーのマコさんなら、イコマさんをだらしないだけの男ではないと、言ってくれると思っていたのですね、僕は。
英雄と呼ばれるだけの、高潔な人間であると思いたかった。
あるいは。
――マコさんが惚れ、ハーレムを作るに足るだけの男であると。
つまり、否定してほしかったのだ。
この街に英雄はいるのだ、と。
英雄に足る男が古都を奪還し、大阪を解放し、そしてタンバの速度に追いつける素敵な女性を手に入れたのだと。
それなら、納得ができた。理解もできた。
「流されやすいし、お調子者だし、まあその……実際にハーレムを形成しちゃっているし。軽薄なところは否定できないかも」
なのに。
なのに、なのに、なのに。
「僕は――イコマという男は、英雄と呼ばれるような人間じゃないと思う」
――どうして、そんなことを言うのですか。
英雄であれば、まだ。
英雄になろうとする、タンバと同じ立場の者であれば、まだ。
許せたと、思う。
だってこれは、感情の問題だ。
未熟で経験の少ない少年が、ひとりの女性を諦められると。
その居場所に、彼女が座る席に納得ができると。
そういう、気持ちの問題だった。
「英雄であろうとも思っていない、かな」
だから、その言葉を聞いて、タンバは抑えきれなくなった。
「なんですか、それは……ッ!」
タンバは正義の味方だ。英雄だ。
そうあろうとしている。そうあらねばならないと、己に課している。
正しくあらねばならない。そう習った。父に、母に、教師に、世の中に。
すべてに。
そう教わって、正しさに憧れて、ここまで来た。
「マコさんはッ! それで、そんなイコマさんで、いいんですかッ?」
「え、ええ……いや、いいもなにも……あるがままで、いくしかないというか。変わりたくても、どうせいきなり大きくは変われないんだから。ほら、等身大の自分に付き合っていくしかない、みたいな」
「それじゃ、マコさんは、イコマさんが足りないままでいいというのですかッ?」
「ん? え、あれ? まあ……うん、足りないままじゃダメだけど。でも、足りないところはみんなが支えてくれるから、なんとかなっているし、これからも頼り頼られなんとかしていく感じで……うん? なにかがおかしい気がするんだけれども……」
「お――」
タンバは思わず倉庫前の階段から立ち上がった。
中身の残ったカップが手元から転げ落ちて、階段にスープの染みを作る。
やってしまった、もったいない……と思うが、止まれない。
「――おかしいのは、イコマさんです! 許せません!」
「ゆ、許せない、の?」
「はい!」
まとめると、こうだ。
「実力が足りないとわかっていながら、向上心もなく、多数の女性を囲って関係を持ち、あまつさえ他人頼りが大前提だなんて!」
タンバは叫んだ。
「そんなの、マコさんがかわいそうです! 騙されていますよ、マコさん! イコマさんはとんでもないスケコマシです!」
だいたいイコマが悪い。




