12 僕とタンバくんと英雄譚
食料貯蔵倉庫はいくつかあるけれど、僕らが赴いたのは公立中学校の体育館を改装して作ったところだ。
乾パンや携帯食、カップ麺など、冷蔵設備や乾燥設備が必要ないものを貯蔵している。
いざというときのために、僕がひたすら増やしたものでもある。
そこでカップ麺を手に入れて、体育館前の階段に座り、タンバくんと二人でカレーヌードルを食べていたときに、少年がぽつりとつぶやいた。
「僕には、街に関する詳しいことはわかりませんけれど。いい街ですね、ここは」
「でしょ? がんばったからね、みんなで」
古都攻略戦争から、約半年。
都市国家ドウマンのカグヤ朝廷を立ち上げてから、一ヶ月。
あっという間で、手探りだらけで、けれど、僕らはどうにかこうにか進んできた。
「もっとよくなるよ。これから、もっともっと、すごい街になる。すごい国になって、すごいことをやる」
僕だって、詳しいことはわからない。
運営はレンカちゃんやカグヤ先輩に任せっきりだし。
でも、休みの日にこうして露店を回って、牧場を見て、思うのだ。
「明日は今日よりもっとすごい街だ。そのために、いまをがんばる。……まあ、かくいう僕は休みなんだけどね」
二人で少し笑う。それから、タンバくんは手元のカップを覗き込み、茶色いカレースープをじっと見つめながら言った。
「……ひとつ、聞いてもいいですか」
「なんだい?」
タンバくんは、どこか緊張した面持ちで、僕を見ずに聞いた。
「マコさんは、英雄イコマを、どう思っていますか?」
とても難しい問いが来た。
英雄イコマについて――と、きた。
それはつまり、僕のことだ。
けれど、しかし、わざわざ『英雄』の称号を付けて聞いて来た。
僕が、僕を、どう考えているのか。
英雄と呼ばれる自分自身を、どう見ているのか。
タンバくんは、僕と同じダンジョン攻略者として、僕に聞いている。
だったら。
「……英雄と呼ばれるには、足りない男だと思うよ」
素直に吐露するしか、ないだろう。
劣化複製しかできない――なんて卑下を続ける気はない。
僕を信じてくれるひとたちは多いし、その期待に応えるためにも、自分自身を正しく見つめなければならない。
幸い、その機会は何度もあった。
「……だらしない男性だと、聞いています。複数の女性と関係を持つ、軽薄な変態だと」
「変態って……うーん、そこは個人の趣味嗜好は自由だから否定したいところだけれど。でも、流されやすいし、お調子者だし、まあその……実際にハーレムを形成しちゃっているし。軽薄なところは否定できないかも」
苦笑する。言葉にすると、ほんとうにダメな男だな、僕は。
足りない男だと、そう思う。実力も、頭脳も。
カップの中のスープを飲みほす。どろりとした熱さが喉を通り過ぎていく。
空になった合成樹脂製のカップ麺の容器は、秋風に流されて飛んでいきそうだ。
両手で容器を持つ僕もまた、ともすれば飛んでいきそうなくらいに軽い。
でも、仲間たちが僕に中身をくれる。飛んでいかないように。前を向けるように。
結局、それが僕なのだ。だから。
「僕は――イコマという男は、英雄と呼ばれるような人間じゃないと思う。そして、英雄であろうとも思っていない、かな」
うん。結局、スキルがあろうが、経験があろうが、たったひとり。
等身大の人間でしかないし、等身大の人間のまま、壊れた地球を歩いていくしかないのだ。
英雄なんて、いない。
仲間がいるからここまで来られた、幸運な人間がいるだけだ。
よし。
それなりの答えができたかなと思って横を見ると、タンバくんが険しい顔をしていた。
「なんですか、それは……ッ!」
めちゃくちゃ怒っていた。なんで?
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僕がキミたちのアカウントを特定できるからねぇ(ニチャア)




