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第三章【京都ダンジョン遠征編+古都ドウマン模擬戦争編/ニンジャ・ヒーロー・コンプレックス】

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12 僕とタンバくんと英雄譚



 食料貯蔵倉庫はいくつかあるけれど、僕らが赴いたのは公立中学校の体育館を改装して作ったところだ。

 乾パンや携帯食、カップ麺など、冷蔵設備や乾燥設備が必要ないものを貯蔵している。

 いざというときのために、僕がひたすら増やしたものでもある。

 そこでカップ麺を手に入れて、体育館前の階段に座り、タンバくんと二人でカレーヌードルを食べていたときに、少年がぽつりとつぶやいた。


「僕には、街に関する詳しいことはわかりませんけれど。いい街ですね、ここは」

「でしょ? がんばったからね、みんなで」


 古都攻略戦争から、約半年。

 都市国家ドウマンのカグヤ朝廷を立ち上げてから、一ヶ月。

 あっという間で、手探りだらけで、けれど、僕らはどうにかこうにか進んできた。


「もっとよくなるよ。これから、もっともっと、すごい街になる。すごい国になって、すごいことをやる」


 僕だって、詳しいことはわからない。

 運営はレンカちゃんやカグヤ先輩に任せっきりだし。

 でも、休みの日にこうして露店を回って、牧場を見て、思うのだ。


「明日は今日よりもっとすごい街だ。そのために、いまをがんばる。……まあ、かくいう僕は休みなんだけどね」


 二人で少し笑う。それから、タンバくんは手元のカップを覗き込み、茶色いカレースープをじっと見つめながら言った。


「……ひとつ、聞いてもいいですか」

「なんだい?」


 タンバくんは、どこか緊張した面持ちで、僕を見ずに聞いた。


「マコさんは、英雄イコマを、どう思っていますか?」


 とても難しい問いが来た。

 英雄イコマについて――と、きた。

 それはつまり、僕のことだ。

 けれど、しかし、わざわざ『英雄』の称号を付けて聞いて来た。

 僕が、僕を、どう考えているのか。

 英雄と呼ばれる自分自身を、どう見ているのか。

 タンバくんは、僕と同じダンジョン攻略者として、僕に聞いている。

 だったら。


「……英雄と呼ばれるには、足りない男だと思うよ」


 素直に吐露するしか、ないだろう。

 劣化複製しかできない――なんて卑下を続ける気はない。

 僕を信じてくれるひとたちは多いし、その期待に応えるためにも、自分自身を正しく見つめなければならない。

 幸い、その機会は何度もあった。


「……だらしない男性だと、聞いています。複数の女性と関係を持つ、軽薄な変態だと」

「変態って……うーん、そこは個人の趣味嗜好は自由だから否定したいところだけれど。でも、流されやすいし、お調子者だし、まあその……実際にハーレムを形成しちゃっているし。軽薄なところは否定できないかも」


 苦笑する。言葉にすると、ほんとうにダメな男だな、僕は。

 足りない男だと、そう思う。実力も、頭脳も。

 カップの中のスープを飲みほす。どろりとした熱さが喉を通り過ぎていく。

 空になった合成樹脂製のカップ麺の容器は、秋風に流されて飛んでいきそうだ。

 両手で容器を持つ僕もまた、ともすれば飛んでいきそうなくらいに軽い。

 でも、仲間たちが僕に中身をくれる。飛んでいかないように。前を向けるように。

 結局、それが僕なのだ。だから。


「僕は――イコマという男は、英雄と呼ばれるような人間じゃないと思う。そして、英雄であろうとも思っていない、かな」


 うん。結局、スキルがあろうが、経験があろうが、たったひとり。

 等身大の人間でしかないし、等身大の人間のまま、壊れた地球を歩いていくしかないのだ。

 英雄なんて、いない。

 仲間がいるからここまで来られた、幸運な人間がいるだけだ。


 よし。

 それなりの答えができたかなと思って横を見ると、タンバくんが険しい顔をしていた。


「なんですか、それは……ッ!」


 めちゃくちゃ怒っていた。なんで?




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呟いてもらえると嬉しいです。



僕がキミたちのアカウントを特定できるからねぇ(ニチャア)



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