10 タンバくんと街ブラおでかけする僕
僕としては、タンバくんに悪感情はない。
どころか、申し訳ないと思っていたくらいだ。
牧場ではあまりにも大人げない言動をしてしまったと、悔いていた。
それゆえに、街のひとたちに『朱雀大路でタンバくんが僕を探している』と聞いたとき、会って謝ろう、場合によっては一発くらい殴られてもいいかな、なんて思いながら来た。
けれど、彼が開口一番で。
「さっきは失礼なことをして、ごめんなさいっ!」
と、謝ってきたのには、おどろいた。
もしかすると、もう一度口論をつっかけられるかもしれないとすら考えていたのに、彼は僕よりもずっと大人だった。
しかも、衆人環視の中だ。中学生男子なんて、ガチガチのプライドが芽生えている頃だろうに、しっかり謝れるのは美徳である。
僕が中学生の頃は、奔放な同級生から借りたえっちな少年マンガをどこに隠すかしか考えていなかった。
「いいんだよ、タンバくん。むしろ、僕のほうが大人げない対応をしてしまってごめんね」
「いえいえ、こちらが悪くて……」
「いやいや、僕が……」
「いえいえ……」
「いやいや……」
そんな風にしばらく譲り合ったのち、「さっきのことは両成敗」ということで手打ちになった。
「ええと、タンバくんは観光?」
「マコさんを探して謝るのが第一目的だったのですが、そうですね……」
タンバくんは両手の豚串を恥ずかしそうに持ち上げて、笑った。
「はい。観光です」
「じゃあ、案内するよ」
「い、いいんですか……?」
「もちろん! 僕らの自慢の街だし、それに……実は今日、非番だからめちゃくちゃ暇でさ。むしろ、僕の暇つぶしに付き合ってほしいくらいなんだ」
観光とはいっても、古都ドウマンは再開拓の途中。見るものはあまりない。
大極殿跡地の本陣やキャンプ群はすでに見ただろうし、あとはまだまだ廃墟だらけ。
両手に食べ物を持ったタンバくんの様子からすれば、食事寄りのツアーが最適だろう。
朱雀大路、宮跡前の露店はだいたい回り終わっているとして、案内するとすれば……。
「倉庫に行けば、カップ麺とか食べられるんだけれど……興味ある?」
「あります! いきます! 食べます!」
笑顔でうなずいて、けれどタンバくんは顔を曇らせた。
「でも……貴重、ですよね。長期保存可能な非常食って。それを僕がいただくのは、さすがに……」
「ああ、それなら問題ないよ」
僕は笑顔で彼の頭をぽんぽんと叩いた。
「在庫はいーっぱい、あるからね」
●
街の案内が始まって三十分ほどで、タンバは思った。
――マコさんは、距離感が近いです……!
頭を撫でられるくらいなら、こう、胸がドキドキして頬が熱くなるくらいだ。
擬音で言うと『ポ』という感じ。つまり撫でられると『ポ』だ。
しかし、タンバが手に持った豚串を、横から悪戯っぽい笑みで食べられたりすると『ポ』くらいでは済まない。
――間接飲食……!
そして、美味しそうに微笑みながら、唇についた脂を舌でぺろりと舐め上げ、タンバをちらりと流し見るのだ。
卒倒するかと思った。
――あー! ダメです! いけません!
なにがダメでいけないのかはわからないが、とにかくダメでいけない感じがした。
擬音で言うと『ギュン』だ。血圧の上昇を感じる。
ともかくだ。
「その、近づきすぎ……です……」
「あ、ごめん。イヤだった?」
「好きです!」
いかん。素直さが先に出すぎた。
ごほんと咳払いをする。
「決してイヤではありません」
「あ、そっか。それなら、よかった。その、こういう友達、久々だから」
「久々、ですか?」
「周り、女の子ばっかりだからね」
女の子に囲まれているから、男相手の距離感がわからなくなっている、ということだろうか。
だとすれば。
――やはりマコさんは……ハーレムの一員なのでしょうね。
周りが女子だらけで、唯一の男性は恋人のイコマだけ。そういうことだろう。
頭の中で、すでに得ていた結論を再確認すると、なぜかタンバの心が軋んだ。
擬音で言うと……『ずきり』だ。
●
僕はタンバくんと一緒に倉庫でカップ麺をすすりながら思った。
距離感を気にしなくていい男友達と、こういう部活帰りみたいなことができるのって、いいよね!
イコマパートめっちゃ短いんだけどコイツほんとうに主人公か?
どちらかというとヒロインなのでは?




