9 閑話 タンバ、聞き込む
タンバのマコさん捜索は難航していた。
「おかわりもいいんですか!」
「遠慮するな、いままでのぶん食え」
本部を出て大通り、朱雀大路に出たタンバは露店に吸い寄せられ、焼きおにぎりを与えられたのだ。
無料だからと言われ、ついつい食べてしまったそれは。
――濃いめのにんにくしょうゆ味が美味しいです!
香ばしく、食欲をそそる。にんにくのフレーバーが、空腹にがつんと来る。
なにより、焼きおにぎりなど久方ぶりに食べた。二年と半年、かなり簡素な食事を続けていたのだ。
これひとつだけでも、古都の豊かさを感じるポイントだ。
「おいしいです! とても!」
「でしょ。カグヤ様のおかげで米もにんにくも豊作だったし。醤油はイコマさんがぱぱっと増やしてくれたから、在庫に余裕があるんだよねぇ」
イコマさんとはまた、気安い呼び方だ。
「もしかして、英雄イコマとお知り合いなのですか?」
「ん? まあ、私も兵部で、工兵隊だからねぇ。いまは違うけど、古都攻略戦のころは直属の部下だったよ」
「……ど、どんなかたなのでしょうか……?」
露店のお姉さんは「うーん」と唸った。
「……変態?」
「変態なのですかッ?」
予想斜め上の回答が来た。
「かわいい女の子を舐め回したり、倒錯的な格好で人前に出たり、たくさんの女の子といちゃついたり……まあ、茶目っ気のあるひとだよね」
「そんな! ハーレムなんてうらやまし――間違えました!」
つい本音がこぼれそうになったが、こらえた。
「ハーレムなんて不健全です! 茶目っ気で済ませていいことには聞こえません!」
「うーん、そう言われると、たしかにそうだよねぇ」
でも、と露店の女性兵士は笑った。
「いいひとなのは、たしかだよ」
その後も、様々な露店で食べ物をもらいながら、タンバはマコの情報を集めた。
不思議なもので、マコの居場所を聞いているはずが、みんな、なぜかイコマの話もするのだ。
――さすがは英雄、常に話題の中心なのですね!
そこは素直に感服する。ただ、二人の評価は正反対のものだった。
「女神だよ。マコ様は、女神だ。だれがなんと言おうと女神なんだ」
と、血走った目で口にするひともいれば。
「イコマさんはねぇ。なよっとしたところとか、ちょっとだらしないところとか、えっちなところとか、頭の回路がたまにバグるところとか直せば完璧なんだろうけどねぇ」
と、呆れ顔で呟くひともいる。
タンバが子供だからか、詳しくは教えてくれないが、ハーレムを形成して、日夜こう、なんだかえっちなことをしているのだという。
――うらやましいです!
違う。脳内でも間違えた。
――許せません!
英雄として、あるまじき姿だ。英雄色を好むとはいうが、それはあくまで言葉の上での話。
人類の代表たる英雄であるならば、誠実であらねばならないと、タンバは思う。
最初に竜殺しを成し遂げた人間に対して、無邪気な憧れがあったからだろう。話を聞けば聞くほど「それでいいのか」と思ってしまう。
朱雀大路を少しずつ南下しながら十人ほどに聞き込んだところで、はたと気づいた。
――マコさんの話を聞いたあとに、イコマさんの下半身がだらしないという話が出るのは、もしかして……!
あのすさまじい反応速度で蹴りを放った女性。きれいでカッコいい、女性。思い返せばスカートもひるがえっていた。
――もっと思い出せ、僕の脳みそ……! 濃いタイツの下が何色だったかを思い出せ……!
違う、そうじゃない。間違えた。
「……もしかして、マコさんもハーレムのメンバーなのでしょうか」
間違いないだろう。だって、薙刀の女騎士は共にダンジョンを駆け抜けたコンビだと聞いている。親しい仲でないはずがない。
とてつもないショックだ。なぜショックなのか、タンバにはわからないが、とりあえずショックだ。
ショックの理由を突き止めるべきだと、思考の片隅が冷静に声をあげるが、タンバはショックゆえに朱雀大路の真ん中で立ち尽くすしかなかった。
そして、ショックすぎたため、正面から近づく者の存在にすら、気づくことが出来なかった。
「お、いたいた。僕を探しているんだって? どうしたの、タンバくん」
はっと見れば、視界の中央に、美貌の女性騎士がいた。
つまり、マコ本人が。
純情な少年が年上のお姉さんに惚れる展開は王道ですね!
僕も普通のラブコメが書けるようになってきたなぁ。




