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第三章【京都ダンジョン遠征編+古都ドウマン模擬戦争編/ニンジャ・ヒーロー・コンプレックス】

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7 閑話 タンバ、はじめてのひとを探しにいく



 タンバは眉をひそめていた。

 案内された宿舎が狭かった、とかではない。むしろ、こんなに綺麗な設備は、この二年間で初めて見た。

 広い芝生の大地は、平城京の宮殿があった跡地なのだという。

 運動会で見るような大型のテントが多数設置された芝生は、人々が行きかう場所になっている。


 ――なぜです?


 タンバは窓の外を眺めながら、通された部屋で疑問する。


 ――なぜ、クキ先生は僕を連れて行かなかったのです?


 ううん、と唸る。

 置いていかれたのは、自分の力不足だろうか。いや、それは考えづらい。すでに、組手ではクキより強いのだ。

 ならば、なぜ……? なにか足りないものがある、ということだろうか。

 考えてもわからない。ごろり、と木組みのベッドに横になる。ふわふわの毛布に、思わず力が抜けてしまいそうになる。

 タンバには、ほかにも悩ましいことがあった。

 あの女性。タンバの一刀を、足裏で弾き飛ばした女性。


 ――マコさんに、謝らなければなりません。


 薙刀の少女騎士。噂は聞いている。麗しく凛々しい美少女騎士、英雄イコマの相棒。

 二度のダンジョン攻略の軸となった、英雄級の戦士だ。

 イコマと違って実名は広まっていないが、実力は見た。

 タンバのスキルは『スピード強化:A』と、体術系のBランクスキル。

 短刀の一撃は、確実にホーンピッグの首を裂く軌道だった。


 ――止められました。


 あれは、自分が悪い。いきなり武器を抜いて、確認もせずに斬りかかったのだ。

 言い訳をするならば、和歌山から古都ドウマンへの数日がかりの山越えの際に、大量の遭遇戦があった。

 ギャングウルフ、マッシュベア、ホーンピッグ等の野生動物系モンスターたち。そのすべてを短刀の錆びにしてきた。


 ――錆びにするっていう表現、かっこいいですよね!


 積極的に使っていきたい言葉だ。ともかく。


――……ちょっと、興奮していました。血の気が多かったのです。


 だって、奈良だ。奈良と大阪のダンジョンを攻略したひとがいる場所だ。

 タンバの父母は、大阪で働いていた。

 生きているかどうかはわからないけれど、生きていれば、そのひとは両親の恩人になる。そうでなくても、英雄だ。

 そして、タンバは両親の生存を信じている。だから、つまり。


 ――恩人がいる街です。


 なのに、俊足ゆえに難民団から先行していたタンバは、勘違いで攻撃をおこなってしまった。


 ――あっさりと捌かれました。捌いてもらえました。そうでなければ、どうなっていたか。


 大変なことになっていたに違いない。切りかかった自分が悪く、止めてくれたマコがいなければ、カグヤ朝廷との仲に問題が生じていた可能性もある。


 ――ああ、だからクキ先生は僕を連れて行かなかったのですね。


 ふと、納得する。やはり、自分は未熟者なのだ。

 ともあれ、マコだ。自分の速度に追いつく人間は、はじめてだった。人間以外を含めても二例めだ。

 つまり、竜であるトラキチ以外では、はじめての相手。


「……いえ」


 ――トラキチのことは考えないようにしましょう。


 ともかく。

 相手の事情も聞かず、飼育されているものとも知らず、『モンスターはひとを襲う悪である』と、先入観で襲い掛かってしまったのは、タンバの間違いである。

 だから、謝らないといけない。会談で会えるかとも思ったが、連れて行ってもらえなかった。

 いや、今日は休みだと言っていたから、むしろ会談には出ていないかも。だとすれば。

 しばらく悩んでから、タンバは立ち上がった。


 ――探しにいきましょう。


 こうして待っていても仕方がない。

 到着してから数時間。クキは会談にいって、仲間たちは寝るか食べるか風呂に入るか、施設を使わせてもらい、自由に過ごしているはず。

 タンバも先に風呂をいただいた。さっぱりしている。意識も落ち着いた。腹は減っているが、まあ許容範囲だ。

 だったら。


「謝りにいきましょうっ!」


 意を決して部屋を出て、ちょうど廊下を通りがかった兵士に声をかけた。

 尻ポケットに丸めたノートを突っ込んだ男性だ。


「あの、すいません。ひとを探しているのですが」

「キミは……ああ、和歌山からの難民の。だれをお探しですか?」


 タンバは少し安心した。

 年下の自分にも敬語を使ってくれる相手だ。おそらく、客人だからだろうが、それでもほっとする。


「マコさんという、とてもきれいな方です」


 兵士が五秒固まって、笑顔でうなずいた。


「ええ、とてもきれいですよね。ちなみに、どういう関係で、どういったご用件ですか?」

「どういう……」


 タンバは首をひねって考える。用件は暴走したことへの謝罪と、暴走した自分を止めてくれたことに対する感謝だ。

 だが、関係はむずかしい。なんと言えばいいのかわからない。タンバは少し迷ってから、素直にそのまま言葉にすることにした。


 ――速度としては、そうですよね。


「僕の、はじめてのひとです!」

「……ほう」

「でも、ちょっと暴走しちゃって、自分では止められなくて……」

「なるほど」

「でもでも、マコさんがちゃんと受け止めてくれたんです!」

「ふむ」

「だから、ありがとうございます、と伝えたくて!」

「うんうん、よくわかりました」


 兵士は笑顔で深くうなずき、勢いよく背後に倒れ込んだ。


「えッ! だいじょうぶですかッ?」

「安心してください。致命傷です」


 だいじょうぶではないらしい。


「あまりの情報濃度に脳の処理が落ちただけです」


 どういうことだろうか。

 ひとを呼ぶべきかどうか迷うタンバに、廊下で大の字になっている兵士が慈愛の顔を向けた。


「おれもキミくらい若かったら……そういう経験が出来たのかもしれませんね……!」

「なんの話ですか?」

「いえ、なんでも。マコ様でしたら、今日は『ぜったい働くな』の日なので、街をうろついていると思いますよ。目立つ人ですから、聞き込みしながら歩けばすぐに見つかるはずです」

「そうですか! ありがとうございます!」


 歩き去ろうとするタンバに、床から「待って」と声がかかった。


「少年、最後に一つだけ」

「はい、なんでしょうか」

「グッドラック。そして、今度時間が出来たらゆっくり語り合いましょう、同志よ」


 よくわからないが、互いに親指を立てて『いいね』ジェスチャーを送りあった。

 古都ドウマンは親切なひとがいる街なんだな、とタンバは思った。




重厚でシックなローファンタジーだなぁ……。


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― 新着の感想 ―
[一言] どことは言いませんが硬くなってそうなので硬派ですね。
[一言] クキは極端だしタンバはアホの子か……あまり戦力を与えたくない手合いですねえ。 そしていわれなき風評被害がマコ様を襲うw
[良い点] 更新ありがとうございます。 この作品はもうダメかもしれんな(ほめ言葉)
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