34 人外ロリババア
月曜日なので(?)四話連続更新予定です。これは一話目。
ちなみに今日で二章最終話まで行くので、最後まで楽しんでいただければ幸いです。
「殺す! 殺す殺す殺す殺す殺す……! ぜったいに、ぜったいに貴様を殺すのじゃ!」
ユウギリはすっかり威厳のなくなった声で叫んだ。
先ほどまでの大きさはどこへやら。すっかり――小さくなった。
文字通りサイズの問題であり、そして文字以外では肉体年齢的な意味もある。
せいぜい、八歳くらいの少女……というか幼女にしか見えない。
立派な山羊角は小さく丸くなって、頭の両横にぽこりと突き出しているだけだし、膂力は見た目相応にしか残っていないようだ。
「ぐ、ぐぅうう……! 卑怯じゃぞ! この詐欺師めが!
言葉巧みにわらわに誘導し、弱体化させるとは!」
「いや、ほとんどユウギリの自爆でしょ」
ぬおお、とかハイソプラノの甘やかな怒号を上げて、ユウギリは僕に向かって走り出そうとして、転んだ。
足元に布がたっぷりと――薄紫色のヴェール、さきほどまでユウギリの巨体を包んでいた――あるのだから、そんなところで走ればそうなるだろう。
「ぬ、ひぐ、ふぬぅうううんっ」
「お兄さん、あの竜泣いてない?」
「竜が泣くわけないじゃん。ねえ、ユウギリ」
「な、泣いておらぬもんっ! ひぐっ、ぴぅう……ずび」
力を失ったはずではある。
薙刀の刃に自分の顔を映すと、首元にはなにもないのがわかる。呪紋――首輪が消えている。
それでもいちおう警戒しつつ、布の山へと踏み込んだ。
僕はドウマンから『竜種』を複製した。複製できた。
つまり、竜というのはある種のスキルなのだ。
であれば、ユウギリもまた『竜種』を持つはず。
魔力を含むすべてのステータスに補正をかける、絶対上位者存在の証たるスキル。
そのランクが、最低値……例えばDランク相当まで下がればどうなるか。
「ぐす……っ! きらい、きらいじゃ! やっぱり人類きらいじゃ!」
こうなる。
いや、ほとんど思いつきだったけれど、うまくいってよかった。
僕らが竜の決めたルールにのっとって勝負をしてきたのは、竜たちに縛りがなければ僕らに勝機はないからだ。
フルパワーのドラゴンなんて、ほんものの勇者でもなければ対処できない。
けれど、竜の決めたルール上の縛りよりも強力なデバフがかけられるのならば、それが最適解。
常時弱体化状態、いつでも殺せる状態ならば――わざわざ相手の流れに乗る必要はない。
ルールの穴を突いた攻略こそが、弱者の戦略なのだ。
「あの、お兄さん? まさか……そのロリの首を落とす気?」
「仕方ないじゃん、竜なんだから」
「ひぅっ!? や、やめるのじゃ! こっちくるな!」
涙目のロリが布に包まれてじたばたしている。うーん、罪悪感。
でもコイツのダンジョンでは、すでに……少なくとも六人の死者が出ている。
生かしてはおけない。
「集団暴走が起こる可能性もあるし、殺すしかないよ」
「ま、まて! わらわは『人類に対する災害』としての格を落としておる!
魔物が増加したりはせんはずじゃ!」
「でもダンジョンの主だし」
「もう魔力もない! ダンジョンを維持するリソースもないのじゃ!
注いだリソースが尽きれば、ダンジョンは崩壊する!」
「なるほど。それじゃ、なおさら生かしておく理由もないね。
殺しても殺さなくても一緒なら、後顧の憂いを断つ意味で殺すしかない」
「ひゃわわ……ッ! な、なんでもする、なんでもするのじゃ!
だから命だけは……!」
布の中から、エキゾチックな顔立ちのロリが四つん這いで僕の足に縋りついた。
「え、えへへ、なんでもするから……!
命だけはお助けを……!」
「でもなぁ。ほら、竜を殺せば魔石が出るし」
「わらわからはもう出ぬ! ほら、抽出したリソースがそのあたりに魔石化して転がっていよう!?
わらわ本体はもう搾りかすみたいなものじゃから!」
後ろから寄ってきたナナちゃんが、布の山の中から真っ黒な石を拾い上げた。
「……これ?」
「それじゃ! Sランク魔石じゃぞ!
スキルランクをひとつ上げられる!
望みの品じゃろう!?」
ナナちゃんは首を傾げた。
「泣きわめく前にコレ確保して、自分に使えば多少はリカバリできたんじゃないの?」
僕はナナちゃんから足元のロリに目を向けた。
ロリは目をまん丸にして、僕とナナちゃんと魔石を順繰りに見た。
「あーっ! 返せっ! わらわの魔石返してっ!」
「返すわけないでしょ、この状況で」
「わらわのなのっ! わらわの魔石なのっ!」
「いや、これはもう私のだよ。私が拾ったもん」
「ずるいーっ! 人類ずるいっ!」
なんというか……うん。見苦しい。
駄々をこねる子供のよう、といえば微笑ましいけれど、ユウギリは竜だ。見た目はどうあれ、竜なのだ。
やはり、この竜は――とても、浅ましい。すべてが浅い。
通路破壊のときもそうだし、看板落としができたこともそう。
ユウギリは邪道を嫌って、後出しでパッチを当てた。
それはつまり、先んじた対応を練らないということ。想定を超える行動を、そもそも考えないということだ。
後出しでいいと思っている。
だから、最初の一回はぜったいに通じる。通じてしまう。
通路破壊が通ったように。
疑似太陽がアダチさんのタフネスを砕いたように。
だったら、初撃で息の根を止めればいい。
それが今回の僕の作戦。
『願い』を悪用して、ユウギリ自身にユウギリを殺させる。
しかし、『竜を殺せない』制約があったので、方針を変えて『僕でも殺せるくらい弱くする』ことにしたわけだ。
要約すると。
「ユウギリ、おまえは人間を舐めすぎた。
考えなしにぺらぺら喋りすぎなんだよ」
薙刀を構えると、ユウギリが卑屈っぽい笑みを浮かべて僕の靴を舐めた。
「ひ、ひひ、命だけはお助けくだされ……!」
「絵面やばいね、お兄さん。全裸のロリに靴舐めさせるとか。
人外のロリババア、なにかしら需要があるんじゃない?」
「僕のほうが舐めるのうまいし、やっぱり無価値では?」
「基準がバグっているのじゃ! 人類こわい!」
失礼なことを言うロリババアは、はっと顔を上げて僕を見た。
「そうじゃ! わらわの知っていることを教えてやる!
竜のことじゃ! なんでも話すぞ! 命を助けてくれるならばな!
わらわにかかる制約はまだ生きておる! うそは吐けんのじゃ!」
「……む」
それは正直、心揺らぐ条件だ。
僕らは竜のことを知らない。情報が少ない。
竜王なる存在のことや、他のダンジョンのことなど、有益なことはいくらでも引き出せるだろう。
「ほらっ! ほらっ! 無害かつ有益じゃから!」
「じゃあ、直近で有用そうな情報を教えろ。僕らに役立つ情報で。
その内容次第では考えてやらんこともない」
「ほんとうか!? じゃったら、ううむ……」
ユウギリは僕の足に絡まりついたまま考え、そして僕を見上げた。
「その、怒らずに聞いてほしいのじゃがな?
ダンジョンが崩壊すると言ったじゃろう?」
「言ったね」
「ダンジョンやコロシアム、集合した村などは、実在する大阪の街をベースに作りあげたものなのじゃが、ほら、地下じゃから……崩壊時はその、地下空間を支えるリソースもゼロになるわけじゃ」
「……うん?」
「じゃから、このままじゃと……おそらく二週間ほどで地下三階層すべて地面に埋まるのじゃ」
……。
…………。
なんて?
イコマは ロリを てにいれた!
なお少なくとも一千歳以上のロリババア(ブザマ系)




