33 『願い』
本日三回更新しているので、ご注意ください。(このお話は三回目)
ユウギリは、見るからに不機嫌な様子だった。
居室にあつらえた玉座にふんぞり返った身長五メートルの竜女は、僕らを睨みつけて唇をゆがめた。
『イコマ……貴様のせいで、わらわの城がこのざまじゃ』
ユウギリは立ち上がり、その威容を僕らに見せつけた。やはり、でかい。
そして、立ち上がれば自然と彼女の顔と僕らの間に、障害物が立ちふさがる。
これは人体構造……竜体か? ともかく、女性の体を持つユウギリが、身長が三分の一程度しかない僕らを見下ろすと、胸部分が邪魔になる。
おそらく等身大サイズでも、ヤカモチちゃんと同等。身長が三倍くらいあるから、バストサイズも三倍。
「お兄さん、下からだとモチモチモチがよく見えるね……!
あんまり見ちゃだめだよ! 私はガン見するけど」
「ずるいぞナナちゃん」
薄紫色のヴェールで体を隠しているだけなので、下から仰いで見る角度だと、ふむ。なるほど。へへへ。
『……貴様ら、わらわのどこを見ておる?
微妙に目線が合わぬのじゃが』
「下乳です」
『そうか』
ユウギリが座った。
ナナちゃんが残念そうな顔になった。
『ごほん。ともかく、貴様はわらわに挑むのじゃろう?
わらわへの挑戦は、剣闘士ルールでの殴り合いじゃ。
そのままではわらわの圧勝になるから、わらわは肉体と剣以外を使用せぬ。
剣闘士らしく、技術と肉体で勝負する。わかりやすかろう?』
とんでもないことを言いやがる。
それってつまり、体長五メートルの巨人と――ひょっとすると、ドウマンみたいに竜の肉体もあるかもしれない相手と戦うってことだろ?
勝てるわけがない。というか、勝たせる気がない。
魔法なしであれば、それこそSランクの戦士でトントンではないだろうか。
『いつ始めてもよいのじゃぞ? 今すぐにでも貴様を踏みつぶしてやる』
「あ、すみません。いったん『願い』の仕様を確認したいのですが」
僕がそう言った瞬間、ナナちゃんが半目になって口を開いたけれど、なにも言わずに閉じた。なんだよう。
『し、仕様……? わらわにできる範囲で、わらわに許された魔法の範囲で望みをかなえるだけじゃが』
「死者蘇生はできないんですよね?」
『できぬ。竜王様に禁じられておるからの』
「アダチさんは他人の治療を願いましたけど、他人のスキルランクアップは可能ですか?」
『可能じゃ。じゃが、わらわのダンジョン内にいるものだけじゃ。大阪より外はわらわの領域ではないからのう』
領域。外には影響できないのか。
ダンジョンボスとして設定されているから、ダンジョン以外には影響できないと考えるべきだろうか。
「竜とダンジョンはワンセットなのだと考えていいのですか?
他の竜を殺してくれ、と頼んでも無理?」
『無理じゃ。竜殺しも禁止じゃ。
それから、言い忘れておったが、ダンジョンの解放も無理じゃ。
きちんと竜退治をしてもらわんとのう』
「無理だと思いますけど、『願い』を増やすのは?」
『無論、できぬ』
なるほど、なるほど。
あごに指を当ててレンカちゃんポーズで考えつつ、最初に考えていた願いを言ってみる。
「いますぐに『自分で自分の首を落として死ね』は通りますか?」
『おそろしいこと考えおるの、おぬし……』
ユウギリにものすごい目で見られた。
『できぬ。さっきも言ったが、竜による竜殺しは禁止なのじゃ。自殺も無理、というわけじゃな』
グリム童話みたいな解決はできないらしい。
ドウマンは三つしか質問できなかったから、こうして質問し放題だと、いろいろ考えられはする。
しかし、自殺作戦が無理だとすると、どうやって勝つか……ううむ。
『はようせい。『願い』ならば叶えてやるし、挑むならば潰すのみじゃ。
めんどうなやつじゃのう、ぺらぺらぺらぺらと……』
ユウギリは目に見えていらつき始めている。
やはり、あまり深く考えないタイプなのだろう。
「すみません、もうひとつお聞かせ願いたいのですが」
『なんじゃ?』
「だれか、他人のスキルランクを下げることはできますか?」
ユウギリはあっけにとられた顔をしたあと、にんまりと笑った。
『ほほう。面白いのう。可能じゃぞ?
して、だれじゃ? 貴様がスキルを奪いたいと企む相手は、どこのどいつじゃ?
イコマよ、つまらん男だと思っておったが、なかなかどうして人間らしい欲求ではないか――「だれかの足を引っ張りたい」とはのう』
「ええ。弱体化させたい相手がいるんですよ。
このダンジョン内にいるものであれば、だれであっても下げられるんですね?
どれくらい下げられますか? いっそ消したりは?」
『は。アダチのタフネスを下げて、今度こそとどめを刺すというのじゃな?
ランクを上げて斬るのではなく、確実に殺すために相手のランクを下げると。
くかか、よいよい。わらわにかかれば、どんなスキルも弱体化可能じゃ。
スキルシステム自体は竜王様の細工ゆえ、消すことはできんが……対象から現実改変リソースを抽出し、スキルをDランクまで下降させて、実質無力化することは可能じゃの』
なるほど。
だれかのスキルを最低限まで下げることはできるのか。
僕はひとつ頷いて、決心した。
「『願い』が決まりました」
『ほう! 言うてみよ! だれのランクを下げるのじゃ?』
「『願い』は即刻叶えていただけるのですよね?」
『当然じゃ』
「竜の言葉にうそはありませんね? 約束していただけますか?
ほかのことはせず、まずは僕の『願い』に集中していただけると」
ユウギリが深くうなずいて、牙を剥いて笑った。
『もちろんじゃとも。貴様が願いを言えば、すぐさま、途端に叶えてやると約束しよう』
僕はにっこり笑って、ユウギリのデカい胸を指さした。
「それじゃあ、ユウギリ。
そのリソースとやらを限界まで抽出して、あなたの『竜種』を含むすべての技術のランクを消え去る寸前まで下降させてください」
イコマ「もしもしゲームルール事務局ですか?」
事務局(また面倒な奴が電話してきやがったな……)




