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悪役令嬢に転生して傍若無人の限りを尽くしたかったけど、空きがないと言われたので極悪聖女を目指します!  作者: 藤谷 要
第八章 さようならお兄様

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主従の誓約

 エルクがクリステルの屋敷を訪れたのは、たまたま偶然だった。


 学院が休みで、一人暮らしの部屋を片付けしていたとき、突然額がじわりと熱を持ったのだ。そのとき、神に誓約した自分のあるじを思い出していた。


 彼女の父親が裁判に負けて、リフォード家は一気に窮地に陥った。兄のアルトフォードを助けると言っていたが、その後どうなったのか常に気にはしていた。だが、いきなり急に彼女に会わなくてはいけないと、なぜか強迫観念のようにエルクを突き動かし始めたのだ。


 同じような衝動が過去にもあった。あのときも急に額がムズムズして、主のクリステルを思い出して気になったのだ。翌日、聖女に憧れを抱く事務員のカミーラとの会話の流れで、彼女の屋敷を遠くから見学することになり、運良くクリステルに食事に誘われた経緯があった。


 今回も、気づけばクリステルの屋敷に再び足を運んでいた。


「お嬢様は、あいにく外出中でして」


 屋敷で対応してくれたのは、以前も会ったことがある女中のマーサだ。いつも愛嬌のある人だったが、今日は明らかに浮かない顔をしていた。


「クリステル様はすぐに戻られますか?」

「いえ、それが」


 口ごもる様子は、何か問題でも抱えていそうな雰囲気だった。彼女の身に何かあったのでは。そう不安を覚えるほどだった。


「私はクリステル様のしもべです。彼女の不利になるようなことは口外しませんので、何かお困りでしたらお聞かせいただけませんか?」


 そこでエルクはマーサからクリステルがマースン伯爵家に一人で出かけたことを知った。


「門前払いをされると思ったので、すぐに戻ってくると思ったんですけど、まだ戻られていないんです」

「それは心配ですね」


 なにしろ相手はアルトフォードを瘴気で洗脳するような非道な相手だ。何をされるか分かったものではない。


「何事もなければいいのですが、警戒は必要だと思います。至急誰か影響力のある方に相談された方がいいでしょう」


 エルクの助言を聞いてマーサは何か思い出したようだ。


「本日お嬢様宛に王子殿下からお手紙があったんです。それに返信用の魔法具の手紙が同封されていました」


 すぐにレリティール王子を思い出した。クリステルとは同級生で、二人の間に親交があっても不思議ではない。


「魔法具の使い方はご存知ですか?」

「いいえ」


 予想どおりマーサは首を振る。


「では、私が殿下にお送りしてもよろしいでしょうか」

「是非よろしくお願いします」


 こうして殿下にも気掛かりな状況を知らせることができた。

 それからすぐにエルクはマースン伯爵家に向かう。大まかな場所はマーサから教えてもらっていた。クリステルの無事を確認できれば、杞憂だと笑われてもよかった。


 馬車ではなく徒歩だったから、目的地の近くまで来たときには汗だくだった。マースン伯爵家を探し始めたとき、立派な屋敷の門前にいた集団に目を留めた。見覚えがあった男の一人は、クリステル宅で会ったウィルフレッドだ。他は彼の部下たちだろうか。みな騎士の制服姿だ。


 騎士の一人が門のドアノッカーを叩き、門番を何度も呼び出しているが、応答がないようだ。エルクは彼らに近づき、名乗って挨拶をした。


「お取り込み中、失礼します。こちらにクリステル様がいらっしゃったと聞いて伺ったんですが、彼女を見かけましたか?」


 すると、ウィルフレッドの顔色が明らかに変わった。


「レリティールに連絡を寄越したのはお主か。私もクリステル嬢の話を聞き、駆けつけたのだ。だが、反応すらないとは」

「無視はひどいですね」


 一般的な良識のある貴族の屋敷では、訪問者を放置するなんて、あり得なかった。使用人なりを雇い、中にいる主人と連絡をつけるようにする。

 しかも今回の相手は、伯爵家より格が上の殿下だ。訪問を無視するなんて不敬だった。


「よし、次に無視されたら門を突破しよう。むしろ良い口実を得たな」


 ウィルフレッドが不敵に笑ったときだ。


「団長、中から何か声が聞こえます」


 騎士の一人が門に直接耳を当てていた。


「誰か言い争っているようです」


 不穏な気配を感じてエルクが息をのんだときだ。

 扉のわずかな隙間から、強烈な光が差し込んで来た。扉の向こうで何か異常な事態が起きている。そう悟った直後、恐ろしい緊張が全身を駆け巡った。


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