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悪役令嬢に転生して傍若無人の限りを尽くしたかったけど、空きがないと言われたので極悪聖女を目指します!  作者: 藤谷 要
第八章 さようならお兄様

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悪女的交渉

「クリステルと申します。アルトフォード様に会わせてください」

「お取次ぎできません。お帰りください」


 これはマースン家の門前での使用人との会話だ。

 予想していたとはいえ、やはり門前払いな対応だった。


 でも、ここで簡単に引き下がるような善良で従順な女ではないわよ。


「あら、いいのかしら? わたくしはアルトフォード様の額にある神の宣誓について詳しく知っているのよ。もちろん、それを解約する方法もね。あなたのご主人にそれを伝えてもらえるかしら?」


 悪女だから、相手の弱みにつけこむのも躊躇わないわ。

 フフンと意味ありげに微笑むと、使用人はわたしの堂々とした態度に戸惑ったようだ。


「少々お待ちください」


 自分では判断できなかったのか、念のために聞きに行き、すぐに戻ってきた。


「旦那様が会って話を聞いてくださるそうです」


 やっぱりね。内心ほくそ笑んだ。

 だって、お兄様に聖魔法をかけたとき、額の紋章が激しく反応していたんだもの。何か加護が働いていると、それで気づいたの。

 お兄様はわたしが望む限り傍にいると誓ってくれた。でも、瘴気のせいで自由を奪われたら、それが叶わなくなる。だからきっと、愛の女神の紋章は瘴気からお兄様を守ろうとしていたと思うの。

 神への宣誓は、誓いを破った場合は恐ろしいけど、それを死守させるために力を貸してくれるから。

 でも、その加護は、お兄様を洗脳している相手にとって邪魔だ。だから、伯爵が興味を持つと思い、話題を振ったのだ。


 すぐに応接室に案内されて、マースン伯爵と対面することになった。

 人払いしたのか、部屋には二人きりだ。訪問者はわたし一人だけだから、脅威はないと判断したのかもしれない。


「マースン伯爵閣下、この度はお会いくださり、ありがとうございます。マスリッド・リフォードの娘クリステルと申します」

「お一人でいらしたのですか? まだ未成年なのにフラフラと出歩くなんて感心しませんな」


 相手の嫌味を笑顔でかわす。


「そういった外聞を気にする必要はございませんの。それにここまでは馬車で来ましたの。この屋敷で何か起きない限り、何もご心配はございませんわ」


 この屋敷でまさか外聞の悪いことをわたしにするつもりはないわよね?


 暗に釘を刺すと、伯爵は小馬鹿にしたように鼻で笑った気がした。

 着席を勧められたので、素直にソファに座る。


「アルトフォードの額に出る紋章について何かご存じだとか」


 向かいに腰掛けた伯爵は、さっそく用件を切り出した。


「ええ、そうです。何かそれでお困りでしたか?」


 もしかして、お兄様の洗脳が上手く行かないんでしょう?

 わたしのわざとらしい嫌味に伯爵は不機嫌を隠そうとしない。


「話すつもりがなければ、お引き取りいただいて結構ですが? 私も忙しいのですよ」

「まぁ、そんなことは言っておりませんわ。心配しただけです。あの紋章は、愛の女神のものでしょう?」

「ええ、そうです。息子について心配ですので、きちんと把握しておきたいんです」


 伯爵はまだ善良な父親のふりをしている。


「お兄様、いえアルトフォード様は誓ったんです。わたくしが望む限り、そばにいてくれると」

「まさか、そんなことまで息子に強制させたのか!?」

「いいえ。愛の女神は、愛のない偽りの誓いを聞き入れるはずはありません。わたくしが裁判の証言に立っていたのなら、閣下は負けていましたよ?」


 結婚式で愛がないのに婚姻を誓約すると、愛の女神によって制裁を受ける。人生をやり直せと、赤子に戻されるのだ。

 この世界で誰でも知っているであろう有名な話だ。


 証拠がないなら作ればいいと決意したとき、この誓約について思い出したの。


 余裕だった伯爵の顔色が、このとき確かに悪くなった。


「それこそ息子の善意を利用しただけだろう。それに裁判は既に終わった。もうやり直しはできない」

「いいえ、愛の誓約がある以上、完全にそうとは言い切れませんわ。ですから、わたくしは陛下が外遊からお戻りになったら、訴えるつもりです。アルトフォード様は瘴気で操られていると。聖女のわたくしを養女にとお考えの陛下なら調べてくださるはずです。サルクベルク公爵家の取調申請は、なぜか却下されましたけどね」


 マクリーナ王女より陛下の後ろ盾のほうが、より強力なのよ。

 自信を持って見据えると、伯爵はわたしを射るように睨みつけてきた。


「私を脅す気か?」


 低く唸るような声を発してくる。威圧してビビらせようとしても無駄よ。むしろ、もっとやってほしいくらい。


「まさか。あなたに後ろめたいものがなければ、何も恐れることはないでしょう?」


 微笑みながら返事をすると、伯爵は怒りの感情をあらわにした。


「わざわざ私に言わずとも黙って陛下に訴えれば良かっただろう。何が目的だ?」

「お兄様を返してください。早く苦しみから解放してあげたいんです。陛下のお帰りを待っている間に万が一魔性化したら嫌だったんです。もし、わたくしの要求をのんでくだされば、閣下がマクリール王女のご命令で瘴気をアルトフォード様に用いたことを黙っています」

「ほう、背後に殿下がいると分かっていたのか。だが、アルトフォードを返したあと、お前が黙っている保証はないだろう。それを契約の神に誓えるのか?」

「ええ、誓いますとも。お兄様を返してくだされば、瘴気を違法に使った罪を決して口外しないと」

「うむ。では、さっそく誓いたまえ」


 悪巧みが上手くいって、思わず悪女らしく笑ってしまった。


「閣下、やっと自分の悪事をわたくしの前で認めてくださいましたわね。しっかり聞かせていただきましたわよ」


 証拠の一つ、入手成功しましたわ!


 実は、アルメリア様からいただいた録音する魔法具をこっそり胸に忍ばせていたの。

 また役に立つなんて、思わなかったけど、本当にすごい便利な道具だわ。


「ふっ、だから何だと言うのだ。早く誓わないと、どんな目に遭っても知らないぞ?」


 伯爵がだんだんと化けの皮をはがして、悪人の本性を露わにする。

 いいわよ、どんどん言って! ばっちり録っているから!


 でも、油断しているとはいえ、ここまで本性を露わにするなんて、伯爵は録音されていると知らないみたいね。マクリーナ王女は自分の失敗話を話さなかったのかしら。


「証言さえ手に入れれば、もうあなたは用済みですわ」


 愛の女神の誓約だけでは、伯爵を追い詰めるには弱いと思ったから、本当によかったわ。


 席を立つと、伯爵も慌てて腰を上げた。


「宣誓もなしに私がお前を帰すと思うのか?」


 伯爵はもう善人の仮面を投げ捨てたようだ。


「まさか、まだ帰るつもりはありませんわ。これからお兄様を助けに行きますから」

「はっ、子ども一人にそんなことが可能だと?」


 馬鹿にして笑い出した伯爵に対して、わたしは余裕の笑みを浮かべる。


「マシロ! お兄様の元に案内して!」


 聖獣を呼ぶと、すぐにわたしの足元から姿を現した。

 マシロは毒や魔物すら嗅ぎ分けるので、探索に向いていた。姿を自由に変えられるだけではなく、隠すことも可能なマシロに屋敷の調査を依頼していた。

 お兄様を探してと。


「コッチ」


 マシロはすでに目的を見つけたようで、部屋の外に向かおうとする。


「待て! 私の屋敷で好き勝手は許さないぞ! 集え、火の力よ」


 伯爵がわたしを取り押さえようと呪文を唱え始める。


「ソウビ、呪文を封じて!」


 ソウビはわたしの手首にレースとして巻かれていたが、命じられた瞬間に伯爵に向かって紐のように伸びたと思ったら、彼の顔に巻きついて口元を覆っていた。


「んー、んん!」


 伯爵は必死にソウビを取り除こうとあがくが、わたしの手首から伸びた白い布はビクともしない。


「ありがとうソウビ。でも、このままではわたしが動けないから、何か別の布で伯爵を拘束してほしいんだけど可能かしら?」

「ハイ、リョウカイ シマシタ」


 ソウビは返事をした途端、さらに触手のように白い布を伸ばし、伯爵の着衣をリンゴの皮を包丁で剥くように切り裂いていく。彼の素肌が露わになるとともにソウビは彼の服を縄のように作り上げ、彼の口に猿轡を咥えさせ、さらに彼の手足までも縛り上げて拘束。

 ソウビはさすがに彼の下着までは加工しなかったみたいだけど、裸の中年男が縛られた格好で床で転がっている姿は非常にシュールだった。


「さぁ、今のうちに行きますか」


 他の屋敷の使用人たちに気づかれる前にお兄様を助けないと。

 部屋を出て、マシロの案内で目的地に向かう。


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[良い点] 心強い仲間達✨
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