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悪役令嬢に転生して傍若無人の限りを尽くしたかったけど、空きがないと言われたので極悪聖女を目指します!  作者: 藤谷 要
第八章 さようならお兄様

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予想外の結果

 それから五日後。わたしは裁判所に行くマーサを見送った。お父様が訴えられた件についてだ。

 わたしは未成年で入れず、お母様は少し調子が悪くて寝込んでいるから、我が家の代表として彼女に参席をお願いしていた。


 裁判は日本のときと違って一回だけで終わるらしい。だから、自分に有利になる証人や証拠を当日までに揃えなくてはならなかった。


 でも、お父様が無実なのは、みんな分かっている。


「きっと相手は子どもを捨てた不名誉な噂を払拭する目的で裁判を起こしたんだろう」


 それがお父様や周囲の大人たちの考えだった。職場の同僚も証言に立つと快く引き受けてくれたらしい。


 お父様が愛情をもってお兄様を育てていたのは明白だし、いざとなれば攫ってないと神に誓えば証明は済むと安心していた。


 何も問題はない。


 でも、相手は非のないお父様を訴えた悪人だ。

 馬車に乗っていたお兄様の様子がおかしかったのもあり、少し嫌な予感がしていたから、早くマーサから安心できるような報告を聞きたいと願っていた。


 夕方ごろ、マーサを乗せた馬車の気配を感じて、慌てて彼女を門まで迎えにいった。


「裁判の結果はどうだった?」


 そう聞くや否や、マーサは真っ青だった顔色をさらに曇らせた。

 みるみる目に涙まで浮かんでいく。


「そ、それが……旦那様が負けてしまわれたんです!」


 マーサは堰を切ったように泣き出した。


「ど、どうして?」


 問題ないと言われていた裁判だったからこそ、予想外の結末をすぐには受け入れられなかった。

 取り乱したマーサだったけど、なんとか気持ちを抑えて説明を始めてくれた。


「裁判所で伯爵は、リフォード男爵が息子を拾って迷子だと届け出てさえいてくれれば、もっと早くに息子の安否を知ることができた。それができなかったのは、リフォード男爵が息子を拾ったと言いつつ攫って自分の子どもとして偽り育てたからと訴えたんです」


「それに対してお父様は、なんて反論したの?」

「アルト様は夜の人気のない橋の下に捨てられていた。放っておけば野犬に襲われるか衰弱して命の危険があった。子どもの親を探して返しても、この子の身が危険だと感じた。さらに子どもの捜索願はないか調べても該当はなかったため、拾った赤子の親になろうと決心したと、事件性はないと旦那様は説明されました」


 それはあらかじめお父様から聞いていたとおりだった。


「でも、伯爵は旦那様がアルト様を実子として届け出た点を追及していました。拾い子なら養子と書くべきだと。旦那様ご夫婦は結婚してから五年も子どもを授からなかった。そんな夫婦のもとに突然子どもが来たのなら、出来心で子どもを自分のものにしたいと思っても不思議ではないと。実子として届け出たことがその証拠だと」

「そんなこと、言いがかりだわ!」


「そうです。だから旦那様は毅然と言い返しました。まず最初に子どもに命の危険があったことを念頭に置いたと。届け出て両親のもとに戻っても、元々この子の両親は事情があって子どもを育てられないと我が子を手放した人間。子どもの幸せを考えたとき、旦那様は自分が育てる方法が一番良いのではないかと思ったそうです。実子として届けたのも、その覚悟の現れで、我が子として育てたことに事件性はないと、きちんとご説明されたんです」


 お父様の言葉に何も問題はないと思った。むしろ誠実な人柄がよく現れている。


「でも、なぜお父様は負けてしまったの?」

「そ、それが……」


 マーサは言葉を詰まらせた。先ほどまで必死に堪えていた感情が再び乱れ始めている。この先に彼女が激しくショックを受けた出来事があったに違いない。


「大丈夫。何を聞いても、覚悟はできています」


 そう伝えると、マーサは決意の眼差しを向けて、再び口を開いた。


「召使い同然な扱いだったと、アルト様から伯爵は聞いたと言ったんです。クリス様が聖女として認められてからは、その世話ばかり任されて王女から護衛を依頼されても断らざるを得なかったとも。アルト様は自分の将来のためにも王女の護衛を受けたかったから無念だったと証言したんです」

「そんな嘘の証言が、本当に通用したの……!?」


 マーサが嘘を言っているとは全く思ってないが、信じられず思わず聞き返してしまった。


「アルト様がサインした証言書を代わりに提出したんです……! もちろん旦那様も信じられないから本人に会わせてほしいと訴えました。でも……」


 聞きながら心臓がバクバクと激しく鼓動している。

 お兄様がそんなこと言うわけないのに。一体何が起きたの?


「アルト様は旦那様と会うのを拒否していると言ったんです。しかも、アルト様は立会人の元で署名したそうです。裁判官も証言していました」

「そんな……」


 お兄様がわたしたち家族を裏切った? そんなの嘘よ。あのお兄様がわたしたちを悲しませるようなことをするわけないわ。

 一体、お兄様になにがあったの?

 嘘の証言をせざるをえない状況に追い詰められているの?

 お兄様になんとしても会わなくちゃ。


「旦那様はアルト様を虐げていないと裁きの神シュリーツロンに誓われ、さらに同僚の方も証言してくださったんですけど……」


「お父様の有罪は確定してしまったのね……」


 お父様の神へ宣誓よりもお兄様自身の証言のほうが裁判官に重く受け入れられたんだ。


「そうなんです……」


 マーサは大粒な涙を流しながらうなずいた。そんな彼女に迷わず抱き着いた。


 あぁ、わたしたちは一体どうなるんだろう。

 底が見えない穴に落ちていくような恐ろしい感覚に襲われていた。


 お父様が誘拐犯となってしまった。罪人となり、懲役刑が下される。仕事だってもちろん首だ。


 ああ、お父様も今すぐに抱きしめたい。きっとわたし以上に落ち込んでいると思うから。


「わたくしが何とかしますわ!」


 お父様が無実なのはわたし自身がよく知っている。だから、まだ諦めていなかった。


「どうやってですか……?」

「お兄様が裏切るわけありませんわ。きっと何か事情があったんです。わたくし、それを探ろうと思います」

「クリス様……」


 マーサが弱々しい視線をわたしに向けてきたので、安心させるように微笑んだ。


 今回は相手の悪役ぶりの方が一枚上手(うわて)だった。裁判で相手がお兄様に証言させるなんて、思いもしなかったから。

 悔しいけど、それは認めるわ。


 でも、悪女を目指すわたしがこのまま泣き寝入りするなんてありえないわ。

 必ず相手をぎゃふんと言わせてやるんだからね!


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